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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
操心術編

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初めての夜の真実


 世界が動き始めた。


 つぐみの取り巻き――少女たちの反論。

 残留貴族の筆頭、フェリクス公爵の官邸侵入。

 女性が優位に立ちながらも民主主義を標榜するつぐみは、仲間たちの意見を決して無視することはできない。今頃は、俺やフェリクス公爵への対応を議論しているんだと思う。

 

 革命の反動でつぐみの独裁に近かったこの国は、大きな波にのまれようとしているのかもしれない。

 そしてその流れの中心にいるのが、俺。今回の議論の発端も、俺が反乱を企てていると疑われたからだ。


 流れが来ている。俺にとって良い方向で。 

 そういう自覚があった。

 

 だが、現実は俺をあざ笑うかのように……新たな一手を突きつけてきた。



 荒い息をしながら、街道を走る俺。

 隣では俺と同じ速度でフェリクス公爵が走っている。


「公爵、どこですか? 詳しい場所は」

「王城外壁東側、大きなカシの木の下という報告だ」


 二人して固有スキルの練習をしているときにその話を聞いたのだ。乃蒼もその場所にいたのだが、彼女はここに連れてきていない。


 現場にたどり着いた。

 幾人もの兵士たちがその場から野次馬を遠ざけるように警備をしている。俺たちはそんな人たちの最後列に立ち、そっと奥の様子を覗いた。


「……嘘、だろ」


 そこには、少女兵士がいた。

 その手に持ったサーベルを腹に突き刺し、まるで割腹自殺をでもしたかのような体勢。息はなく、その肌は赤みを失っている。

 死体だ。

 

 俺のクラスメイトではない。つぐみがこの国で雇った、かつて差別され奴隷として働いていたはずの少女だった。

 あの日、つぐみに反論した少女たちの中にこの子もいた。彼女を信奉する取り巻きの一人だったはずだ。

 俺やフェリクス公爵が〈操心術〉の練習をしていた時にも、何度か監視のため顔を合わせたことがある。


 冷たくなった少女兵士の遠巻きに眺めながら、フェリクス公爵が崩れ落ちた。


「な……なんということだ。私のせいだ。私が腹を切れなどと言ったから、きっとその気になってしまったに違いない。私が……私のせいで……こんな……」

「いや、待ってください。公爵のせいだなんていくら何でも言い過ぎですよ」


 そうだ、公爵は悪くない。公爵はつぐみに文句を言っただけだもんな。

 そもそも本当に自殺なのか?


 たとえば、つぐみがやったとか?

 昨日、つぐみとその取り巻きたちは俺への対応で揉めていた。その後に議論が拗れ、決して埋まらない溝ができてしまったとしたら? その結末が、不穏分子を始末するという……。


 いやいや、それはあまりに発想が突飛すぎる。そもそも死んだのは女の子だ。つぐみが今まで女性を手にかけたことはない。

 だが公爵の言葉だけで罪悪感を抱いて自殺するなんて考えにくい。あれはつぐみに与えた言葉だし、そもそも今の公爵がどれだけ吠えたところでその影響力なんてたかが知れている。


 つまり、真相はこうだ。

 昨日、俺たちと別れたつぐみは、文句を言う取り巻きたちと激論を交わした。その過程できっと、少女たちを叱りつけたり脅したりしたのかもしれない。それを深刻にとらえた本人が、自殺してしまったんじゃないか?


 俺に散々罵声を浴びせてきたつぐみだ。その辛辣なセリフは容易に想像できる。

 腹を切ったのはフェリクス公爵の言葉のせいかもしれないが、それはせいぜい『ゲームや映画』で見た自殺方法を真似た程度の話。その罪は限りなくゼロに等しい。


「…………」


 どちらにしても、そう気持ちのいい話ではないな。

 つぐみはどう思ってるんだろうか? この子は彼女と仲間だったはずだ。どんな経緯があったとしても、心中穏やかではないだろう。

 そう、この兵士の死は誰も得しない出来事だ。


 俺や公爵も、少しつぐみを追い詰めすぎたのかもしれない。


「俺のことで、ここまで大事になるなんて思ってもみなかったです」


 それは、心からの台詞。


「公爵が俺や乃蒼のことを庇ってくれたのは嬉しかった。でも、まさかこんな結果になってしまうなんて……俺は」

「タクミ殿は何も悪くないっ! 元はと言えば、あの女が……」

「……分からないですよ俺。つぐみ、あいつは悪人じゃないんです。今回のことで上手く反省してくれるかもしれません」


 俺は逃げるように死体の近くから離れていった。



 追い詰めたのはつぐみ。

 死に方を言い放ったのは公爵。 

 でも彼女が死に至る流れを作ってしまったのは、俺だ。俺の話題が、何らかの形で彼女を死に至らしめた。


 何がいい流れだ……、何がいい方向だ。

 こんな後味の悪い事態なんて、想定していなかった。


 行く当てもなくふらふらしていた俺は、結局家に帰ることにした。


 俺は悪くない。それは間違いないと思う。

 だけど、この胸のモヤモヤはなんだ? 俺がいなければ、彼女が死ぬことはなかったんじゃないか?

 

「……下条、君」


 そこには、メイド服を着た乃蒼がいた。

 フェリクス公爵の家においてきてしまったが、結局ここに戻ってきたようだ。


 メイド服を着ているのは、彼女がそれを望んだから。

 俺は乃蒼が望めばもっと新しい服を買っても良かったんだが、自分のためにあまりお金を使わないで欲しいと彼女に拒絶されてしまった。結局、買った服は一着だけ。残りは、革命のあおりをうけ余ってしまっている、フェリクス公爵所有のメイド服を譲り受けた。


「つぐみの仲間が死んだ」


 乃蒼も一応はつぐみに虐げられた関係者だ。話しておかないとな……。

 俺は近くの椅子に座り、ゆっくりと心中を暴露した。


「俺のせい、ってのは言い過ぎだと思う。でも俺、絶対あの人が死んだのに無関係じゃない……」

「悲しい、の?」


 乃蒼が苦しそうに胸に手を当てている。俺の落ち込んだ顔に当てられてしまったのかもしれない。


「そうだな、悲しいな。こんなことになるなんて思ってなかった」

「下条君は、悪くない……。公爵さんだって。全部赤岩さんが……」

「そうだ、俺はたぶん悪くない。俺が問いかければ皆そう答えると思う……だけど」


 言われて済むなら、こんな風に考えたりしない。


 決して短くない沈黙が続いた。

 俺も、乃蒼も何かを探るかのように時間が流れていく。


 ふと、乃蒼が俺に近づいてくるのに気が付いた。 


「私、下条君のことが、好き、なの」

「の、乃蒼?」


 俺が、好き?

 何を言ってるんだ、乃蒼は?


「元気に、なってほしい」


 俺と乃蒼は唇を重ねた。


 熱い。

 まるで度数の高い酒を流し込まれたかのような感覚。口が、喉が、そして体全体が熱を帯びていく。何も考えられず、頭がぼーっとしていくような感覚を覚えた。


 俺たちはすぐに唇を話した。乃蒼の顔が近い。彼女の香りが、息が、そして宝石のように輝く瞳の視線を感じた。


「の、乃蒼、急に何を!」

「私、下条君にお世話になってた。大好きな下条君に、いっぱいいっぱい助けてもらった。だから今度は、私が下条君のお世話をしたい……」


 俺から離れる乃蒼。唇の先には俺か彼女のか分からない唾液がこびり付いている。

 乃蒼は俺を誘うようにメイド服のスカートをたくし上げた。少しだけ赤みの差した白い脚。黒のニーハイソックスとガーターベルト。そして、その先の下着が露となる。


 俺も、覚悟を決めないとな。


「俺も乃蒼のこと、好きだった」


 本当は、ずっと自分の中で気が付いてた感情。


「あの教室で、時々話しててさ。ずっと気になってた。乃蒼可愛いし、優しいし。メイド服とか、ガーターベルトとか見て、ちょっと興奮してた。だから俺は、乃蒼とキスしたいからキスするし、それ以上のこともしたいからする。お世話とか感謝とか、そういうのはいいんだ」

「下条君っ!」


 瞳に涙を浮かべた乃蒼は、再び俺と唇を重ねた。


「ん、しも……ううん、匠君。好き、大好き!」

「呼び捨てでもいいぞ。俺だって好きだ!」

「駄目だよ、んっ、あっ、呼び捨て、恥ずか……しい」


 このモヤモヤした気持ちを拭ってくれるのは、彼女の暖かさだけだった。


 俺たちは転がるようにベッドへとダイブした。俺が上で乃蒼が下。

 乃蒼は両手を突き出し、そっと俺の首にその手を回した。


「――抱いて、欲しいの」


 俺は欲望のままに彼女を抱い――


 ごんっ、と何かが腹に当たった。

 

「ごほっ……」


 剣だ。

 興奮し過ぎて忘れていたが、俺は服も着てるし剣をぶら下げている状態だ。ベッドの角に剣が引っかかり、振り子のように骨盤辺りに当たってしまった。

 めっちゃ痛い。


「た、匠君、大丈夫?」

「だ、大丈夫だ、大丈夫だから……」


 痛みで、さっきまでの興奮がどっかに吹っ飛んでしまった。

 そして、剣で腹を刺された少女の事を思い出した。


 ああ、俺こんなことしてていいのか?

 追い詰めたのはつぐみ、言ったのはフェリクス公爵。だから俺には罪がない。そんなことでさ、あの人無視して盛っててそれで本当に……。

 ……ん?


 何かが、心に引っかかった。


「……っ!」


 彼女と事に及ぶことを邪魔され、ある種の賢者タイムのようになっていた俺の脳は、思いのほか冴えていたらしい。

 そのひらめきは、俺に一つの可能性を与えた。


 確認する、必要があるな。すぐにでもだ。


「乃蒼」

「え、えと、下条君。私、何かおかしかったかな? 体が貧相だから、こ、興奮しなかったとか? あの、私、下条君に抱かれて……」

「すまん」


 俺は剣の柄で、彼女の首を強打し気絶させた。こう見えても冒険者の末席に身を置く者。盗賊相手にこんなことをした経験が何回かある。


「すぐ戻る」


 気絶している彼女にそう語り掛け、俺は駆け出した。

 

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