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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
不幸を呼ぶ四人編

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六人で食事

 ある日の午後。

 俺はキッチンへとやってきていた。

 かなり広いスペースを誇っており、その気になれば百人以上の料理を用意することも可能だ。しかしここには使用人を含めて二十人以下の人間しか住んでいないため、多くの大調理器具が棚の中で眠っている、そんな状態だ。


 この厨房を取り仕切るのが、俺たちの胃袋を満たす救世主――乃蒼である。

 猫の絵の刺しゅうされたエプロンを身に着けた乃蒼が、沸騰する鍋の前で番をしていた。


 別に誰かが頼んだわけではない。俺や鈴菜と一緒に狭い部屋の中で暮らしていた時であればともかく、今はこの勇者の屋敷が俺たちの住まいだ。メイドだっているし、彼女たちに頼めば喜んで調理を交代してくれると思う。

 だが、乃蒼はそれをよしとしなかった。


「俺がやろうか?」

「匠君、料理できるの?」

「あまり上手くはないけど」

「私、大丈夫だから。任せて」


 乃蒼は妊娠している。

 お腹だってまだ大きくないし、それほど吐き気も感じていないと思う。

 変に気を使いすぎてしまったか? 乃蒼は掃除とか料理を自分の仕事だと思っていた。心配するのは、つらそうな素振りを見せたときだけでよかったかもしれない。

 まあ俺、そんなに料理が上手いとうわけでもないし。

 

「ねえ……匠君」


 ふと、鍋の中をかき混ぜてた乃蒼が話しかけてきた。


「私、お母さんになるんだよね?」

「不安か?」

「不安も、嬉しさも。きっとそれは、匠君と一緒で……」

「乃蒼……」

 

 俺は乃蒼を抱きしめて、軽くキスをした。

 俺は不安の方が多かった気がするけど、余計なことは言わないでおこう。

 


 食卓に並ぶのは、乃蒼が作った料理。

 シチュー、ハンバーグ、ごはん、サラダその他もろもろ。

 席についているのは、俺、乃蒼、鈴菜、つぐみ、璃々、そして一紗だ。


 俺たちだけで、メイドはいない。

 別にメイドたちを差別しているわけではない。どうやら大統領であるつぐみと一緒に食事することがまずいらしい。以前一緒に食べようとしたのだが、緊張しすぎてあまりに不憫な状態になってしまった。

 まあこの辺りは元クラスメイトである俺たちの特権ということだろうか。大統領といえばこの国の国王も当然。俺も元の世界で総理大臣や皇族と一緒に食事するってなったら、逆に食欲がなくなってしまうレベルだからな。


「いただきまーっす」


 俺の隣に座っていた一紗が大声でそう言った。俺たちもそれに続いていく。

 ゆったりとした黒のカーディガンを身に着けた一紗は、緊張感というものをまるで感じさせない様子でがつがつと料理を食べ始めた。


「匠、ニンジンあげるわニンジン」

「おま、馬鹿、何勝手に放り込んでんだよ」

「間接キス、的な? ドキドキしたかしら?」

「黙れ。じゃあお前にはこのブロッコリーをやろう」

「はああああ? 何それ? あたし肉! 肉! 肉を渡しなさい!」


 厳かな食堂において、なんたる無礼な振る舞いであろうか。俺と一紗、勇者二人のスプーンが空中を交錯する。


「…………」


 鈴菜は俺たちの言い争いなど気にもせず、黙々とご飯を食べている。白衣を身に着け、左手に研究のレポートのようなものを持ちながらだ。

 彼女はいつもこんな感じだ。

 行儀を言えばよくない部類に属するのだろうが、いかにも知的な感じが出ていて様になっている。誰もが自然と、声をかけるのを憚られるほどに。


「匠、そして一紗には国家の英雄として気品を身につけてもらいたいな……」


 ナイフとフォークを使い分けながら、つぐみがそんなことを言った。帰ってきたばっかりなので、まだ軍服っぽい例の大統領コスのままだ。


 食べ方が少し偏っているように見えるのは、おそらくこの世界独特のマナーのせいだろう。

 彼女はこの国の貴族たちをボコボコにしたが、他国にまで高圧的に接しているわけではない。大陸共通の礼儀作法に準じ、時には要人を出迎えるスタイルを見せる必要がある。家の中でもそれが癖になって表れているんだと思う。

 わざわざ、リラックスしろというつもりもない。それはそれでストレスになると思うから。


 その隣には璃々が座っている。

 甲冑を脱いで普通の制服を身に着けている。近衛隊における璃々の役割はつぐみの護衛みたいなものなので、帰宅は彼女と一緒になってくる。

 

 フォークでハンバーグを食べている。

 ふつーだ。

 特にコメントすることはない。


「ミーナさん。これ、あーん」


 普通だ。

 ミーナさんなんてここにはいない。


「……ぷぷっ」


 一紗が声を殺して笑っている。こいつは後で絞める。


「……楽しいね」


 そんな俺たちのやり取りを眺めながら、乃蒼がそんなことを言った。

 彼女はメイド服を着ている。

 メイド服を身に着けているため、傍から見れば給仕か何かのように見えるかもしれないが、れっきとした俺の婚約者だ。

 

「乃蒼、どうしたんだ今日は? いつものことだろ?」

「私の子供も、この中に入れるんだーって思って」


 そう言って、乃蒼はお腹のあたりをさすった。


「乃蒼……」


 そうだよな。

 家族、増えるんだよな。そういえば、子供用の椅子とかあるのかな。まあ、こうして一緒に肉やご飯を食べられるようになるまでは、まだ遥か先の話なんだろうけど。


「乃蒼ちゃんの子供なら肉あげるわ、肉」

「いやお前もうその肉ネタはいいから……」


 そんないろいろな会話を楽しみつつ、今日もつつがなく食事が終わった。


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