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光の勇者、御影新

断っておきますが、別の小説を誤って投稿したわけではありません。

仕様です。

 霊峰富士の遥か地下。その天然の洞窟を本拠地とする、とある団体。

 黒龍教、と呼ばれる新興宗教である。


 僕、御影新みかげ あらたは秘密裏にその組織の調査をしていた。一学生である僕の身にはあまりに重い仕事ではあるが、やらなければならない。

 クラスの女子全員が失踪した例の事件。僕の日常、そして片思いだったあの人を行方不明に追いやったあの出来事を、決して許してはならないのだから。


 運と、実力、そして仲間たちの力に支えられた僕は、とうとう事件の真相へとたどり着いたのだ。

 ここは富士山の地下、教団本部。きらびやかな黄金と龍の石像によって彩られた、荘厳な教会だ。

 その祭壇の中央に、奴は立っていた。

 僕のクラスメイトであり、クラスの女子全員を誘拐した張本人。


 ――下条匠。


 下条匠は制服の上に黄金のローブ、王冠にも似た宝石付きの帽子、銀の錫杖を身に着けている。

 まるで教皇か何かようだった。


「グハハハハッ! 久しいな御影よ! お前のようなひ弱な男が、見事俺様のところまでたどり着けるとは思ってもみなかったぞ!」

「御影君っ!」


 下条の足元には、鎖に繋がれた乃蒼がいた。破れかけた制服から下着が見える。怪我はしていないようだが、痛ましいその姿に僕は胸が痛むのを感じた。


「……下条君、なんてことを! 乃蒼は僕の、そして君のクラスメイトじゃないか! どうしてそんなことを。それに、他の女子たちはどこへやった!」

「クラスメイト、か。グフフ、あの学園はただの学園ではない。我ら黒龍教の神、暗黒龍様を封じるために国によって作られた機関なのだっ!」

「な、なんだって……」

「〈光の巫女〉と呼ばれる一族の末裔たちを集めた学園。その女子たちは特殊な力を有し、生まれながらにして暗黒龍封印の結界を守護している」

「結界を守護? 暗黒龍を……? じゃあ、女子たちは……」


 暗黒龍を崇める黒龍教。

 そいつらに誘拐された、結界を守護する少女たち。

 何が起こったのか、火を見るよりも明らかだ。


「グハハっ! そうだ御影よ! クラスの女子16人は、すでに暗黒龍様への生贄となったっ!」

「……こ、殺したのかっ?」

「偉大なる暗黒龍様の礎となれたのだ、あの世で光栄に思っていることだろうよ。そう、16人目で封印は解かれた。そこの島原乃蒼はもう必要ない。結界が破壊されたおかげで、俺様にも力が流れ込んで来るわ」


 な、なんだ!

 急に、下条の周囲に黒い霧のような物体が……現れて。


「暗黒龍様あああああああああああ! 我に力をっ!」


 突然、下条匠の体に変化が生じた。

 皮膚は黒く、そして爬虫類のような固い鱗が生え。

 背中には、まるで龍のような羽根のない翼が出現した。


「下条……君は……本当に人間か?」

「違うな、御影よ!」


 変身を終えた下条が、まるで獣のように雄たけびを上げた。


「――俺は竜人ドラゴニュート竜人ドラゴニュート下条だっ!」


 ぎゅん、と空気の圧縮される音がした。

 下条匠が、音速を超えるような勢いでこちらに向かってきた。その勢いは僕の目では到底とらえることのできないほど。

 右に、左に、破裂音が聞こえる。下条匠が僕の周囲を飛び回っているのだ。避けなければならないし、逃げなければならない。でも、ただの人間である僕には、どうしようもないほどのスピードだった。


「ほらほら、どうした御影よ。目で追えてないぞ。クラスの女子の生き残り、島原乃蒼を守るのではないのか?」

「……く、くそ!」


 不意に、下条が目の前に現れた。

 腕を組み、不敵に笑う下条は、何を思ったのか突然口を開いた。

 そして奴の口の中が、赤く輝いて……。


「〈ドラゴニック・ブレス〉っ!」

「うっああああああああああああああああああああああああっ!」


 下条匠は、焼けるような熱を持つ赤い息を吐きだした。まるで灼熱のマグマを浴びているかのような恐ろしく痛々しい感触が、体を支配していく。

 逃げることはできた。

 でも、後ろにいる乃蒼を庇うため、退くことはできなかったのだ。


「御影君っ!」

「大丈夫、乃蒼?」

「どうして……どうして私のことを」

「君のことが、好きだから……さ」


 僕のかっこいい台詞に、乃蒼は顔を赤めた。


「グハハ、泣かせるではないか御影よ! ならば島原乃蒼を抱かせたまま葬ってやろう。〈ドラゴニック・ウイング〉っ!」


 下条が翼をはためかせると、周囲に風の刃が出現した。

 圧倒的な数と威力。もう、僕は逃げることも抵抗することもできない。

 でも、せめて……乃蒼だけは……。


「御影くうううううううううん!」


 泣き叫ぶ乃蒼を抱きしめ、死を覚悟した僕。

 

 しかし、いつまでたっても衝撃は襲ってこなかった。

 うっすらと目を開けると……そこには……。


「こ……これは……」


 剣だ。

 光り輝く剣が、僕の前に浮いている。こいつがさっき、バリアみたいなのを出して風の刃を防いだんだ。


「なっ、まさか……その剣は! 一千年前我が黒龍一族を滅ぼした――〈光の剣〉! そ、そんな馬鹿な! 貴様はあの、〈光の勇者〉の直系子孫だと言うのかっ!」


 〈光の勇者〉?

 教団を調べていた時、少し小耳にはさんだことのある単語だ。確か、太古の昔暗黒龍を瀕死寸前まで追い込んだとされる、神話における伝説の人物。彼がいたから、この地の封印は完成されたといっても過言ではない。

 僕がその……子孫?


 ――御影、御影よ。


 光り輝く白い剣から、女神のような美しい声を聞こえる。


 ――我が名はシャイニング、光の精霊なり。


 精霊?


 ――我が末裔よ。我をその手に収め、怨敵を滅ぼすのだ。


 吸い込まれるように、僕はその剣を掴んだ。


 その、瞬間。


 白いマント。

 青い鎧。

 金色の額当て。

 

 制服だった僕の姿が、一瞬にして変化した。 

 これが……光の勇者?


 脂汗を浮かべた下条は、距離を取るように洞窟の天井へと飛び上がった。


「もはや遊びは終わりだ。滅びよ、〈ドラゴニック・メテオフォール〉っ!」


 下条の叫びとともに、天井にいくつもの石塊が出現した。炎をまとうその塊は、まるで大気圏で熱を帯びる隕石のように……落ちてくる。


 僕は剣を振るった。そうすればすべてが終わる、そういう確信があったのだ。

 光の剣は空間を引き裂くような金切り音を発したのち、すべての隕石を破壊した。


「な……馬鹿な! 俺様の最高必殺が……。許さぬ、許さぬぞ……御影ええええええええええええええええええっ!」

「下条うううううううううううううううっ!」


 竜人下条は急速に下へと落下し、僕は光の粒子とともに空中へ浮かび上がる。


 交錯する爪と剣。そして……。

 僕の剣が、下条の体を一刀両断した。


「お……おのれ……おのれええええええええええええええええええっ 暗黒龍様に……栄光あれえええええええっ!」


 けたたましい爆発音を奏で、下条匠の体は爆ぜた。

 残った彼の体は、乾いた灰になって空気に消えていった。


 勝った。

 あんな化け物に勝つだなんて、とてもじゃないけど信じられない


「御影君っ!」

「乃蒼……」


 僕は乃蒼を抱きしめた。


「愛してる」

「僕も」


 乃蒼も僕のかっこいい姿に一目ぼれしたようだ。舌を突き出してキスをせがんで来る。


「……ん」


 不意に、乃蒼が服を脱ぎ始めた。


「の、乃蒼っ! 急に何を……」

「我慢できないよ御影君。私の処女、もらって、くれる?」


 どうやら僕のあまりにかっこいい姿と天才的なキスが乃蒼を発情させてしまったらしい。


 女の子にここまでさせておいて、突き放すわけにいかないよね。

 僕たちは岩陰に隠れ……そして……。



 **********


(フヒ、フイヒヒヒヒヒヒ……)


 御影新は心の中で笑った。


 御影は妄想することが好きだった。

 ある時彼は光の勇者であり、世界をまたにかける大スパイであり、教室に侵入したテロリストを撃退する異能者であった。

 もちろん、先ほどまでの『光の勇者御影VS悪の教祖下条』もまた、彼が思い描いた妄想の一つだ。


「おらっおらっ!」


 現実世界では加藤達也が御影の腹を蹴っている。痛く苦しいその状況で、御影の唯一の希望は妄想することだけだった。

 強く、選ばれしヒーローがヒロインを救う、勧善懲悪ストーリー。ヒロインはもちろん、彼が好きな乃蒼だった。


「う……へへ、乃蒼、乃蒼」


 気持ちの昂ぶりからつい乃蒼の名前を漏らしてしまうこともあるが、そもそも活舌が悪く声も小さい御影なので、誰にもその秘めた想いを悟られることなどなかった。


「止めろっ!」

「…………」


 いじめる加藤、いじめられる御影、止める園田優、傍観の時任春樹。

 そんな当たり障りのない、よくある放課後の日常で。

 変化が生じた。


「……っ」


 床にはいつくばっていた御影は、すぐにその変化へと気が付いた。足元が発光しているのだ。円の中に精密な模様の描かれたその形は――そう。


 魔法陣!

 あまりの光に、御影を含め全員が目を閉じた。


 そして次に目を開けると、そこは教室ではなかった。


「ようこそ、異世界人殿」


 いかにも異世界ファンタジーですと言いたげな、マントや杖をも装備する人々。建物も教室ではなく、白い大理石の柱が並ぶ、地下室。


「なっ!」

「……これは?」

「……はっ」

「……え?」


 こうして、四人は異世界に召喚されたのだった。


ここからが『不幸を呼ぶ四人編』になります。

この小説を前・中・後と三つに分けるなら、前半部分の終わりといったところでしょうか。

長かったですね。

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