仲間割れ
ある日、俺はつぐみに呼ばれた。
つぐみはこのグラウス共和国の大統領。その命令は絶対だ。逆らえば彼女が従える少女兵士たちに強制連行されてしまう。
兵士たちの能力は様々だ。ブレスレットを装備しているから魔法は使用できるものの、迷宮に潜っている一紗には遠く及ばない。俺にすらも少し劣っているレベル。
剣術だって戦争で鍛えてるわけじゃないから、それほど脅威とは言えない。
だが、それはあくまで一対一で戦った場合の話だ。
集団で攻めてこられたら、俺がどれだけ抵抗しても無駄だ。その時は諦めるしかない。
前回、散々ひどい目にあった俺。
学んだので、今回はちょっと対策を練ってみた
そう、友情10連ガチャで引き当てたSSR守護聖獣、一紗だ。
「頼むぞSSR、俺を守ってくれ」
「何よSSRって」
「気にするな」
などと軽口叩きながら沈みがちな気分を盛り上げようとしてみる。
グラウス共和国官邸、執務室。
部屋に入る俺と一紗。
つぐみは俺の隣にいる一紗を見た瞬間、ぴくりと眉を歪ませた。
さすがSSRが効いてるな。
どや? これで俺に手がだせまい。
はははははっ!
「一紗か」
つぐみは深いため息をついた。
「まあいい。この際君も話をきいておいた方がいいだろう。旧王族に関する案件だ」
どうやら、一紗がいるから話は終わり、というわけではなさそうだ。
王族の話? なぜその話題で俺が呼ばれるんだ?
「旧王族の多くは私たち革命派が追放した。人々を……特に女性を虐げた奴らの罪は、君もよく知っていると思う」
まあ、あいつら屑だったからな。追放されたことに関して俺は何も言わないよ。でもそれと俺は何も関係ないよな?
俺と同じことを考えていたらしい一紗が、不思議そうにこう切り返した。
「その話は分かってるわ。あたしだってあのハゲ蹴り飛ばしたし。でも、それと匠がどう関係するのかしら?」
「その男が貴族と内通し、反乱を企てているという話だ」
「はぁ?」
俺が反乱を企てている?
「一紗、お前からもそいつに言ってやってくれないか? 愚かな真似はするなと」
どうやら、つぐみは俺とフェリクス公爵が何か悪巧みを考えていると思っているらしい。
「ちょっと待て!」
思わず、そう叫んでいた。
「俺は確かにお前のことを快く思っていない。フェリクス公爵とも多少は話をしている。でも、だからって俺が反乱だなんて言いすぎだろ?」
「そうやって弱く従順なふりをして、己の牙を隠してきたのだろう? 卑怯者め」
「俺はお前から武器を取り上げられた! 迷宮に潜ることなく、この辺でずっと働いてたんだ。魔法のレベルだってそんなに上がってない。これ以上何を望むんだ! 死ねとでもいうのか!」
本当に、この少女は何を考えているかわからない。今だに革命の熱から覚めていないのではないだろうか?
「俺だって生きてるんだ。死刑とかそういう話をされるなら……ただでは死なないぞ?」
腰の剣に手を当て、眼光を飛ばす。今日は一紗もいるから、この人数相手でも問題ないだろう。
俺のそんな態度を見たつぐみは、それみたことかとこちらを指差した。
「見ただろう一紗。やはりこの男は反抗的だ。今の内にその反乱の芽を摘んでおかなければ、明らかに国家へ害を成す。死刑も考慮するべきだ」
「……なっ!」
やはりどれだけ話をしても平行線か。
俺達の間に一触即発の空気が流れる。
一紗は俺をかばうように前に出た。
俺は剣に手を当てながら背後を確認する。
つぐみは余裕の面持ちで手を振り下ろし傘下の少女たちに命令を下す。
――が。
「閣下」
つぐみ傘下、少女兵士が声をあげた。
「なんだ、早くあの男を捕らえろ。一紗はあとで説得するから問題ない。急げ」
「さすがに、やりすぎではないかと……」
ん?
こいつら、つぐみの言葉に……逆らうのか?
「お……、お前たち、本気でそんなことを言っているのか? この男をかばうなんて、何を考えているんだ?」
「し、しかし、死刑はあまりに重罪です。どうか寛大な処置を」
今度は別の大臣が俺に援護射撃をしてくれた。
「お……お前たち、この前散々話し合ったのに、どうしてそんなことを言うんだ!」
つぐみはヒステリックに赤毛の髪をかきあげた。
「貴様だな!」
「は?」
「貴様が私の仲間をたぶらかしたんだな!」
何言ってんだこいつ?
「いや、落ち着けよ。お前俺がそんなに人望とか話術とかもってると思うか? みんなお前の強引なやり方に反抗してるんだろ。同じ日本人なら頭がおかしいって思うレベルだぞ」
「私は知ってるんだぞ! 貴様が〈操心術〉と呼ばれる固有スキルを持っていて、今日この日のためにあの公爵と結託していたことを! 仲間たちの洗脳をいますぐ解け! 早くしろっ!」
……なるほどな、話は見えてきた。
つぐみは俺のスキルのことを知っていたのか。だから少し疑心暗鬼に陥ってて、反抗的な奴が俺の支配下にあると思い込んでいると。
やっかいだな。操られてない証明なんて難しいぞ。
「俺はそのスキルをうまく使えないんだ。信じてくれ」
「うるさい! やはり男は嘘つきで汚い! あの時追放していればこんなことには……。誰か、誰でもいい、この男を国外に放り出せ!」
つぐみの声に従い、一部の少女たちが動きはじめた。身構える俺達だったが、その動きは第三者によって制されてしまう。
「待たれよっ!」
「ふぇ、フェリクス公爵」
俺達を止めたのは、ヒゲの公爵フェリクスだった。
なぜ公爵がここへ?
王侯貴族のほとんどが追放されたあと、彼は一度も官邸に来たことはなかった。つぐみとの軋轢を避けるためだと思う。
それが、今になってなぜ?
「先ほどから、ずっと話は聞いていた」
迫力のある公爵の声が、しんと静まり返った執務室に響く。
「自らの強引さ、浅はかさをタクミ殿のせいにするのかね?」
「なっ、私は……」
「見たまえ」
フェリクス公爵は周囲を見渡した。この場にいるのは、俺、一紗、そしてつぐみの仲間であったはずの少女大臣や兵士たち。
「決して少なくない人間が、君の意見に反対している。君は国民の支持を受け女性たちが主導する国家を作りたかったはずだ。なぜ仲間たちを裏切る!」
「あの男のスキルで捩曲げられた意見など、聞くに値しない! 大いなる理想をもって、この地で蔑まれてきた女性たちを救う! それが私たちの目的だ!」
「いいかげんにしたまえ!」
フェリクス公爵の怒声が、衝撃となって俺たちの耳に木霊した。
「勇者の屋敷を焼いたらしいね! あそこにいる乃蒼殿の気持ちを考えたことがあるかね? こうして今、かつての級友から言われもない反乱容疑で糾弾されているタクミ殿の気持ちが、理解できないのかね? だとしたら本当に重罪なのは君だ! 君自身なのだよっ!」
「な……な……」
「タクミ殿から聞いたぞ。君たちの祖国では、罪を侵した人間が腹を切って詫びるという話ではないか」
「何の話だ」
「罪人は腹を切りたまえ! そういう話なのだよ!」
公爵がそう言いきった。
この場にいる誰もが、その声に反抗しようとしない。つぐみの仲間であった少女兵士もだ。
「く、なんという、なんということを」
狼狽気味のつぐみは、机から後ずさった。
「下条匠っ、そしてそこの元公爵! 今日はもう帰れ! 忘れないぞ! この屈辱、そしてその愚かな行いを! そしてお前たち!」
つぐみは仲間の兵士や大臣たちを睨みつけた。
「あれほど言ったのになぜわからない! お前たちはまた話し合いが必要なようだ! 今日、この場で議論を始める! 全員この場に残れっ!」
どうやら、話し合いをするらしい。
つぐみの取り巻きたちが、うまく彼女を諭してくれないだろうか?
そんなことを思いながら、俺たちは官邸の外に出たのだった。
旅先でキーボード買ってタブレットにつなげて執筆している作者。
偉い!