近衛隊入隊試験
――女の子になればいいと思うの。
つぐみにそう言われた俺。
男が女になる。すなわち性転換――TS。
それは男の憧れ。
ふわふわぷにぷにの美少女に変身して、友達の女の子やイケメン男とちょっといい関係に!
鏡に映った自分を見てニヤニヤ。かわいい服や下着を着てニヤニヤ。ついでに友達と一緒に風呂や更衣室に入ってニヤニヤ。
最後の方では女である自分を受け入れて、女の子っぽいしぐさを自然に行うように……。
そう。
『女の子になればいい』とか言われるから、そんなことを考えていた。よくわからないマジックアイテムで変身して、ちょっと女の子である自分に戸惑いを覚えながらも頑張って生活していくのだ……なんて。
今の俺は女物の服を着ている。少し長めのスカート、清楚なブラウス、安物のパンプス。下の方も黒タイツに女物のショーツをはいている。
でもそれだけだ。
この長い黒髪はウィッグだし、のどぼとけは襟元のボタンをしめて隠している。そしてブラの中にはシリコンっぽい材質のパット。もちろん、下半身には男の証であるアレも付いている。
要するに女装だ。
TSなんてなかった。
なかった……。
「…………」
俺は泣いた。このような辱めを受けるなどとは……末代までの恥。一紗が今の俺を見たら嬉々として友人たちに言いふらすだろう。絶対に会わないようにしなければ……。
『声でばれるだろっ!』 とつぐみに猛抗議した。そしたらやつはネクタイピンのような金属を渡してきた。パーティ―芸に使えそうな声を変える魔具だ。以前、一紗が迷宮で拾ってきたもの、なんて説明を受けた。
何話前の話だよ! 覚えてねーよ!
もはや璃々から逃げたいのかつぐみをなだめたいのかよくわからない状況だ。俺にとってはどっちも頭を悩ます厄介な相手というわけだ。
というわけで、現状把握。
俺が近衛隊に入り、つぐみの護衛になる。
近衛兵は特に理由もなく城へと入ることができる。つぐみの直属という形になれば、彼女の命令でいろいろな所へいくことになる。つまり、城にいてもいなくても何とでもなるということだ。
俺は城に行きたいときは女装して城へ入り、用事が終われば脱いで屋敷に戻ったり迷宮行ったりする。これで安心(?)なのだ。
なんだか理論が飛躍しすぎているような気がするが、もうどうしようもない。つぐみをなだめながら安全を確保する方法はそれしかないのだ。
ダメだったらダメだったことを口実にして、つぐみに抗議すればいい。
大統領官邸。多目的ホールにて。
かつてのグラウス王国王城であったこの建物は、当時の権力を象徴して無駄に広い。昔は貴族や使用人が多数住んでいたのだが、革命の余波で彼らはいなくなった。
結果、残された大量の部屋は『多目的ホール』とか『会議室』とかいう名目で一般市民に貸し出されている。ここはそんなよくある部屋の一つだ。
面接室、と書かれた部屋の中へと入る俺。
「こ、こんにちはぁ」
別に気弱な少女を演じるつもりはなかったのだが、面接というものは緊張するものだ。ついつい声が上擦ってしまう。
しかしこの変声魔具はすごいな。声だけは完全に女の子になってしまっている。
部屋の中央には椅子が設置されていて、すでに何人か近衛隊志望の少女たちが座っている。
見るからに貧相な少女。
化粧をしている少女。
苛立たし気に髪を弄る少女。
「ウホッ! ウホッ! ウホッ!」
ゴリラみたいな少女もいる。
適当な椅子に腰かけ、ぼんやりしながら時間をつぶす。
あー、足元にすっごい違和感を覚える。この中を見られたら俺はもう終わりだ。死ぬ。絶対隠すぞ!
しばらく待っていると、部屋に一人の少女が現れた。
近衛隊長、柏木璃々だ。
璃々はきびきびとした動きで壇上へと上がった。
はた目から見ると璃々は美少女だ。背もそれほど高くなく、ポニーテールを揺らすその姿は尻尾を振る子犬のようでかわいらしい。
しかし身に着けている甲冑やその表情から抱く印象はきつい少女。実際、俺に嫌悪感をむき出しにしているときの彼女はちょっと怖い。
勇ましく、それでいてかわいらしい姿だ。
「皆さんこんにちは。私は柏木璃々、この近衛隊の隊長を務めています」
挨拶をする璃々。
「私たちの近衛隊は、赤岩つぐみ大統領閣下の近辺を警備し、この官邸周辺の安全を守ることが仕事。この都市、いえ国を守る大変名誉ある職務です。近衛隊を志望される皆さんは、どうかその自覚をもって行動してください」
なんだか偉い人のあいさつみたいなことを言っている。まあ実際璃々はどちらかといえば偉い人なんだが。
そのあとも、そつなく事務的な説明をしていく璃々。
へぇ、ちゃんと仕事してるんだな。
まあ、つぐみが無能な奴を隊長に据えるわけがないか。彼女は彼女で、仕事をきっちり遂行している。暴徒も一生懸命抑えてくれてたしな。
「試験は実技、筆記、面接の三種類を行います。時間になれば担当の者が声を掛けますので、指定の部屋に行ってください」
実技か。
近衛隊は警察のような仕事も兼ねている。腰には剣をぶら下げているし、時には戦いになってしまうこともある。
魔法とか剣とか使って戦うってことか。
おっと、俺は女扱いだから、ブレスレットなしで魔法を使わないように注意しよう。
そして聖剣ヴァイスの力は使えない。あんな立派な聖剣もってたら、職に困る少女って設定が破綻してしまうからな。
なんて完璧な下準備だ。抜かりはない。
…………あれ?
ふと、気が付いた。
魔法を自由に扱えず、聖剣を持たない。もちろんバッジがないから固有スキルも使えない。
そう、この状態を冷静に見つめなおし、俺は気が付いた。
あれ、今の俺……弱くね?
このあとがきを読んでいるラッキーな読者様。
お め で と う ご ざ い ま す!!!!
このあとがきはあなたに幸運を呼ぶ『幸せのあとがき』です。
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※嘘です