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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
エンジェル・フェザー編

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創世神、最後の誤算

 俺たちはすぐにグラウス共和国へと戻った。

 天地を揺らすほどの大災害も、すっかりと止まっていた。エリクシエルが地上侵攻を諦めるという話は、上辺だけでなく本気だったようだ。

 改めて、俺たちの勝利を実感した。


 半ば勝利の凱旋にも近い形で、俺たちは官邸へと戻った。屋敷に戻らなかったのは、ついてくる大衆をそのまま引き入れるわけにはいかないと思ったからだ。


「大統領閣下、勇者殿! ご報告申し上げます」


 官邸へ着いて早々、近衛隊の一人からすぐにそう報告を受けた。

 正直、災害続きで聞かなければならないことは山ほどある。そんなことは分かっているのだが、大勝負をしてきたのだから少しくらい休ませてもらいたいものだ。

 

「マルクト王国の反逆者、ヨーランを捕らえました」

「なんだとっ!」


 その言葉に、俺は疲れが吹き飛んでしまった。

 反逆者ヨーラン。

 隣国のマルクト王国で反乱を起こし、国王を殺そうとした張本人。天界との戦いの過程で起こったこの出来事は多くの犠牲者を生んだ大事件だった。

 天使たちを抜きにすれば、ヨーランは最高の重要人物。なるほど、これは確かに俺たちに報告すべき重要案件。疲れたからと後回しにできる話ではない。


「つい先日のことです。配下の軍人を引き連れ、無抵抗でこちらに投降しました。武器はすべて没収の上、旧貴族の屋敷で軟禁しています。いかがいたしましょうか?」

「…………ここに連れてきてくれ。それで問題ないな、咲、匠」

「ええ、問題ないわ」

「そうだな」

 

 まさか、奴の方からやってくるとはな。もう少しあきらめの悪い男だと思ってたんだが、俺の勘違いだったか?

 しばらくすると、鎖で繋がれたヨーランがやってきた。剣も鎧も兜もなく、ただ簡素なシャツを一枚身に着けただけの軽装だった。

 これなら、万が一にも危害を加えられることはないだろう。


「久しぶりだな、ヨーラン。俺のこと、覚えてるか?」

「ゆ、勇者殿おおおおおおおっ! 俺の話を聞いてくれ」


 そう言ったヨーランは、俺が止める間もなくすでに土下座していた。

 なんだこいつ? もっと粗暴な印象が強かったのだが、さすがに劣勢過ぎて気が弱くなってしまったのか?


「話を聞くって……お前、これ以上弁明の余地なんてあるのか? お前の野心のせいで、どれだけの人が死んだと思って……」

「違うっ、違うんだ。俺じゃない、俺だけど……俺じゃないんだ!」 

「え?」


 泣きながら縋りついてくるヨーラン。あまりに必死なその姿に、俺は自然と耳を傾けてしまった。

 

「あの日、俺ぁは……ミカエラって女に……そう、そこにいる女だ。聖杯って液体をもらったんだ。そいつを飲んだら、急にムシャクシャして……暴力を振るいたくなって。頭ん中がおかしくなっちまった」

「本当か?」


 俺は隣にいたミカエラにそう質問した。


「た、確かにこの方は聖杯を飲みました。しかしエリックとは違い、私は人間が壊れてしまうほどの量を与えなかったはずで……」

「本当なんだ。確かに、他の奴らより効きは弱かったかもしれねぇが……。恥ずかしい話だが、俺って奴は昔から短気で荒っぽい男だった。たぶんだが、他の奴らよりも耐性がなかったんだと思う。いや、すべては俺の心の弱さが招いたことだ……言い訳はしねぇ」

「……な、なるほど」


 もともと悪人っぽい奴だから、耐性がなかったのか?


「だが俺はもう薬の影響は切れた。心から反省している。どうか俺と部下を許して欲しい。殺してしまった命は償えねぇが、せめて……荒れた町の復興を手伝わせてくれねぇか? 俺の魔剣の力がありゃ、他の奴らよりずっと早く建物を直せる。土を耕して、川をせき止めらる。俺はこの世界の役に立ちてぇんだ! 勇者殿、どうか俺にチャンスをくれっ!」


 土下座のヨーランは、涙を流しながらそう訴えてきた。彼の言葉はあまりに真剣で、俺は心が揺らいでいくのを感じた。


「ヨーラン将軍……」


 俺は、勘違いしていたのかもしれない。

 かつて美織がそうであったように、ヨーラン将軍もまた天界の犠牲者だったのだ。たしかにこいつは許されないことをしたが、情状酌量の余地がないとは言い難い。


「な、なあ、ヨーラン将軍、すごく反省してるみたいだからさ、少しぐらい……温情みたいなのあってもいいんじゃないかな?」

「…………」


 目を細めたつぐみが、ゆっくりとヨーランを見下ろしている。そして――


 パチン、と指を鳴らした。


 瞬間、俺が感じたのは風だった。

 閃光のような速さで俺とヨーランの間をすり抜けたのは、月夜だった。


「――誅殺」

「ぐああああああああああああっ!」


 一瞬だった。 

 月夜の短刀がヨーランの首筋を捕らえた。軽装の彼に刃物を防ぎきる術はなく、刃は頸動脈を軽々と切り裂いた。

 血しぶきを撒き散らしながら、地面に崩れ落ちたヨーラン。

 致命傷だった。


「ち、くしょう……もう少しで……勇者を……騙せ……て………………」


 それが、ヨーランの最後だった。


「…………」


 え?

 最後の台詞。

 俺、騙されてたの?


 命令を出したつぐみ、反乱を起こされた咲、そして真っ先に動いた月夜。三人はそれぞれ冷たい目でヨーランの死体を見下ろしていた。


「疑わしきは罰せよ」

「当然よ。反逆者を生かしておいては示しがつかないわ。投降者は裁判を受けさせる決まりになっているけれど、まあ、罪状はわたくしが勝手にでっちあげておきましょう」

「……致し方なし」


 く……黒い。

 この三人、黒すぎる。

 味方でよかった。 

 


 ともあれ、この件以外に目を引く大事件はなかった。

 魔王が死に、天界の侵略がなくなったこの世界は平和そのものだった。人々は魔族と、あるいは交流に来た天使たちと相互理解を深め、さらなる文明の発展を達成することとなるだろう。


 俺たちは、今度こそこの世界の平和と繁栄をつかみ取ったのだ。



 **********


 天界、山頂の大神殿にて。

 

 人類の交流に沸く天界の中で、ただ一人その吉報を快く思わぬ者がいた。

 創世神、エリクシエルである。


「……所詮、天使も神の劣化版ということでしょうか。人類と交流など、呆れて何も言えませんでした」


 正天使ホワイトからの申し出に、エリクシエルは言葉を失った。人類と交流を行いたいと、その機運が高まっていると言われたのだ。

 エリクシエルは言葉を失い、何も言えなかった。しかしホワイトたちはエリクシエルの許可がなくても地上に降り立つだろう。それだけの興味がある、という目をしていた。

 

 天使とは神を真似て作った生き物。そしてその下に人間、魔族、動物がいるのだ。天使が人を対等とみることなど、エリクシエルは想定していない。


 だがそんな機運を生み出してしまったのは、ほかならぬエリクシエル自身。あの日、〈エンジェル・フェザー〉に敗れ、地上侵攻を撤回したことが一番の原因だと知っている。

 だが、そうせざるを得なかった。


 エリクシエルとてバカではない。あそこでわがままを言うことが許されるのは子供だけだ。約束して、不正がばれて、その上で負けてしまって何の言い訳ができるだろうか? そんなことをしてしまっては威厳も糞もない。

 エリクシエルは、その場しのぎの言葉を出すことしかできなかった。


 だが本当は不愉快だった。人間より自分が劣ってしまったという事実が、そして何より入念な未来予知をしていたという不正が……ばれてしまったことが。


「…………ふふ、ふふふふ」


 エリクシルは決断した。それはこの世界を生み出した者として、正当な権利であると思っている。


 文明を、破壊するのだ。

 

 人類の文明がなくなってしまえば、交流などという話はなくなる。崩壊した文明の後に残るのは、知性をなくした汚いサルだけ。そのあさましい姿を見れば、天界の天使たちも改めて理解するだろう。

 天使が上で、人間が下であると。


「…………」


 エリクシエルはその左手にすべての魔力を結集させた。

 その魔法は創世神のみが使える究極の災害魔法。


 メテオロン。


 これは天空を漂う星を大地に叩きつける魔法である。その威力は絶大。大地の三分の二を抉り、その塵が空を覆うことにより草木を枯れさせる。


 エリクシエルとてここまでのことはしたくなかった。この星は彼女が苦労して作り上げた傑作なのだ。たとえ魔王のように気に入らない異物が出てきたとしても、この大地や生き物自体を根絶やしにする気などなかった。


 だがもはやエリクシエルにとって地上は無視できる存在ではないのだ。天使が天使の領分を忘れ、人とかかわりを持とうとしている。皆がミカエラのように愚か者となってしまうことだけは、絶対に避けなければならない。

 

 メテオロンで隕石を衝突させ、魔族と人間を大虐殺する。

 

 生き残った少数の人間だけで、新しい文明を作り出す。それは天使によって正しく導かれた、正当な文明。常に神への畏敬の念を忘れず、天界に従順な神の従僕。

 

 これならば交流を許して良いかもしれない。

 と、エリクシエルは考えていた。


「ふふ……皆愚か者なのです。誰がこの世界の母であるか、今、この手で証明して――」


 証明してみせる。

 と、エリクシエルは言い切ることができなかった。


「……がっ」


 気が付けば、エリクシエルは血を吐いていた。

 魔力を凝集した巨大な黒い槍が、メテオロンの魔法を砕きエリクシエルに突き刺さった。

 恐るべき魔力の密度だ。


 ずずず、っと鈍い音が聞こえる。

 空間を裂くように……黒い闇が出現した。


 そこから顔を見せたのは……幼い女の子。露出の多い黒い服とマントを身に着けた、かわいらしい顔立ちをした人間だった。

 だが……エリクシエルは気が付いた。

 この幼女は……人間じゃない。


「お前……は……魔王」


 かわいらしく愛らしいその顔とは裏腹に、恐るべき魔力を感じる。エリクシエルは知っていた。これほど絶大な力を持つ者は、魔王以外に存在しないのだと。


 エリクシエルは身震いした。認めたくはないのだ。創世神である自分が、魔族の王に恐怖しているなどと。だが神であるエリクシエルは誰よりも知っている。

 魔王が、規格外の最強であると。


「なぜ……お前が……今……さら……」

「勝負の腹いせに大虐殺か? 恥を知れ神よ。戦いとは神聖なもの。たとえ盤上の遊戯であろうと、このような戯言は許されぬ」

「馬鹿な、お前は……死……」

「我は今、異世界にその身を置いている。下条匠とお前との戦いは、我も観戦していた」

「…………ぐ……」

「逝け。それがこの世界のためだ」


 そう言って、魔王はゲートのような黒い空間を閉じた。


 そしてここに残ったのは、傷つき死に絶えるエリクシエルのみ。

 最後に思い出すのは、死に至る始まりであった……下条匠との試合。


 あの時、すべての未来がふさがれた。

 下条匠がいたから、彼の子供が予言書バイブルに載った。

 その未来予知に従っていたから、ゲームに負けて大恥をかいた。

 そこで敗北してしまったから、こうして魔法を使おうとした。

 それを気に入らなかった魔王が、エリクシエルを殺しに来た。

  

 もし、初めから予言書バイブルなど気にしていなかったら? エリックのように、正面から勇者とぶつかっていたら?

 圧勝だったに違いない。


(……私が……間違っていた……)


 後悔に、エリクシエルは涙した。


(やはり……未来は……決まって……いなかったのですね……)


 あの時、未来は決まっていなかった。

 だが、後悔するのが遅すぎた。

 今はもう、未来はただ一つの方向に向かっている。

 エリクシエルの……死へと。



 こうして、創世神エリクシエルは死んだ。

 彼女の死体は数時間後、世話係りの半天使によってすぐに発見される。

 しかし下条匠やホワイトとの確執、敗北時の情緒不安定さ、そして何より他者を圧倒するその強さによって、彼女の死は自殺と結論付けられた。


 天界の民は大いにその死を悲しんだ。しかし時を経るごとにその悲しみも癒され、いつしか彼女のことを口にする者すら少なくなっていった。

 そして、世界に平和が訪れた。



お気づきかもしれませんが、投稿のペースを速めています。

終わりが見えてきたためです。

あと二回の投稿で、この小説を完結させつつもりです。

続編は完結と同時に投降予定です。

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