地上への帰還
怪しい話はノクタの方においてあります。
広場でミカエラと肌を重ね、何とか彼女を生き返らせることに成功した俺。
その夜、俺は天界の宿でミカエラと一緒に寝た。
そして、夜が明けて。
俺たちは、地上に戻ることとなった。
天界、転移門入口にて。
ここは最初に俺たちが訪れたときに着た場所だ。
「では地上までの案内はミカエラに任せよう。よいな」
正天使ホワイト。
以下、数人の天使たちが俺たちを見送りに来た。
敵意は感じない。むしろ仲間を見送るような、寂しさすら見え隠れしている。
「はい、ホワイト様」
五体満足で復活を果たしたミカエラは、今、俺の隣に立っている。未だエリックの件に関する罪が天界では許されていない彼女だ。俺たちとともに地上へと降りることとなった。
「…………」
天界の建物を眺めているミカエラ。
未練か。
「故郷だもんな、寂しいのか?」
「……お別れの挨拶をしただけです。あなたがいれば、寂しいことなんてありません」
そう言って、ミカエラは俺に腕を絡ませた。
昨日の夜、俺たちは誓った。
夫婦になると。
ミカエラは俺の嫁となった。
「あんたたちは、これからどうするんだ? また地上に降りてきたりするのか?」
「我々は戦いに負けた。お前たちの大地を汚すつもりはない」
正天使ホワイトに地上侵攻への未練はないらしい。ミカエラの話を聞く限り、彼はエリックと並ぶほどに天界では地位が高いらしく、副大統領クラスの権限を持っているらしい。その言葉は個人の意見ではなく、天界の総意……とまではいかないまでも多数の意見であるようだ。
「だが……魔王はもうおらぬ。むやみに引きこもっている理由がなくなった今となっては、地上との交流も行うべきだというのが我の判断だ」
かつて一部の魔族と人間が分かりあったのように、今度は天使と人間が交流を重ねるのか。
「きゃー、勇者さまー」
「行かないでー」
「こっちを向いてー」
天使の女の子が、俺の名前の書かれた横断幕を振っている。
広場の件以来、こんな声をかけられることが多くなったような……。
「ふふふ、まさか天界の住人からこのように生き生きとした言葉を聞けるとは。勇者下条匠よ、そなたは本当に英雄なのかもしれないな」
「……はは、冗談よしてくださいよ」
「エリクシエル様は私が説得しておこう。あの方は気難しい方ではあるが、頭が悪いわけではない。地上侵攻のリスクとリターンについて改めて説明すれば、きっと納得してもらえるであろう」
「そんなに簡単にいくものなのか?」
「我らがお前たち人類を好意的に思った。それがすでにリスクとなっているのだ」
そうか……。
あの試合を通して、天界の天使たちも多少心変わりしてくれたということか?
創世神も、仲間たちの言葉を聞いて心変わりしてくれればいいのだが……。
「後日使いの者を地上に派遣する。無論、争いを好まぬ温厚な者たちをだ。我らの友好の証として、どうかよしなに」
「ああ……」
こうして、俺はミカエラの案内のもと……地上へと戻った。
長い長い戦いだった。
巨人が死んで以降ずっと続いていた、天界と俺たちとの戦い。
カードバトルなんて、こんな決着だとは思ってなかったな。
でも……らしくていいかもしれない。
これからの平和な時代を象徴するような……温厚な戦い方だった。これからは剣や矢ではなく、スポーツやゲームで人々が争う……そんな時代になっていくんだと思う。




