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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
エンジェル・フェザー編

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羽根のカード


 ここは天界。

 案内人の導きによってここにやってきた俺たちは、コロシアムのような広場でとある天使に出会った。


 創世神エリクシエル。

 

 実際のところ、俺が彼女について知っていることはそう多くない。

 かつて魔族に敗北したこと。人間の間にエリクシエル教を布教しようとしていること。そのために邪魔な俺たちを排除したいこと。


 まあ、邪魔だというのは理解できる。かなりの聖剣・魔剣を保有する人間の勇者だから、単純な力の意味でもそれなりに脅威。事実エリックを倒してしまったわけだからな。それから亞里亞の宗教の件もあるから、エリクシエル教にとって俺は邪教の神か何かのような扱いなのかもしれない。

 だから俺を敗北させたい。屈服させたい。そう思うのは理解できる。

 

 だが、この回りくどいやり方はなんだ? 

 地上は災害攻めされていた。たぶんピンポイントで俺を狙うようなことはできなかったと思うんだが、それでもしばらく災害が続けば俺だってさすがに音を上げたかもしれない。運悪く死んでしまったかもしれない。

 それを待たずしてここで決戦を行うことに、何の意味がある? 


 エリックのように分かりやすく攻めてきて戦うわけではない。何かこう……上手い具合に誘導しようとしているような……そんな策略のような雰囲気を感じる。

 油断ならない相手だ。


「――さあ、戦いを始めましょうか」


 エリクシエルはそう言って両手を広げた。神を名乗るだけあってその姿はあまりにも神々しく、ありふれたそのポーズもまるで宗教画のように芸術的であり神秘的だった。

 だが、どれだけ人間離れしていても、負けるわけにはいかない。



「俺は……お前なんかに負けないぞ」


 ヴァイスを構え、エリクシエルを睨みつけた。

 十分な気迫を込めて殺気を放ったつもりだったが、そんな俺の様子を見てエリクシエルは盛大にため息をついていた。


「……人間は野蛮で愚か者ですね」

「愚かでも馬鹿でも、無抵抗で殺されるわけにはいかないだろ? ただ、戦う人間以外の命は保証して欲しい。俺が負けたらエリクシエル教に改宗してもいいから」

「ああ……違います違います。この闘技場のような建物を見て、どうやら勘違いさせてしまったようですね」

「……勘違い?」

「私はあなたと魔法や剣で戦うつもりはない。そう言っているのです。あそこに机があって、ミカエラが座っていて、こんなところで戦うはずがないでしょう?」


 戦うつもりはない? いやでもさっき戦いを始めようって言ったよな? えっと、剣や魔法で?

 一瞬、何を言っているのか分からなかった。


「つまり……」


 と、混乱する俺の代わりにつぐみが前にでる。


「ゲームや試合のようなことはするが、戦闘行為は行わない。という理解でいいのか?」

「全くもってその通りです。エリックとの戦いを観察して理解しました。私とあなたが戦うことは無意味です。弱いものをただ倒す、そんな戦いに何の意味もありません」


 別に、弱いと言われて激怒するほど短気じゃない。

 しかし、あまり気持ちの良い答えではなかった。

 自分の頑張りが否定されたみたいで、悔しかったのかもしれない。


「…………」


 すぅ、とエリクシエルは手を掲げた。

 すると――


「うぉっ!」


 突然、俺の手から聖剣ヴァイスが吹き飛んだ。


「きゃっ!」

「あうっ!」

「うおっ!」


 同時に、後ろに控えていた一紗たちの聖剣・魔剣もその手を離れたようだ。


 手から離れた、と言っても剣は地面に落ちただけ。拾えばすぐに使える……が……。


「聖剣・魔剣の元は人間。そして人間を生み出したのは私。できぬことなど何もありません」


 〈千刃翼〉ならなんとかなるかもしれないが、わざわざ敵意を煽っても仕方ない。

 

「脆弱な人間の魔法は言わずもがな。そして――」


 次にエリクシエルは、俺に向かって何かを投げつけた。

 それは、見たことのあるバッジだった。

 かつて貴族たちに渡されたことがある、スキルを使うための宝石だった。


「許可します。使いなさい」


 スキルを、使う?


 俺には〈操心術〉というスキルがある。こいつは相手を言葉で操ることができる。

 もし、これがエリクシエルに効いたら?

 そんなに都合よくいくとは思っていなかったが、もし通用するならすべてが解決する。俺は惹かれるようにバッジを手に取った。


「動くな」


 そう、命令すればそれで終わり。

 普通なら俺の支配下に入って動けなくなるはずなのだが……。


「…………」


 エリクシエルは手を振って、自らの健在さを示した。


「……効かないのか」

「神である私にスキルは無効です。他の天使たちには効きますが……」


 エリクシエルが指を鳴らすと、彼女の目の前に盾が出現した。


「〈アイギス〉と呼ばれる天界の盾です。あらゆるスキルを跳ね返す究極の防具。もし戦争となれば、これを持った天使たちがあなた方を襲うことになるでしょう。スキルを持った異世界人も、天界人の前では無力」


 そんなものまであるのか……。

 魔法も、聖剣・魔剣も、おまけにスキルさえも効かないってことか?


「つまり、あなた方と私では勝負にならないのですよ。物好きなエリックとは違い、私は無駄に汗を流すのが嫌いです」

「じゃあ……お前は何をしたいんだ?」

「天界にふさわしい優雅な戦いを」


 そう言ってエリクシエルは広場の中央を指さした。そこには机と、椅子に座ったミカエラがいる。

 そして机の上には、羽根の描かれたカードが置かれている。トランプの二倍程度の大きさをしたそれは、全部合わせて200枚程度だろうか? 左と右、それぞれ百枚ずつ山札となっている。


「〈エンジェル・フェザー〉、と我々は呼んでいます。有り体に言えばカードゲームですね。あなた方にはこれを用いて、私たちと戦っていただきます」

「……は?」


 熾烈な戦いになるのだろうと、覚悟していた。

 しかしそんな俺の決意は、予想外の方向で裏切られてしまことになった。

 カードゲーム?

 俺たちは、殺し合いをしなくていいのか?


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