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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
神軍編

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千刃翼の完成


 グラウス共和国、首都北にて。

 

 たった二日、歩けばエリックの近くにたどり着けてしまった。多くの兵士を伴った行軍でなければもっと速く歩けていただろう。

 あまりにも……近すぎる。

 

 戦いが始まる前だというのに、俺は震えを隠せなかった。

 テレビもスマホもない、この状況ではリアルタイムで状況を知るのは難しい。首都で避難が始まっているのは知っていたが、まさかここまで身近な出来事だったとは。


 エリックを視界に収めた俺だったが、未だ奴側がこちらに気づいている気配はない。

 ここは道路となっている部分を除き、鬱蒼とした森林地帯だ。その障害物の多さゆえに、姿を隠すにはもってこいだ。

 それでもじっくり目視すれば俺たちの姿をとらえることはできるのかもしれないが、エリックは完全に油断しているように見える。周囲を警戒している様子はない。ただ普通に前へ歩いているだけだ。


 今なら、奴に奇襲できる。

 勝機はある。


「〈解放リリース〉っ!」


 と、何もがむしゃらに〈千刃翼〉を起動させたわけではない。俺には俺の勝算があった。


 乃蒼だ。


 これまで、俺はずっと修行をしていた。気絶すれば乃蒼の力で復活をして、再び聖剣・魔剣の同時起動を試している。

 

 だが、そのやり方では何度やってもうまくいかなかった。前に進むことなくただ失敗を繰り返してしまったんだから、発想を転換する必要があった。


 なぜ、俺は失敗するのか?


 難しい自問自答を繰り返したが、結局のところ気絶してしまうのが一番の原因ではないかという結論に達した。少なくとも俺の意識があるうちは、剣が起動しかけているように見えたからな。

 気絶しないためにはどうすればいいか? 

 

 ここにやってくるまでに、俺は最後の答えを導き出した。


 回復しながら、聖剣・魔剣を起動する。


 ついさっき思いついた方法。何も気絶してから回復させる必要はなく、常に回復させていればいいのではないかという逆転の発想だ。


「乃蒼、言ってた通りだ。少し無理をしてもらうぞ」

「うん」

 

 本当はあまり無理をさせたくはないのだけど、ここで頑張らないと俺たちを含め大きな被害が出てしまう。

 もう……手段を選んでいる余裕なんてないんだ。


 俺はゼオンの〈千刃翼〉を起動し、近くに聖剣を並べた。

 よし、まだエリックは気が付いてないな。


 ……始めるぞ。


「くらえええええええええっ!」


 俺はこれまで修行でやっていた通り、千本に近い聖剣を同時起動させた。


 乃蒼自身の聖剣適正はあまり高い方ではない。何十回もの回復には耐えられない。

 つまり、この方法では回復回数に限りがあるんだ。本当に……賭けの要素はある。


 いった……か?


 一瞬のうちに十数回の気絶と覚醒を繰り返したかのような感覚。しかしその間に記憶が途切れることはなく、聖剣・魔剣の輝きは増していくばかりだった。

 そして、技が放たれた。


 放たれた刃の数は……千、二千、いや六千は超えている。目標は達成だ。


「こ、これは……」


 不意を突かれたエリックだ。この技を避けることができるはずもない。


 もともと自分で受けたがってたんだ。だったら卑怯だなんて文句はいわないよな?


「ぬ、ぬおおおおおおおおおおおおっ!」


 エリックはこれまで見せたことのないような真剣な表情をして叫んでいる。別に必死に能力を使ってるわけではないと思うけど、鬼気迫るものを感じた。

 奴の能力は自動的に発動しているように見えたのだが……さすがにこれだけの攻撃に囲まれて焦ったか? まあ、普通冷静じゃいられないよな。


 俺はすべての聖剣・魔剣から離れ、聖剣ヴンダーを構えた。

 この確率操作の聖剣を使ってエリックから漏れた攻撃をはじき返す。


 案の定、エリックは攻撃をはじき返し始めた。自称五千の攻撃を跳ね返すことができる男。そんな攻撃が俺のもとに帰ってくるわけだから、はっきり言って尋常じゃない。

 気を抜けば俺が死ぬ。

 だが、それでも攻撃が奴のところに届いてくれているのなら、勝機は見いだせる。


 俺に迫りくる聖剣・魔剣の攻撃たち。

 赤、青、緑、黄、色は様々だがいずれも生身の人間にはあまりに重すぎる。まともにくらえば即死の可能性も考慮されるほどだ。


 俺は順調に戻ってきた攻撃を跳ね返した。

 このヴンダーとかいう剣、能力はほぼ自動で発動できる。エリックのように制限はあるかもしれないが、そうなってしまわないように祈るばかりだ。


 すべての聖剣・魔剣の攻撃が、余すことなくエリックへと収束した。

 そして俺は戻ってきたすべての攻撃を、送り返すことに成功した。

 何もかもが、順調だった。

 

 やがて、攻撃が一巡した。

 巨大な力は周囲の道路を完全に破壊し、白い砂埃をあたりに充満させている。

 

 ゆっくりと視界が晴れ、その先には――


「なっ……」


 無傷のエリックがいた。


 効いて、ない?

 馬鹿な。あれだけ聖剣・魔剣の技を叩きこんだんだぞ? 体も残らないほどのダメージを負っていてもおかしくないのに……。

 

「ふっ」

 

 エリックの目が俺を捕らえた。


「ふふ……ふ、ふふふふふふふはははははははははははははっ!」


 笑う。

 何がおかしいのかは知らないが、奴は笑っていた。心底愉快で、楽しそうだといったその様子は、この戦場においてあまりに場違い過ぎた。


「見たかゼオン! 俺は貴様の攻撃を打ち破ったぞ! 俺こそが最強!」


 …………。

 そうか。

 

 ……人は成長する。


 エリックはゼオンを倒せなくて悔しがっていた。だから奴を倒せるようにと、必死に訓練を積んでいたに違いない。

 失敗がエリックを成長させたのだ。俺が聖剣・魔剣の同時起動を完成させたように……。

 

 もはやゼオンの力だけでは倒しきることができない。奴は弱点を克服したのだ。

 俺の努力は……無駄だった。


 お……俺は……奴を喜ばせるためだけに、こんなことをしたのか?

 このままじゃあ……この国の人々が……。


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