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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
神軍編

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料理のお手伝い


 グラウス共和国首都、首都近郊の森林公園にて。

 俺は散歩をしていた。


 といってもこの前のように一人で歩いているわけではない。

 我が家の子犬、モコの散歩だ。


 いつも忙しい乃蒼に代わって何か手伝いができないかと思い、考え付いたのがこのイヌの散歩だった。

 しかしなんだかこいつ、俺のことが気にくわないらしい。散歩をとても嫌がっているように見えた。逃がす気はないがな。


 隙あらば俺の足におしっこしようとするのはやめて欲しい。


 とにかく俺はこのイヌを警戒しつつ、適当に首都近郊を動き回っているのだった。

 

 世界は平和だ。

 和やかに談笑する若者、駆ける子供たちにそれを見つめる老人。まるで日本で見た田舎の休日のような光景が、ここにも広がっている。エリクシエルとか〈神軍〉と、そういった話題を思わず忘れてしまいそうになってしまうほどだ。

 例の『ブレイブ・ゲーム』を遊んでいる子供たちもいる。亞里亞の思惑に乗るのは若干癪だが、オセロやテレビゲームをしているようなものだと思えば気分は悪くない。


 あまり目立ちたくないから、こういう場所では道から外れて歩くようにしている。今回はパトロールではないからな。無理に存在感を誇示する必要もない。


 道なき道(といっても林道のすぐそばだが)を歩いていた俺だったが、不意に騒がしい声が聞こえてきて立ち止った。

 どうやら近所の主婦たちらしい。俺の話題か、と思ったが自意識過剰だったようだ。ここまで聞こえてくるその会話の内容は、俺とは全く掠りもしないものだった。


 どこの世界でも、同じような光景があるものだな。しかもちょうど三人でうるさくしゃべっているあたりが、いかにも姦しいといった感じだ。


「ウチのダンナがねー」


 ……ふむ。

 かつて貴族が支配していた時代、女性は男性の奴隷だった。

 特に貴族ではその傾向が強く、奴隷扱いの少女たちが何人もいたらしい。


 しかしここに現れた異世界人、英雄赤岩つぐみによって革命が成立する。彼女は近代的な男女同権法を成立させ、この世界の女性を救ったのだ。

 まあ余波をくらって俺まで死にそうになっていたのは残念な話だが……。 


 ともかく、そんなわけでこの主婦たちも生活が大いに改善されたはずだ。


「ウチの夫もねー、休日は家で寝てばっかりで」

「共働きなのにー」


 なるほどな。

 まだまだ革命が起こってから日が浅い。つぐみのもたらした数々の改革は、まだ依然として市民たちには行き届いていないらしい。

 働く妻と家事をしない夫。これは現代日本でも時々話題になる案件だ。最近は女性活躍も叫ばれているからな。日本でさえそれなのだから、この世界ではまだ早かったのかもしれない。


 しかし……人は分かり合える。


 異世界人の男性たちよ。どうか俺のようになってほしい。俺は子育てだって手伝ってる、部屋の掃除もした。そして今は乃蒼に代わってイヌの散歩だ。


 待っている! 君たちが俺のようになる……素晴らしい世界をっ!


「時々起き上がって手伝ってくるわよね」

「休日に庭の水やりして、犬の散歩したり自分の部屋だけ掃除して、『どうだ? 俺だって家事を手伝うんだぜ?』ってドヤ顔よ」

「なにそれ~、家事を舐めてるわね」

「下手に手伝ってるだけ腹立つわよね。最初から何もすんなっての」


 ん……。

 ど、どこかで聞いたような話だな? き……きき、気のせいかな?


「暇な時間少し手伝って、すぐに仕事仕事で……」

「トイレ掃除とか洗濯とか、自分の嫌なこと絶対やらないよね」

「大体アイツ、料理したことあるわけ?」


 料理……料理……料理……。

 …………。

 …………。


 ふ……ふええええぇ~。


 こ……断っておくが俺は全く料理ができないわけじゃない。かつてつぐみに屋敷を追われて安アパートで暮らしていた時代、数は多くないものの自分で調理はしたことがある。

 味は……まあお察しの通りだ。決してまずくはないのだが、あまり自信がないから人には出したくない。


 屋敷は人が多い。乃蒼たちが作ってくれる料理もかなりの種類がテーブルに並べられている。この中に一品、俺の作った料理が並べられていたらどうだろう? しかもかなりおいしかったとしたら?

 これだ! すべての料理は難しいから、ここは簡単な料理を時々提供する形にして、俺の信頼を勝ち取ってみせる! この主婦たちのダンナさんみたいに言われないように。


 そうすると問題が出てくる。

 誰に教わるか、だ。


 乃蒼は優しく教えてくれると思う。しかし彼女の手間を増やさせてしまうのは本末転倒だ。


 適当に料理のレシピを見て、練習? 作ったものを誰かに食べさせてみるか?

 しかし、しかしだ。我が家には決して天使ばかりじゃない。見た目は天使のようにかわいいが中身は悪魔な奴らがいるのだ。


 一紗と雫はその典型。俺が料理をしているところを見ただけであれこれ言ってきそうだ。あいつらには絶対感づかれたくない、見つかりたくない。


 他の子はどうか?


 咲は読みにくいが……、食べ物に辛らつなことを言ってきそうで怖い。そういう性格だと思ってる。


 つぐみは大統領で、子猫は一流の酒場で働いていた。こいつらは舌が肥えている。俺の料理が不味かったとして、こっちに面と向かって暴言を吐いたりはしないと思うが、心の中ではきっと残念だと思うに違いない。乃蒼やりんごもこのカテゴリだと思う。


 亞里亞はどんな反応をするだろうか? 『神の料理は神そのもの』とか言い出して何でも食べてしまいそうだ。下手をすると俺の失敗生焼けハンバーグを『神食』だと言い張って信者に広め、食中毒を引き起こしてしまうなんてことも。

 小鳥も似たようなことが起こりそうだ……。信者はいないが何でもおいしい美味しいって感じ。


 陽菜乃、エリナ、月夜、鈴菜辺りは問題ないんじゃないだろうか? あいつらは何でも食べるからな。悪口のボキャブラリーも鈴菜以外は低そうだ。


 この四人に食べさせるとして、肝心の料理はどうするか?

 最悪乃蒼に教わるとして――うむむ、もう少し策を練りたいところだ。


 こうして、俺のお手伝いプロジェクトは始動したのだった。


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