ブレイブ・ゲーム
グラウス共和国首都にて。
俺は公園を散策をしていた。
遊んでいるわけではない……というには少々気が抜けているが、全く私用というわけではない。
つぐみに頼まれているのだ。時々都市の中を歩き回って、人々を安心させてほしいと。それだけで平和が保たれるのだと。
ここに警官が立ち寄ります、と書かれているコンビニみたいなものか? 俺の存在が警察官になっているのだろうか?
普通に歩いているが特に異常は見られない。いつも通りの、人の多い平和な公園だ。
時々拝んでくる奴がいるがそいつらは無視だ。
「む」
子供が二人、何かの遊びをしている。
ボードゲームのようだ。
あっ、あのボードに描かれた文様は……〈勇者教〉のシンボルマークじゃないかっ!
〈勇者教〉。
言わずと知れた、俺を神と崇める謎宗教。教祖亞里亞があの手この手で広めてしまった困った集団だ。時々俺を拝んでくる奴はその関係者だ。
俺はこれまで奴らがやってきた悪行を思い出す。
水をワインだと言い張ったり。
パクリ絵で信者を集め。
俺が失明を治したとか言って客寄せ。
ふう、頭が痛くなる。あんな子供にまで奴らの魔の手が……。
「ゼオンー」
などと、子供たちが楽しそうに言った。
ゼ……ゼオン?
なんなんだあの遊びは? 魔族と何か関係があるのか?
き……気になる。どんなものなのか聞いてみたい……聞いてみたい……が。
俺はこれまでの〈勇者教〉が関わってきた悪行をふたたび思い出した。
……今度は大丈夫なんだろうか? 俺が右の頬をぶたれたりするのか? それとも石を投げたりするのか?
もうなんだって覚悟はできてるぞ!
よし、子供たちに話しかけよう。
「ちょっとお話いいかな?」
「何ですかお兄さん」
「このボードゲームは何なんだい?」
「お兄さん知らないの? 最近教会の人たちが配ってくれてるおもちゃだよ? 『ブレイブ・ゲーム』っていうんだよ? 勇者様の活躍をもとに作られたゲームなんだって」
ほー。
どうやら、〈勇者教〉は俺の活躍をモチーフとしたゲームを作っているらしい。
ま、まともだ……。変に主義主張を押し付けずゲームに落とし込んでいるあたりは及第点といったところだろうか。
いや、俺がそんなものの主役になってしまっていいのかという疑問は残るが、少なくとも多少なりとも活躍したの事実だ。神のように崇められるのは嫌だけど、本が出たりゲームが出たりとか……多少はね。
俺はしばらく子供たちが遊ぶところを見学していた。
将棋のようなものかと思ったが、シミュレーションRPGにも似ているかもしれない。各駒がそれぞれ攻撃に特性を持っており、様々な攻撃方法で敵を減らしていく。
駒にはそれぞれ彫刻みたいなものが彫られいる。が、廉価性を重要視したのかそれほど精巧ではない。駒の区別はつくが、知らない人間にはどれが何の役割なのか分からない。そんな程度だ。
「おにーさんもやる? こんな時間に公園歩いてるなんて、暇なんでしょ? 無職なのかな」
と、子供の一人が俺に語り掛けてきた。
どうやらこの子供たち、俺のことを知らないらしいな。今のセリフを某宗教の狂信者たちが聞いたら八つ裂きにされるぞ。逃げろ。
「やりたいんだけど、俺はそのゲーム初めてなんだ。悪いけど、いろいろと教えてもらえるか? まずは、その駒についてかな?」
「うん、分かった!」
素直な子供は元気よく頷いてくれた。
そして、駒を一つ指さした。
「これがゼオン! どんな駒でも一撃必殺」
剣の形をした駒。心なしか、プレッシャーを感じる。
「イグナート! 空を飛んで三マス以内を自由に移動できる」
悪魔っぽい翼の彫られた駒。
「マリエル! 正面の駒の能力をコピーできる!」
毛皮っぽい模様の彫られた駒。
「レオンハルト! 近くの魔族の攻撃力アップ!」
金色の駒。まあこれは何となく分かってた。
「教皇! 無能、捨て駒!」
きょ……教皇。なぜおまえがここにいる! 今まで魔族陣営の流れだっただろ! フェリクス公爵すら出てこなかったんだぞ。
まあ、亞里亞の中ではきっとダントツで最下位なんだろうな。
「次はこっちね」
そう言って、隣の男の子が俺の肩を叩いた。
どうやらこのゲーム、魔族(教皇含む)陣営と勇者陣営で争うものらしい。将棋やチェスト違って対戦相手の駒が異なるのだ。
「シズク! 三マス先を攻撃できる」
弓の駒。
「リンゴ! 魔法で自分の周りを攻撃!」
杖の駒。
「カズサ! どんな敵でも一撃必殺」
剣の駒。ゼオンと能力被ってるぞ?
「ノア! 死んだ仲間を生き返らせる!」
薬の駒。再生薬で治療してることになってるからね。
と、これで駒は全部か?
…………。
いや、待て。おかしいぞこれ。
なぜ俺の駒がないんだ?
「えっと、勇者の駒はないのか? 召喚に特別な条件がいるとか?」
と、俺は自分の駒を探した。すると、公園の芝生にそれらしき駒が落ちているのを見つけた。
白い剣の彫られた駒。ヴァイスに似ている。
きっとこれが俺の駒だ。
「お、ここに勇者の駒が落ちてたぞ? 死んだのか? 定位置はどこだ?」
「ダメダメ、ダメだよお兄さん。タクミは使用禁止!」
「え?」
お……俺の駒? 使用禁止?
あ……亞里亞。このゲーム俺がいないもの扱いされてるんだが……。
別に神とか勇者とかちやほやされたいわけではないが、要らない者扱いでハブられてるのは地味にショックだ。
「な、なんで俺……じゃなかったタクミの駒は使用禁止なんだ?」
「「強すぎるからっ!」」
と、二人の子供が声を重ねた。
「〈復活〉で何度でも生き返れる。タクミの駒は死なないんだ」
「〈世界創世〉って技で盤上の敵駒を半分死亡状態にできる。複数同時に駒を死亡させるのはタクミだけ。こんな相手に勝てるわけないよ!」
「タクミを入れるといつも勇者側が勝っちゃうよね」
「…………」
亞里亞。俺の強さを盛りたかったのは分かるが、ゲームなんだから多少は手加減してやれよ。
その後、俺は子供たちが遊ぶのを見学しつつ、何回か対戦もさせてもらった。
俺の駒を除けばゲームバランスも整っており、なかなか面白いと思った。
なお、『ブレイブ・スポーツ』とかいう野球みたいなゲームや、『ブレイブ・カード』というトランプみたいな遊戯まであるらしい。もちろん俺にちなんだネーミングがいろいろと……。
俺が日常を侵食していく恐怖。
それでいいのか〈勇者教〉?
少し海外に旅行に行ってくるので更新が遅れるかもしれません。




