MAZOKU VS アメリカ軍
ここは現代の地球、日本。
魔族によって関東を支配されたこの地に、今、一筋の光が差し込もうとしていた。
横須賀湾沖合に展開する艦隊、そして基地周辺に群がる爆撃機。
ジョン・ローラット大将率いるアメリカインド太平洋軍である。
その旗艦――ブルーリッジモニタールームにて。
「第三階層迷宮男爵、鋼鉄のノイラート君だったか」
部屋の隅、椅子に固定されて拘束されたその男に、ローラットは語り掛けた。
第三階層迷宮男爵、鋼鉄のノイラートである。
MAZOKUとの戦いはここが初めてというわけではない。今も静岡、山梨あたりでは激しい戦闘が繰り広げられている。
その激戦で倒した魔物は数知れず、そして隊長格とされるMAZOKUを倒したのはこれまで三回。
中でもこの『鋼鉄のノイラート』は、世界で初めてアメリカ軍が捕らえたMAZOKUの捕虜であった。
「くっ……殺せ」
「君には道案内をしてもらわなければならない。その要求は却下する」
生体改造を施されたMAZOKUは、たとえ生身であっても魔法と呼ばれる異能の力を扱うことができる。この攻撃を防ぐため、ノイラートには研究者が開発した特殊な薬剤が塗布している。これで魔法は使えず無力化することができる。
「MAZOKUの長、魔王は東京にいる。それで間違いないのだな?」
「ああ……行けるものなら行ってみろ。人間ごときが……我々に敵うと思うなよ」
「…………」
MAZOKUは生体改造を施された人間、とアメリカ軍は理解している。
彼らがどこから来たのか、どうやってその技術を身に着けたのか、背後にいるのは誰なのか?
謎は多い。
だが日本がこうして窮地に陥っている以上、この地域に影響力を持つアメリカが無視することはできないのだ。
ローラットは状況を把握するためモニターに目を向けようとした。
その瞬間、船が揺れた。
「……これは」
モニターに写されたのは、巨大なイカ。
クラーケンだ。
どうやら海の下に潜り爆撃を回避したらしい。
全長は巨大なビルにも匹敵するその巨体。その脚から繰り出される攻撃は、巨木で叩きつけられるのと同等の威力を秘めている。
いかに最新鋭の艦隊であろうとも、その一撃をくらってしまえばただではすまなかっただろう。
だが――
ドン、という衝撃とともに水しぶきが上がった。
魚雷だ。
艦隊からの攻撃によって、クラーケンの体を完全に粉砕した。
「見たかねノイラート君。君たちが仮に人間でないというなら、これが人間の実力だと申し上げておこう」
「くっ……」
ファンタジー世界の魔物など、所詮はこの程度。
周辺海域、並びに横須賀基地の掃討が終了したのち、上陸部隊による進軍が始まる。ローラットはこの船で各隊に適切な指令を与えるだけだ。
勝利は揺るがない。
「むっ……」
ローラットは異常に気が付いた。
前線の船より送られて来た映像。モニターに写される、その姿。
空爆によってクレーターだらけとなったそのふ頭に、一人の男が立っていた。
「サムライ?」
その男は侍のような恰好をしていた。
「ぜ、ゼオン様っ!」
ノイラートが叫ぶ。
「ゼオン……」
ローラットはその名前に聞き覚えがあった。
ゼオン。軍の間では『ソードマスター』というコードネームで呼ばれる敵。
MAZOKU軍にその人ありと言われた幹部である。未知の兵器――聖剣・魔剣を操る実力者であり、直接報告はないもののこれまで多くの被害が推測されている。
曰く、空に向かって放たれた雷の刃。
曰く、突然大地に出現した地割れ。
曰く、突如として降り注いだ雹。
陸海空、いずれの領域にも進出するこの謎の攻撃は、MAZOKUが好んで使う魔法に比べけた違いに威力が高く、これまで日本・アメリカ軍を大いに悩ませてきた。
これらはみな魔族の未知の兵器――聖剣・魔剣によって引き起こされた事象である。自然災害にも等しいこの一撃の詳細を探ることは、この戦争における重要な目標である。
聖剣・魔剣、そしてゼオンという単語は、CIAが魔族関係者――加藤達也の仲間から聞き出した情報である。直接戦闘を行うのはこれが初めてだ。
「Huh? 一人でのこのことこの激戦区に現れるとは……、自分がスーパーマンにでもなったつもりか?」
確かに、ゼオンは強いかもしれない。
だがここには艦隊がいる。爆撃機は周囲を旋回し、時間をおいて戦車や歩兵も進出予定だ。たとえ聖剣・魔剣を使えたとしても、ただの一人でどうにかできる状況ではない。
モニターを凝視するローラットはあることに気がついた。ゼオンがあるものを持って構えているのだ。
「ソード?」
聖剣・魔剣とは敵の兵器を表す名前だ。報告に上がるような巨大な力を操る兵器が、あんなただの剣のように小さいはずがない。
だとすればあれは小型の銃か何か? 指揮棒? あるいは本当にただの刃物か。
いずれにしても、艦隊を目の前にして持つようなものではない。
次に、ゼオンは大きく振りかぶった。
「素振り……スイング?」
ローラットにはそう見えた。
周りには誰もない。なのにゼオンは剣を振り下ろそうとしているのだ。これは素振り、日本の剣道などでよく見られる練習光景だとローラットは理解した。
「HAHAHAHAHAHAっ! あのゼオンとかいうMAZOKUは、ここで剣のトーレニングがしたいらしい。クレイジーだ!」
「あ……あれは……」
笑うローラットを置いて、MAZOKUノイラートの深刻な声が響く。
「SHIN……KAI?」
ローラットがゼオンの唇を読んだ、その瞬間。
光が爆ぜた。
その日、横須賀の海が割れた。
刀神ゼオンが放った〈真解〉はその威力を十二分に発揮し、海底が露出するほどの一撃を放った。
そのすさまじい衝撃はハリケーンのように艦隊を直撃し、避けることはできなかった。
艦隊は壊滅した。
もう一はアメリカ軍の話が続きます。
区切りが悪いので。




