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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
黄昏編

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342/410

黒の虫


 町を襲う半天使たちを追いかけていた俺の前に現れた、忍者風のおっさん。

 黄泉、と名乗るこの男は俺を邪魔した上に、俺を殺すと豪語している。


「お前、魔族じゃないよな? たぶん天使でもない。どうして俺の邪魔をするんだ? 早くしないと、あの天使たちが町を……」

「…………」


 どうやらあまり話をしてくれるタイプの敵ではないらしい。

 俺も時間がない。こんな奴と悠長に話をしている暇なんてないほどに。


「〈白刃〉っ!」


 躊躇している暇はない。

 俺は男に聖剣の技――〈白刃〉を放った。


「……っ!」


 避けられた?

 さすがに殺してはまずいと思って足のあたりを狙ったのだが、こうも鮮やかに避けられてしまうとは……。〈白刃〉って相当な速度だぞ?

 人間もなかなか侮れないな。舐めてかかってたら殺されてしまうかもしれない。


 俺は警戒を強めた。

 謎の男――黄泉はそんな俺の警戒を知ってか知らずか、近づいてくる気配はない。片手で小刀を構えたまま、そっと懐からあるものを取り出した。

 それは、黒い色の液体が入った瓶だった。

 煙幕? いや……まさか毒か?


 脳裏によぎった、つい先日の暗殺未遂事件。

 忍者が暗殺者なんてできすぎてて苦笑いしてしまうが、もし、この男が例の事件の犯人だったとしたら?

 この男はエリクシエルの協力者か? 〈黄昏〉とは一体……。


 黄泉は無言のままその瓶を地面に投げつけた。すると中の液体が飛び散り――


「なっ!」


 予想外の光景に、俺は思わず驚きの声を上げてしまった。

 割れた瓶から飛び出した黒い液体は、すぐに煙となって空に舞っていった。しかもその煙は正確に俺の元へと向かってきている。

 

 かつての魔剣ベーゼを思い出して身構えた俺だったが、どうやら予想をはるかに超える現実が待っていたようだ。

 これは、液体でもなければ煙でもない。


 虫だ。


 アリよりも小さな、羽根を持った小さな黒い虫。液体のように密着し、煙のように拡散する。


「――秘薬〈黒虫〉。我ら〈黄昏〉の秘儀をもって逝け、勇者よ」


 遠くからは液体のように見えたその物質は、小さな虫の集合体だったらしい。訓練されているのか、俺のもとへ集まってくる。

 じょ……冗談じゃないぞ! あんな気持ち悪いものにかまれたり刺されたりしたら、それだけで死んでしまうっ!


「〈白王刃〉っ!」


 俺は聖剣ヴァイスの技、〈白王刃〉を放った。

 いくつも重なった光の刃が壁となり、敵である虫たちを倒してくれる。

 と思ったのだが……刃と虫は相性が悪い。奴らは小さな隙間をすり抜けて、俺のもとへまだ迫ってきている。


 ま……まずい。


「ふ……〈炎の大壁ファイアー・ウォール〉」


 とっさに俺が唱えたのは、火の魔法だった。

 高ランク魔法に位置するこの〈炎の大壁ファイアー・ウォール〉は、周囲に防壁のような炎の壁を張り巡らす技である。

 〈白王刃〉のように隙間は存在しない。虫は焼け死ぬはず。


「……嘘だろ」


 確かに多くの虫が焼け落ちて死んだ。

 百匹程度であれば、この方法で十分だったかもしれない。しかしおそらく千を超えるであろうこの虫たちの一部は、炎の壁が到達していないほど遥か上空を迂回して、俺の体めがけて降下をしかけてきた。


 正面からぶつかって焼けた虫は五百匹程度。

 迂回しきれず力尽きた虫は四百匹程度。


 しかし俺の元に迫ってくる虫たちは、まだ二百匹程度残っている。

 

 ヴァイスは効かない。

 魔法は詠唱が間に合わない。

 〈千刃翼〉も間に合わない。


 馬鹿な……。

 こんな、魔族でも天使でもない人間に……俺が。

 死ぬ……のか……?

 

 おびただしい数の黒い虫が迫るのを見て、俺は死を覚悟した。


「うおっ……」


 虫が到達した。俺は剣で薙ぎ払ったり手で振り払ったりしようとするが、こいつらはまるですすか何かのようにこびりつき、俺から離れようとしない。

 肌に、鼻に……そしてやがては口に侵入してくる黒い虫たち。俺は息もできず、瞬きもできず苦しむしかなかった。


 そして激しい痛みとともに、俺は意識を失った。


 ………………。

 ………………。

 ………………。



 *************


 下条匠が虫の毒によって倒れたちょうどその時、この場に現れた者がいた。


 日隠月夜である。


「…………」


 遅かった。

 すべての敵を振り払い、ここまで駆けつけた。だが下条匠はすでに毒によって侵されてしまっている。

 彼は多くの人を救った英雄だ。その死は世界を揺るがし、悲しみの慟哭は天に響くだろう。殺した黄泉はもとより、無関係な月夜とて逆恨みの矛先を向けられるかもしれない。

 

「まだ……」

「もはや手遅れよ頭領。その男は我らの秘薬によって死の境にいる。そして我がここにいる限り、解毒も不可能」


 答えるのは〈黄昏〉の副頭領黄泉。匠を殺そうとしている男。 


「成敗っ!」


 月夜は小刀を両手に構え、黄泉に肉薄した。その動きは電光のように素早く、そして機械のように正確。何の障害もなく敵の急所を突く……はずだった。


「……っ」


 手ごたえは、ない。


 黄泉は月夜の攻撃を避けようとはしなかった。ただ。彼の前に現れた怪しげな人物が、光の魔法を使って刃物を弾いたのだ。


「頭領は知らぬだろうな。彼女たちは天界の使い。我の依頼人よ」 

 

 彼女の前に現れたのは半天使。

 先ほど下条匠たちと争い、町を攻撃すると宣言していたあの天使たちだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] こんな繋がりが。 陰謀が大きく渦巻いてますね。
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