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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
黄昏編

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聖術


 俺は選択を迫られていた。

 ミカエラの主、エリクシエル神に従うか、そうでないか。

 どんな神かは知らない。渡されたパンフレットみたいな冊子もほとんど目を通してないからな。この宗教に関する知識はまったくないと言っていいかもしれない。

 だけど……俺の答えは決まっている。

 

「悪いけど、あんたたちの仲間にはなれない」


 俺はミカエラを拒絶した。


「残念です……」


 俯くミカエラ。本当に悲しそうに見えるのは、おそらく演技ではないと思う。

 

 決して、安易に考えてこの回答を選んだわけではない、昨今の不穏の情勢を見る限り、ここで表面上従うような回答をするのも一つの手だった。

 だが、俺は思った。

 ヨーランのクーデターは失敗に終わった。しかし戦いの過程で多くの人が傷つき、時には死んでいった。

 エリクシエルは、この世界に戦争の種をばら撒いたのだ。

 

「人の命を弄ぶような奴らに、付き合うことはできない」


 それが、理由。

 おそらく他のクラスメイトたちに話をしても、似たような回答が返ってくると思う。


 ミカエラは悲しそうに眉をゆがめながら、少しだけ体を震わせている。俺と敵同士になったことが、悲しかったのだろうか?


 しばらくして、再び顔をあげたミカエラが口を開いた。


「――エリックが攻めてきます」


 と、言った。


「エリック? 誰だそれは。お前の仲間の天使か?」

「我々天使の、そうですね、人間に分かりやすく言えば大将軍とか総大将とかいったところでしょうか」


 つまりそいつは、天界の中で一番の軍人ってわけだな。本人が最強なのか、率いている軍が最強なのか知らないが……。 


「あの人は自分の力に絶対の自信を持っています。そして私よりもはるかに好戦的で、そして恐ろしい敵です。かつて魔族と人間が入り乱れて戦った『聖魔大戦』においても、多くの魔族を屠り、天界一の軍人と自他ともに豪語する存在です」


 聖魔大戦……。

 なんだかすごい単語が出てきたな。そんな奴が攻めてくるとなれば、悲惨な戦いが待ち受けてるかもしれない……。

 でももう戦いは避けられない。裏でクーデターみたいな暗躍される状況と、どちらが悪いのか比較しにくいな。


「戦いになるのか。ミカエラとも戦うのか?」

「命令があれば……」

「そうならないといいな」


 クラスの女子と戦争で戦うなんて、考えたくもない。


「それと、もう一つ聞いておきたいことがある」

「……なんですか?」

「つい最近の話だ。俺たちの料理に毒が盛られた。この辺の警備が厳重になっていることも、それが関係している。心当たりは……あるか?」

 

 毒を盛った真犯人に関して、つぐみはいくつかの仮説を提唱していた。

 そのうちの一つに、ヨーランの謀略説があった。


 ヨーランの差し金であるというなら、こいつらも決して無関係じゃないと思う。現状を考えるなら、一番怪しいと思うのだが……。

 戦争するというならそこで決着できるんだからさっさと犯人を引き渡してほしい。

 ……なんて、都合よくいかないか。戦争になればなおのこと要人を暗殺したくなるよな。


「まさか、私たちの仲間が犯人であると? そんなはずは……」

「本当に、そう言い切れるのか?」


 ミカエラも情報通というわけではないらしい。まあ、異世界に派遣されるような天使だもんな。本当に重要人物なら、そんな仕事は任せないでこの世界に残しているはずだから。


「……ミカエラはどうしたいんだ? 俺たちと戦いたいのか?」

「私は……」

「マルクトでアウグスティン国王を助けてくれたんだよな? 本当はこんな風に争うのが嫌なんじゃないのか?」

「……っ!」

 

 はっとするミカエラ。どうやらこの指摘は図星だったようだ。

 俺の印象ではミカエラは優しい女の子だ。きっと争いなんて望んでないはずだ。


「……それでも、私は」

「ミカエラ……」

「エリクシエル様は私にとって世界のすべてなんです。あの方は天界で劣等生であった私を引き立てて、正天使の称号を与えてくださいました」

「正天使?」

「私は正天使ミカエラ。正天使というのは天界における特別な役職です。日本でいうところの国会議員レベルの名誉と権力があります。私はあの方の信頼に応えなければならないのです」

「こんな風に戦争したり反乱を起こしたり、そんな奴だぞ? 本当に……信頼なんてあるのか?」

「私はあの方を母であり王である思っています。それ以上の侮辱は許しません」


 ミカエラは優しい女の子なんだと思う。


 ただ、それでもなおエリクシエルには逆らえない。

 そこには俺や他のクラスメイトたちにはない、確かな忠誠を感じた。


「それにあなた方は私たちには絶対勝てません。それは仮に下条さんがスキルを使ったとしてもです」

「スキル?」


 最近すっかり名前がでないから完全に忘れていたが、俺には〈操心術〉というスキルが備わっている。これは言葉で相手の心を操ることのできるチートスキルなのだが、希少なバッジがないと使えない。そしてそれを作れる貴族はもう死んでしまったため、もう入手不可能だ。

 ミカエラは俺がスキルを使えると思っているのだろうか?

 

「あなた方の言うスキルとは、私たち正天使の持つ聖術そのものです」

「聖術?」 

「聖術はすべての力の源。魔族の純魔法、あなた方の使う精霊魔法、そしてスキルを含むすべての源流。天界で正天使を名乗る天使たちは、エリクシエル様より聖術の加護を授かります。この力にはバッジは必要ありません」

「…………」


 そんな力を持っているのか? 単純に戦争して勝てる相手じゃないってことか。


「私の聖術は『愛』。私は対象となった人間に愛され、彼らは私の命令を良く聞いてくれます。そうですね、下条さんの〈操心術〉に少し似ています。強制力には若干劣りますが……」

「……ひょっとして、ここに来るとき近衛隊の女の子に使ったのか?」

「ええ……もちろん。皆さん快く道案内してくれましたよ。あっ、安心してくださいね。別に変な副作用はありませんので」


 これは……思ったよりも深刻な事態だな。

 暗殺者とか人間同士の争いなら、近衛隊に警護してもらえば済む話だ。でも魔族級の力や能力を持った敵がいるとしたら、引きこもっていても絶対に勝てない。

 打って出ようにもその『天界』がどこにあるのか分からない。

 俺はいったい……どうすれば……。


 不意に、俺は腰に違和感を覚えた。

 揺れている。

 俺の相棒、聖剣ヴァイスが小刻みに震えていた。まるで何かを伝えるかのように。


 俺は〈同調者〉としての能力を使い、聖剣ヴァイスを実体化させた。こうすれば話をすることができるのだ。


 光が迸り、白い衣の少女が現れる。俺が白き刃の聖女とあだ名する、聖剣ヴァイスの元となった女の子だ。


「エリクシエル……まさかとは思っていましたが……」


 少女はミカエラを睨みつけている。

 この子とエリクシエル、何か因縁があったのか?


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