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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
黄昏編

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旧貴族の自白



 勇者の屋敷、いつもの朝食。

 しかしその中で起こった、謎の体調不良。俺を含め全員が吐き気とめまい、それから頭痛を訴え、体力のない者から倒れていった。

 もう時間がない……。


 俺は最後の力を振り絞って、乃蒼のもとへたどり着いた。


「のあ……」

「たくみ……君」


 乃蒼は意識があった。しかし俺を含め他の全員がそうであるように、毒によってぐったりとしている。


「の……あ……やれるか?」

「う……ん……」


 俺のやろうとしていることをすぐに察知したのだろうか、乃蒼は震える体でこくりと頷いた。


 俺は最後の力を振り絞る。

 持ってくれよ、俺の体っ!


「――解放リリース、聖剣ハイルング」


 聖剣解放。

 俺の言葉とともに乃蒼の体が消失して、手には一本の剣が収まる。

 これは聖剣ハイルングと呼ばれる――乃蒼の聖剣だ。

 かつて刀神ゼオンの忌まわしき魔法――〈剣成〉によって、乃蒼は聖剣にされてしまった。その名残で、彼女は剣になってその能力を使うことができる。


 彼女の力は癒しの力。ケガはもちろんのこと、病気にだって効果がある。


 この力なら……あるいは。


 俺は力を込めて、乃蒼の力を自分に使った。

 瞬間、緑色の風が俺を包む。


「ふ……う……」


 落ち着いてきた。あれほど顕著だった頭痛も、めまいも、吐き気も、そして体のしびれもゆっくりと引いていく。

 一安心、というわけにはいかない。俺の体が良くなっても、まだ周囲で苦しんでいるクラスメイト達がいるのだ。


「時間がない、少し無理をするぞっ! 乃蒼!」


 俺は隣の一紗に駆け寄った。



 その後、俺は聖剣ハイルングの力を使い全員を回復させた。もちろんこの中には聖剣である乃蒼自身も含まれている。

 八~十人癒した程度で息切れてしまうの乃蒼だ。それを超えるこのメンバーを全員癒すのはかなりつらい作業だったかもしれない。でも冗談でも何でもなく命に係わる状況だった。乃蒼もそれを承知で激務に耐えてくれた。


 毒の元は疑うまでもなく朝食だ。

 乃蒼は少食で食べるのが遅かったことにも救われた。

 もしエリナや子猫のように真っ先に食って、真っ先に意識を失っていたら? 

 あるいは俺や一紗がトイレに行ったまま、意識を失ってしまったとしたら?

  

 使い手がいなければ、聖剣は効果を発揮できない。回復の力がなければ、俺たちは全滅していた。

 俺は改めて恐怖に身を強張らせた。

 運が良くなければ、俺たちは死んでいたのだ。なぜこんな事態になったのか、調査しなければならない。


 ここは大統領官邸、執務室。この件で唯一被害を免れたつぐみと、この件について話をしておく必要がある。


 産休の璃々はここにない。本当の意味で、二人きりだ。


「私がいない間に大変なことが起こったな。みんなが無事で……本当に良かった」


 つぐみの声が暗い。自分だけまきこまれなかったことに罪悪感を覚えているのだろうか?


「俺たち、異世界に住んでるんだもんな。食中毒だって注意しないといけない。いや、誰かが毒を盛った可能性も……」

「その件だが……」


 つぐみの静かな声が部屋の中に響く。

 

「旧貴族の一人が……犯行を自白した。魔法革命のせいでその地位を失った、魔法使いの貴族らしい。私と、それから鈴菜を狙って朝食に毒を盛った、と話を聞いている」

「いつ毒を盛られたんだ? 屋敷は近衛隊が警備してるんだろ?」

「旅行の帰り道、門の前でしばらく待たされただろう? あの隙をついて、干しエビに毒液をかけた主張している」


 基本的に、首都の前では軽い入国審査が行われる。

 俺たちはVIP扱いで特別な検査や質問はなかった。しかし特別といってもそれなりの手続きが必要で、少し待たされた記憶がある。

 人は多かった。そして土産は常に監視してたわけじゃない。考えにくいことだが、誰かがあの時……毒を盛ったのか?


「そうか……旧貴族が犯人だったのか。悪い奴がまだ残ってたんだな。平和な世の中で、俺も少し気が緩んでいたのかもしれない。確かにあの貴族たちなら、俺たちを毒殺しようとしてもおかしくないよな」

「本当にそう思うか?」

「え?」


 俺は素っ頓狂な声を上げてしまった。

 つぐみが旧貴族を犯人だと言った。奴らには動機がある上、さっき毒の盛り方まで話をしたんだ。誰がどう聞いてもそいつが犯人だって流れだったはずだ。

 それなのに……どうして?


「どういうことだ? そいつが自白したんだろ? 自分が犯人だって言ったなら、その通りなんじゃないのか? あいつら誰かをかばうような優しい奴じゃないだろ」

「確かに……匠の言う通り。シナリオとしてはもっとも不自然なく、ありがちだ。実際、これまで何度も似たようなことがあったからな」


 大統領としていくつも強権を発動してきたつぐみ。その矛先の多くは貴族たちに、時には俺にすら向いたりしていた。

 似たような暗殺の話はいくつもあったのだろう。それを防いで今を生きているのは、彼女の有能さと人望のなせるわざだ。


「しかしこれほどの大事件だ。死刑は免れられない。それをこうも早く自白するとは……。まるでこれ以上考えるな、調べるなと言わんばかりに」

「…………何か、そいつが犯人じゃない証拠があるのか?」

「あの男の監視は十分に行っていた。交友関係も熟知している。あの男は私を恨んではいたが、危険な毒を入手する方法はなかったはずだ」


 ……毒。

 あの毒は何なんだろう。食べ物に変なにおいや味はしなかった。にもかかわらずあの効果だ。

 毒としてはかなり優秀な部類なんじゃないかと思う。その辺の店で買えるようなものじゃない。

 

「毒はエビに入ってたんだよな。もうそのことは公表したのか?」

「あまり余計な騒動を起こしたくはないからな。関係者には軽い緘口令を敷いている。しかし事が事だ。犯行は大々的に公表して、注意を喚起すべきかと思うが……」

「それ、少し待ってくれないか」

「……?」

「身内が被害にあってこういうことを言うのはちょっと気が引けるけど、あまりダークストン州に風評被害がいかないようにしてほしい。復興に水を差すようなことはしたくないんだ」

「エビの件は伏せて、ということだな。分かった」

 

 つぐみも納得してくれたようで良かった。頑張ってるダグラスさんのことを考えると、この話はちょっときつい。


「匠も注意してほしい。この件にはおそらく裏がある。犯人は捕まったが、まだ終わっていないかもしれない」

「……注意するよ」


 何事もなく、終わってくれればいいんだけどな。

 不安な気持ちを胸に抱きつつ、俺は屋敷へと帰ることにした。


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