王妃様と呼びなさい
咲やつぐみとともに屋敷に帰った俺は、しばらく子供たちと戯れていたが……すぐに眠ってしまった。ヨーランとの戦いやその後の移動を含めて、いろいろと疲れていたのかもしれない。
緊張の連続だったからな。今日からは子供たちの世話をしながら、ゆっくりまったり屋敷の中で過ごしたい。
……いや、子育て舐めてるか俺。あやしたりおしめを代えたり、いろいろ仕事が多いはず。むしろ別の意味で気合を入れなければならない。
「う……うううん?」
などと考えながら目を覚ました俺は、すぐにその違和感に気が付いた。
「あれ?」
暗い……。
確かに俺の部屋は寝るときカーテンを閉めるものの、それほど遮光性が高くないため朝になれば十分明るくなる。鳥の鳴き声だって聞こえたり、隣では嫁たちの寝息があったはず。
だというのにここはいったいなんだ。暗く、冷たい、というか俺はベッドに寝ているわけではなく、床に寝ていたようだ。
やれやれ、あまりの疲労に寝落ちしてしまったのか? 誰か声ぐらいかけてくれてもよかったのに……。
そう思い、俺は体を起こそうとして……気が付いた。
じゃらん、という金属の触れ合う音。
鎖だ。
「は?」
俺は鎖に繋がれていた。
どうやらここは屋敷の地下牢らしい。俺は首と手と足を鎖に繋がれ、牢屋の中に入れられている。まるで罪人だ。
な……なんだこの状況は?
「おはよぅ、下条君~」
色っぽい少女の声が聞こえた。
阿澄咲。
つい昨日、俺と一緒に暮らすこととなった少女。例のクラゲっぽい透けたエロドレスを身に着けている。
嘘……だろ?
「な、なんで俺はこんなところに?」
鉄格子自体の鍵はかかっていなかったようで、咲は牢の中に入ってきた。
「わたくしがあなたをここに閉じ込めたのよ」
「馬鹿言うな。咲の力でここまで俺の体を運べるわけないだろ?」
咲は決して小柄というわけではないが、大して筋肉を鍛えているようにも見えない。一紗や璃々とは違って、運動もできない感じの女の子だ。とても俺の体をここまで運んでこれるようには見えない。
「下条君は知らなかったと思うけど、この屋敷にはマルクトの間者が二~三人勤めているのよ。わたくし専属の〈雌犬〉っていう諜報機関出身の、忠実な部下たち」
「なっ、なんだって? そんな奴らが俺の屋敷に紛れ込んでたのか?」
確かに、この屋敷にいるのは俺のクラスメイトだけじゃない。警備をする近衛隊、鈴菜の助手、乃蒼たちと一緒に働くメイド。他人というのは言い過ぎだが、身内でない者は確かに存在する。
でも彼女たちは一応つぐみを通してここに通えることになっている。それなりに調査はされているはずなのに……なぜ。
「うふふ、身分を洗浄してこの国の人間に偽るの、大変な作業だったのよ? どれだけ大変だったか聞きたいかしら?」
「この屋敷に勤めさせるためだけに、そんな手間を?」
「下条君、あなたはこの国どころか世界の英雄なのよ。わたくしは個人としても、そしてマルクトという国の王妃としてもここを放置できなかったのよ。わかる?」
「……大げさすぎだろ」
でも、少なくとも咲はそう思っているらしい。
屋敷の中に協力者がいるなら、俺をここまで運んでくることはできるかもしれないな。その可能性は考慮してなかった……。
「そ、それで俺をどうするつもりなんだ?」
「こうするのよ」
突然、咲はドレスを脱ぎ捨てた。
咲は俺の目の前で息を荒くし、俺を誘惑し始めた。
……ふう、舐められたものだな。
俺は英雄だ。今まで幾多の困難に打ち勝ち、魔族たちを倒してきた。心も体も、強く成長してきた自信がある。
負けない。
絶対に負けない! 性欲なんかにっ!
しかし一時間後、俺は肉欲に屈してしまう。
……負けました。
迷ったが念のためノクタの方に完全版を置いておこう……。




