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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
マルクト王国編

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321/410

ジャージー州の廃村


 マルクト王国北方、ジャージー州雪原地帯にて。

 ジャージー州は北方のへき地である。北方山脈を超えたその先は、雪と氷に閉ざされた寒冷地帯。人 が住むのに適した場所ではないが、少数民族の集落が点々としている。

 一応は神聖国と領土を接していることになっているが、管理が不十分なため国境もあやふやなままだ。そのため国外逃亡を図る罪人たちの流入が後を絶たない。

 敵対的な原住民、そして盗賊やならず者の蔓延る、治安の悪い州。


 そこに、ヨーラン一派は逃げ込んでいた。

 

「くそっ、クソがっ、クソがッ!」


 大規模な雪崩に巻き込まれ、放棄された廃村。その地を仮の住まいとして、ヨーランたちは休憩していた。

 彼に従う兵士の数はすでに百人を切っている。クーデターで倒された者、見切りをつけて逃亡した者、盗賊たちの戦いで命を落とした者、寒さに耐えられず凍死した者。かつてヨーラン王のもとに勝ち組になるはずだった者たちの……愚かな末路だった。


 レンガ造りの一番大きな家。数人の兵士たちと一緒に、ヨーランはその地で休息をとっている。


「……ちっ」


 ヨーランは激しく地団太を踏んでいた。

 悔しい。

 安易に革命を起こしてしまった自分自身にいら立ちを覚えていた。なぜ、王である自分がこのような境遇に陥らなければならなかったのかと。


 そして何より、寒い。

 体を動かしていないと、寒さで凍えてしまいそうだ。暖を取るための薪は数が少ないため、夜以外は火を起こさないようにしている。


「ヨーラン様」


 外を見張っていた兵士の一人が、部屋の中に入ってきた。頬や服に雪が付いている彼を見ると、改めて自分たちの不憫さが身に染みてくる。


「なんだ? マルクトの追っ手が来たか?」

「いえ、そうではありません。ヨーラン様を訪ねて来客が訪れました」

「来客?」


 このようなへき地に、ヨーランを訪ねる来客?

 不審に思ったが、今のヨーランには追手以外に恐れるものはない。一人や二人、客を相手にして罠にかかったとして、これ以上何を失うというのか?


「……通せ、話は聞いてやる」

「はっ」


 ヨーランの命令に従い、兵士は客を連れてきた。

 一人の女だった。


「………………てめぇ」


 ヨーランはその女に見覚えがあった。

 厚手の毛皮コートは見たことのないものであるが、この女の顔と髪は良く覚えている。

 ピンク色の髪を持つ少女。

 ミカエラ。

 ヨーランに革命をそそのかし、そしていずこかへ姿を消した女。


 彼女の姿を見て、体の芯まで凍えていたはずだったヨーランの……頭が沸騰した。


「てめええええええええっ! ふざけんじゃねえぞ!」


 ヨーランはすぐさまミカエラの胸倉をつかみ上げた。愛剣――魔剣ドルンを首筋に這わせ、いつでもその動脈を切れるように脅す。


「何が革命だ! 何が王になるだ! こんなクソ寒い雪の中で震えてる国王があるかっ! 革命は失敗だ。俺たちゃもう終わり! どうしてくれる!」

「…………申し訳ありません」

「おいいいいいっ! 何とか言ったらどうなんだ!」

「その女はなにも知らんよ」


 と、激昂するヨーランに声をかけたのは、一人の男だった。


「誰だっ!」


 見ると、いつの間にかミカエラの隣に立っていた一人の男が、鋭い眼光をこちらに送り付けている。

 長身の若者だ。

 整えられた黒髪は腰あたりまで伸びる長髪。黒のトレンチコートを身に着けているが、ところどころ露出している体は……比較的細身であるものの、余計な脂肪を極限まで落とした筋肉質の肉体。 

 そしてなにより目を引くのが、その目に装着された眼帯。目を怪我しているのかは知らないが、威圧的な印象を受ける。


 ヨーランは無意識をうちに体が震えているのを感じた。この男は強い。幾多の敵をその手で屠ってきたヨーランをも上回るほどに……。


 止まるヨーランに震えるミカエラ。

 長身の若者はヨーランの手を握り、そっとミカエラから離した。あっけにとられたヨーランは、抵抗することすら忘れてその行動を受け入れてしまう。

 そして――


「制裁っ!」

「……あぐっ」

 

 男は持っていたサーベルでミカエラを殴りつけた。鞘に収まっていたものの、硬く重い鉄の塊。あれほどの速度でその身に受けてしまっては、あざの一つや二つ残ってしまうかもしれない。


「……上官には敬礼しろ愚か者がっ! 貴様それでも誇り高き天界人かっ!」

「はっ、申し訳がございません」


 ミカエラがその手を構えて敬礼する。しかし先ほどの暴力行為が尾を引いているのか、その手は震えていた。

 上官、というからにはこの男、エリクシエル教の関係者なのだろう。

 ヨーランは下手に動かず、二人の様子を眺めていることにした。


「ふん、愚かな女だ。俺も……そしてエリクシエル様もすべてを見ていたぞ」


 びくん、と肩を震わせるミカエラ。


「ミカエラ、貴様は情に流され国王に情けをかけた。王の帰還でヨーラン派は大義名分を失い、共和国が勢いづいた。すべては貴様が引き起こした愚行っ! 恥を知れ、猛省しろっ!」

「……申し訳……ございません」

 

 国王の脱出。

 なぜ、それが起きてしまったのか? ヨーランは自問自答を繰り返した。

 逃亡を見逃した見張りは何も答えてくれなかった。軟禁状態にある咲は見張りたちとは無関係。むろんその時点でグラウスの介入はありえない。


 一見すると無能そうに見えるこの女が、まさか国王の逃亡を手助けしたとは……。

 国王がいなくなったからミカエラが逃げたのだと思っていたほどだ。恨みはしていたが、ここまで状況をかき回されるとは思っていなかった。


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