子供の未来
マルクト王国王城、玉座の間にて。
妻のつぐみが王妃とケンカしてます……。
こいつら仲悪いからな。なんというか、異世界での成り上がり方が真逆だし。
軽く一呼吸整えたつぐみが、冷静な態度を保ちつつ反論を始めた。
「確かに、匠は複数の女性を妻として迎え、一緒に暮らしている。自分も加えてくれたっていいだろう、と考えてしまう気持ちは理解できる」
いやいや、そんな軽い話ではなかったはずだが……。
「しかし、匠はもう私たちと合同結婚式を開いた。これは国を挙げても大行事だった。私たちが匠の妻なんだ。もうこれ以上増やすようなことなんてできない。どれだけ匠が素晴らしい男性でも、付け入る隙などどこにもないのだ。『妻』である私が言うのだから間違いない」
妻、という部分と強調して「ふふん」と笑うつぐみ。指もとに光る結婚指輪を、これでもかというほどに見せつけている。
そんなつぐみの挑発じみた物言いに、咲は全く動じなかった。
「……でもぉ、四家さんが新しくハーレムに加わったのよね。うふふ、隠し事は良くないわ」
「うっ……」
大々的に発表しているわけじゃないのに、陽菜乃のことを知っていたか。さすがは一国の王妃だけある。つぐみがこの地にスパイを送り込んでいたように、咲もまた屋敷やその近辺に自分の配下を忍ばせていたということか。
怖いな。何も隠し事できない。
「四家さんは良くてなぜわたくしはだめなのかしら? 下条君がどうしようもないロリコンだというなら、涙を呑んで諦めるけど」
と、目を細めてつぐみを見つめる咲。
つぐみは背も高くて胸もそれなりにある。ロリとは全く反対の大人の女性だ。
匠=ロリコン説は自分自身に跳ね返ってくる。
「ああ……悲しいわ。わたくし、こんなに下条君を愛してるのに。この冷徹大統領は、わたしたちの仲を引き裂く悪魔か何かしら?」
「う……ぐ……ぎぎ……がが……」
つぐみ大丈夫か? 壊れたロボットみたいに頭の上から黒い煙が出ている……ような光景を想像してしまうほどに悩んでいる。
しかし何かをついたらしく、再びその瞳に光が……。
「たっ、匠は処女が好きだ! みんな処女だった! 匠は浮気を許さない! 夫がいる妻なんて許されないっ!」
「…………」
つぐみ。俺をどうしようもない処女好きみたいに言うのはやめてくれないか? 浮気のあたりはいいんだが……。
「この女は処女じゃないいいいいいいいいいいっ! したがって匠の妻になる資格はないっ!」
「ちょ……落ち着けってつぐみ」
なんだかいつもと様子が違う。
周り誰もいなくてよかったなホント。共和国でこんなこと言ってたら璃々が泣くぞ。
「あらあら、処女がどうというならわたくしは全く問題ないと思うけど?」
「……?」
「わたくしも処女よ」
……いやそれはない。
咲以外の誰もがそう思った。きっと本人も冗談で口にした……と信じたい。
「と……ともかく」
軽く咳ばらいをしながら、国王が話題を元に戻そうとしている。
「……勇者殿の子であれば国民も納得する。これは他の父親候補にはないアドバンテージであると思っている。咲も勇者殿のことを好意的に思っているのだから、これ以上の一手は存在しない。夫である余からも改めてお願いしたい。どうか……咲に子種を授けてはくれぬか?」
……とても、倫理的に問題のある提案をされている。
しかし決して冗談でも何でもない。この国の、そして咲を守るための最善の手段だということは自明の理。
追い詰められているのだ。
実際、ヨーランの反乱が起こった。奴は出世欲や謎の黒幕にそそのかされて事を起こしたのかもしれないが、賛同した何人かの兵士たちは……明らかに世継ぎのことを考えて行動していた。
良い血。
良い夫。
良い妻。
彼らにとってその夫がヨーランだった。奴は野心があったが、それなりに有能だった。だからこそ兵士たちも勘違いをしてしまったわけだ。
当人の気持ちを無視する暴挙を許してはならない。こんなことが再び起こってしまうというなら……俺は……。
「咲が……少なからず俺のことを良く思っていてくれるなら、その提案は悪くないと思う。俺だって咲のことをなんとも思っていないわけじゃないからな」
「下条君……」
「……でもこれだけは言わせてほしい」
はっきりと、言っておかねばならないことがある。
「……子供の将来を親が決めることは間違ってると思う。生まれもしない子供を、王にとか、世継ぎとか……」
地球で何不自由なく生活していた俺にとって、子供を国の道具のように扱う考え方はどうしてもなじめなかった。国のための子供なのか? 子供のための国なのか?
俺にはもう愛する娘と息子がいる。あの子たちと咲との子供に何の違いがある? 俺たちだけで、子供の未来を決めてしまっていいのか?
「……本人が望めば退位できたり、王政を廃止したり別の国王を立てたり。そんな柔軟な対応を約束してもらえるか?」
この提案に、国王は渋い顔をした。
無理もない。彼もまたこの国の礎として生涯をささげてきた男だ。幼い頃からそういった教育を受け、そういった環境の中で育ってきたはずだ。異世界人の俺が甘っちょろいことを言っていると思っているのかもしれない。
でも……甘くても、バカでもいい。ただ俺は……子供のことが心配で……。
「……当面は余が王としてこの国を治めるつもりだ。その子が成人した折、改めて意思を問うということで問題ないだろうか?」
これが、国王にできる最大限の譲歩だったようだ。
「…………」
まだ若い国王だ。十年二十年で死んでしまう可能性はかなり低いと思う。そして俺の意思をしっかりと汲んでくれる。
「つぐみ、俺は咲の提案を受けてもいいと思う」
「匠、し、しかし……」
「咲が俺のことを頼ってきてくれたのは、その……なんだ、少し嬉しかった。俺たち同じ故郷のクラスメイトじゃないか。こういう時は、仲良く協力して……」
「うふふ、わたくしの大勝利ということでよろしいかしら」
咲は俺の肩に抱き着き、そのまま頬にキスをした。
「ああああああああああっ!」
やめてくれ。いつものつぐみに戻ってくれ。
「離れろおおおおおおおっ! 離れろこの雌犬っ! 死刑にしてやる!」
「うふふ、ここはわたくしの城。何をバカなことを言っているのかしら。衛兵、大統領閣下を貴賓室にお連れしなさい」
咲が手を叩くと、重装備を身に着けた衛兵たちが、一斉につぐみを取り囲んだ。武器は構えていないが威圧感がすごい。
哀れつぐみ、兵士たちに連れられて外に出て行ってしまった。
「あたしも匠君にキスするっ!」
エリナ、張り合わなくていいから……。
こうして、咲が俺たちのところに来ることとなった?
いや……なったのか?
これからどうなるんだ?
なんだか運営から警告が来てしまったため頑張って改稿しています。
そのため更新ペースが遅く……というか戻るまで更新しなくなるかもしれません。
ダメだったら削除されるらしいですが、そうなったらこの小説も終わりかもしれません。
きっと最後に今後の予定を乗せるだけの悲しい結果になってしまいます。




