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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
マルクト王国編

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ヨーランとの戦い

 城、咲の捕らわれていた部屋。

 ある程度は広いものの、天井はそれほど高くない。家具だっておいてあるから、暴れまわるには不利な場所だ。

 俺も、そして何より巨体のヨーランであるならなおさら。

 こんなところで……戦うっていうのか?


 ヨーランは剣を構えた。

 巻き付いた茨のような装飾が施された剣。

 おそらくは……魔剣だ。

 

解放リリース、魔剣ドルン」


 ドン、とヨーランのプレッシャーが増した。

 魔剣が薄く光を放ち、そこから茨が生成されていく。

 数本生成された茨は、まるで触手か何かのようにうねうねと宙を舞っている。ヨーランが剣を振り下ろすと、茨の先端が一斉に俺へと迫ってきた。


「〈白刃〉」


 俺は冷静に対処した。聖剣ヴァイスの力――〈白刃〉を使って茨を一斉に切り落としたのだ。

 しかし切り落としてもまだ半分以上は健在のまま。残った茨が再び俺の元に迫ってくる上、剣から新しく生成されてもいる。

 きりがないな。避ければ咲に当たるし……。


「〈白王刃〉」


 複数の白い刃を生成する〈白王刃〉。俺はこの技を使い、茨を何百回も切断した。


「何っ……」

「無駄だ、あんたは俺に勝てない」


 ヨーランは強い。

 魔剣をここまで使いこなせるということは、相当な腕前だ。さすが将軍にまで上り詰めただけのことはある。

 でも、魔族との戦闘で経験を積んだ俺には……及ばないと思う。

 配下と一緒に攻撃してきたのなら、話は変わると思うが……。今、一対一で戦う分においては……俺の方が上。


 そもそも最初の奇襲が成功しなかった時点で、勝敗は決していたのだ。


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ! 黙れ、黙れ黙れ黙れっ! 俺を見下すんじゃねぇっ!」


 ヨーランは地団太を踏む子供のように部屋の中で暴れまわった。多くの家具が破壊されていく。暴風雨のようなその勢いに、俺は思わず怯んでしまう。


「ヨーラン様っ!」


 部屋の外から兵士の声が聞こえる。

 忘れていたわけではないが、ここはヨーランのテリトリー。部屋の外には少なからず彼の仲間たちが控えている。

 ドアを叩く音が聞こえるが、入ってくる気配はない。


「大きな音がしましたが。ご無事ですか? 極秘の任務と聞いていますが、この部屋に入ってよろしいでしょうか?」

「来るんじゃねぇっ!」


 自らの醜態を仲間に見せたくなかったのか? あるいは勇者である俺と対峙しているところを見られたくなかったのかもしれない。一応俺はこの国を助けたこともある英雄だ。ヨーラン派の中にも俺に感謝している人々がいるのかもしれない。


「し……しかし」

「いいから黙ってろっ! お前らはこの部屋を見張っているだけでいい」


 これほどの物音だ。兵士たちも中で何が起こっているか薄々察しているのかもしれない。しかし主であるヨーラン自身の命令によって、踏みとどまってしまっているようだ。

 チャンスか?


「……誰にもばれたくないっていうなら、俺たちが逃げるのを黙って見逃してくれないか? お前は裁かれるべきだけど、今、俺は咲の命を優先したい」

「黙れっ! てめぇらは俺が殺す。絶対にだ」


 ……頭に血が上っているようだ。これ以上説得しても無駄なようだな。

 少し手荒くなるが、ヨーランを黙らせる必要がある。全力で聖剣を使えば建物がぼろぼろになってしまうかもしれないが、力をセーブした状態でこいつを抑えられそうにない。

 俺は改めて聖剣に力を込めた。

 そして気持ちを切り替えたのは、どうやら俺だけではなかったようだ。


「はああああああああああああっ!」


 ヨーランの声が狭い部屋の中に響いた。

 ……無駄だ。

 気合を入れても意味がない。魔剣と意思を統一して〈真解〉を使うのならともかく、ただ力を籠めるだけで剣が応えてくれるはずがない。

 

 そう……思っていた。


 だが徐々に、ヨーランの周囲に黒い霧が立ち込めてきた。唸り声をあげる彼はまるで怪獣が変身しようとしているかのようだ。

 

 それは……恐ろしい姿だった。


 俺は以前戦った魔剣ベーゼのことを思い出していた。

 魔剣とはゼオンによって剣にされた悪人。かつてテオと呼ばれていた彼は、呪いの魔剣としてその姿を留めていた。

 ベーゼは魔剣だったが、俺たちの前に人型の姿で現れたこともある。その時の奴は独特の黒い肌に覆われた影のような見た目をしていたが、それ以外に目を引く大きな特徴が存在した。


 赤い入れ墨のように肥大化した血管だ。


 今、ヨーランは奴と同じように血管を肥大化させている。鎧によって隠されている体部分はどうなっているか分からないが、外に露出している首元ではその傾向が良く見える。

 そして、かつてのベーゼを彷彿とさせるようなこの黒い霧は……。


「嘘でしょう……ヨーラン」


 後ろから咲の声が聞こえる。彼女はヨーランと親しかったわけではないが、少なくとも普通の人間として見ていたらしい。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

「ヨーラン……お前、本当に人間なのか?」


 黒い光を放ち、血管を浮かせ、目を真っ赤になるほど血走らせた獣。今のヨーランの姿は、化け物そのものだった……。


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