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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
マルクト王国編

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308/410

玉座に座るヨーラン

 

 マルクト王国、反乱勃発。

 突如王宮を押しかけた兵士たちの勢いは止まらなかった。

 死人はないが怪我人は多数。文官が多いこの地で、彼らを遮るものはなにもなかった。そもそも警備をする兵士の半分は訓練に参加していたため、仕方のない話であるかもしれないが……。


 怒涛の勢いで王宮を制圧された。


 そんな政変の状況の中、首謀者であるヨーランはいち早く王宮へとたどり着いた。

 兵士たちを無理にコントロールする必要はないが、王や王妃に今死なれては困る。そういった懸念からの先回りだった。


 しばらくは影に隠れ静観していたヨーランだったが、兵士たちが玉座の間に侵入し始めたとき、行動を開始した。


「やめねぇか! 陛下の前だぞ! 丁重に扱え!」

「ヨーラン、貴様っ!」


 国王は親の仇でも見るかのような目でヨーランを睨みつけている。彼は無能ではない。この件の黒幕が誰であると、すぐに察したのだろう。


(何も分からねぇバカなら、まだ使い道があったんだがなぁ……悪く思うなよ)


 心中の黒い思惑をひた隠し、ヨーランは片膝をついて臣下の礼をとる……つもりだったが、この様子では効果がないようだ。


「分かっちまったなら、余計な演技はいらねぇよな」


 ヨーランは玉座に座り込んだ。常日頃から、国王が座っていた場所だ。


「くくくっ、ははははははははっ! いいなぁ、いいなおいっ! これが王かっ!」


 ここにいる兵士たちは、ヨーラン子飼いの部下たち。この部屋には一般の反乱兵士たちが入らないよう、彼の仲間によって封鎖されている。

 多くの文官は逃げてしまった。不幸にもここに残ってしまった大臣2~3人は……残念ながら死んでもらうしかないだろう。陛下との不仲を知られてしまっては困るからだ。

 わざわざ本心を隠す必要は……もうない。


「あの絵のように、ひれ伏せよ王様、王妃様。おい、誰かこの二人を地面に押さえつけろ」


 配下の兵士二人が、国王と王妃を無理やり押さえつける。

 彼らはヨーランとともに西方の辺境へ左遷させられた兵士だ。出世心はそれほどないものの、やはり待遇に関しては不満があるらしく、国王と王妃を快く思っていないようだ。

 

「や、止めなさいあなたたちっ!」

「やめろっ、咲に手を出すなっ!」


 地に伏した王妃と王妃。

 玉座からそれを見下ろす自分。


 ヨーランは何とも言えない優越感に体を震わせた。阿澄咲に西方へ飛ばされ数か月、夢にまで見た光景がついに実現したのだ。


 このシーンは一生涯心の中に刻み込み、酒を飲むたびに肴としたい。ヨーランはそう心の中で決意した。


「いいか国王陛下、それに王妃。俺ぁ王になる男だ。あんな辺境の地で貴族のお守をしていい人間じゃねぇ。もっと華やかで優雅に大活躍する……英雄譚の主人公なんだぜ」


 床に這いつくばる国王と王妃は、相変わらずこちらを睨みつけている。

 ヨーランは確かに反乱を成功させたが、国民や多くの重鎮たちの支持を取り付けているわけではない。王妃はともかく国王の支持は盤石。彼がヨーランを捕らえろと言えば、多くの兵士たちが従ってしまうだろう……。


「余を……どうするつもりだ?」

「……これから陛下は反乱の混乱で死ぬ。不幸な事故だぜ? そして俺が王家の血を引く者として、その女を孕ませて次代の跡継ぎを作る。子供が成人するまでは……俺がこの国の王だっ!」


 絶句する国王、それに咲。


「俺がこの国をもっと豊かに強国にしてやるよ。混乱続きの神聖国も、生意気な女の国グラウスも侵略してやる! まあ多少の税は増えるかもしれねぇが、国の兵士と聖剣・魔剣をかき集めてなっ!」

「そんなことができるわけがないだろっ! ヨーラン、考え直せっ!」

「陛下と王妃を連れていけ」


 ヨーラン子飼いの兵士たちが、国王を連れて行った。屈強な男二人に拘束されてしまえば、ひ弱な国王一人ではどうにもならない。


「…………」


 玉座に座りながら、ヨーランは考える。

 この部屋の外は混乱状態が続いている。国王を殺せばさらに兵士たちはヒートアップするだろう。

 どのように殺すか、どのタイミングで殺すか。一歩間違えれば、王としてのヨーランの人生に汚点を残す結果となる。


「……反乱、成功させたようですね」


 と、玉座の背後から現れた一人の少女がいた。


 ミカエラ。

 ヨーランに予言の書を授け、反乱の決心をさせた女だ。


「ああ、あんたのおかげですべてがうまくいった。感謝してるぜ。俺は王だ、この国の支配者だ。国王が死ねば、もう俺の邪魔をする者は誰もいねぇ。へへっ、はははははははっ!」

「何も、そこまでする必要はないのでは?」


 気持ちよく笑っていたヨーランだったが、ミカエラのその言葉を聞いて水を差されたような気分になった。


「どういう意味だ、おい?」

「予言によって反乱の成功は確約されていました。あなたは王になる運命だったのです。ならば王を殺す必要はないはずで――」

「おい、舐めてんのか?」


 ヨーランはミカエラを睨みつけた。


「俺ぁ反乱起してんだぞ? 反乱。俺も、王も、負ければ殺される。ここはそんな真剣勝負の『戦場』なんだ」


 ヨーランは不必要に魔剣を揺らし、ミカエラを威嚇した。


「情けをかけりゃ殺される。あんたは恩人だから殺さなねぇが……あまり甘いことを言って俺をいらだたせるな」

「……は、はい」


 ミカエラは涙を浮かべながら、体を震わせ後ろに下がった。

 この女は気弱だ。威圧すればすぐに挫ける。

 短い時間であるが彼女と話をしたことのあるヨーランであるから、ミカエラのことは見下していた。

 ミカエラの背後にいるエリクシエル教はそうでないにしても、彼女自身はただのメッセンジャーに過ぎないと理解している。

 政治的にも、軍事的にも無能。今日の件で無駄に情けをかける性格であることが分かったため、むしろ害悪であるといっていいかもしれない。


 彼女はあくまでエリクシエル教と予言に関する人材だ。それ以上のことに……口出しされては困る。


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