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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
マルクト王国編

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矯正しました


 陽菜乃の養父、バイロンさんが屋敷にやってくることとなった。


 まさか送り出して数日後に訪問してくるなんて思ってもみなかったぞ? やっぱり陽菜乃のことがかわいいんだな。

 その親としての志は尊敬する。俺も自分の娘や息子に対してこうでありたいよな……。


 と、親としての志に感動するだけで話が終わればよかったのだが……事はそううまくいかない。

 今はダメなのだ。

 エリナに毒されてしまった陽菜乃は、ちょっとヤバい。いや、エリナに比べれば全く大したことないんだけど……なんというか……知ってる人に会わせたくない……。


 放送禁止用語を連呼する陽菜乃を見て、バイロンはどう思うだろうか?

 やはりこの世界の価値観的には、『女性はこうでなければ』となるのか?

 いいや、バイロンはそんな風に見えなかった。そもそもそんな価値観だったら、つぐみの粛清対象になっていたはずだ。


 じゃあやっぱり今の状況はまずい。


 ということで、俺は考えた。どうすれば陽菜乃ついでにエリナをもとに戻すことができるか、その答えを。

 答えはつぐみが知っていた。


 グラウス共和国矯正施設。

 

 政治犯が収容されるその場所では、主に思想面からの矯正が行われる。女性蔑視、奴隷制容認など、倫理的に許されない考え方をただすのが目的だ。


 もちろん陽菜乃もエリナも犯罪者ではなく、こんなところに放り込んで収容所生活をさせたいというわけではない。この施設で人として当然のふるまいを学んで、まともな人間に戻ってもらおうということだ。


 え? ちょっと厳しすぎないかって? ははははっ、大丈夫さ。だってつぐみが紹介してくれたんだぞ? 一国のトップの口添えがあれば、そうそう悪い扱いはされないって……。

 しかも期間はたったの一日。何もなくて当たり前。


 …………。

 …………。

 大丈夫……だよな?


 勇者の屋敷、エントランスにて。


 今日は陽菜乃とエリナが帰ってくる日だ。俺は彼女たちの帰りを心待ちにしながら、階段に座ってぼんやりと考え事をしている。


「エリナ、陽菜乃」


 ぎぃ、と玄関の扉が開く音を聞いた。

 そこには、エリナと陽菜乃が立っていた。


「急に変なところに押し込んですまなかったな。でも俺も理解してほしかったんだ。二人がやってることがどれだけ恥ずかしいことで、やっちゃダメなことか。俺の言葉……今なら意味わかるよな?」

「ハイ……」

「ハイ……」


 え?


 めっちゃ……元気ないんだが?


 なんだかすごく暗い。この前までも言動がおかしかった彼女たちだけど、今は別のベクトルでおかしい気がする。


「ど……どんな講習受けてたんだ?」

「ハイ、赤チャンハきゃべつ畑カラ生マレマス」

「ハイ、こうのとりガ運ンデキマス」


 う……ううーん?

 なんだか出来上がりが怪しい気がするのだが、本当にバイロンと会わせて大丈夫なのだろうか? ……エリナはこのままでいいけど。


 しかしもうバイロンはこっちに向かってる頃だからな。今更今日は無理ですなんて言えるわけもなく……。


「匠君」


 と、悩んでるところに乃蒼がやってきた。


「陽菜乃ちゃんのお父さんが来たよ? 屋敷の中に通していいよね? なんだか急いでるみたいだったけど」


 うおおおおおおおおおおおおおおおおっ! なんということだ。もうここにきてしまったのか?

 矯正は済んだが逆にまずい状況な気がする。『急いでた』ってことは、まさか陽菜乃の今の状況を知って……。


「う、うむ、問題ない。連れてきてくれないか?」

「分かった」


 と……とりあえず陽菜乃は体調不良ということにして、大半の相手は俺が務めることにしよう。いや……無理なのは分かっているがそれしか方法がない。


「二人とも、少しだけ自分の部屋に戻ってくれるか?」

「ハイ、共和国万歳」

「ハイ、勇者万歳」


 …………いや、なんか思ってたのと違う。この件は後でなんとかしないと……。


 ともかく、俺の今の課題はバイロンを相手にすることだ。手負いの陽菜乃を避け、いかにして自然に会話を振れるか……そこが勝負!


 さあ、試合開始だ!


 と、意気込んでいた俺だったが、すぐに肩透かしをくらうことになった。

 それは、屋敷の中に入ったバイロンを見てからだった。 


 ……ん?

 どうしたんだろう。

 その落ち着いた雰囲気と年齢に似合わず、バイロンは全力疾走でここまで来たようだ。肩で息をしている。

 後ろで乃蒼が慌てている。どうやら案内の乃蒼を無視してここまで走ってきたらしい。それほど急いでたのか?

 別に俺は逃げたりしないんだが、何か思うところがあったのだろうか?


「かっ……街道からこちらが近かったので、先に寄らせていただきました。赤岩大統領は屋敷にいらっしゃいますか?」

「つぐみは今、城の方で働いてると思いますけど? 何か用ですか?」


 俺や陽菜乃に会いにきたんじゃないのか? 本当ならつぐみのところに行く予定だった?


「……商人ギルド経由で得た情報です。おそらくまだ、この地域で知る者はいないでしょう」

「国がらみの情報か。俺は聞かない方がいいですかね?」

「いいえ……あなたは聞くべきです」


 ……?

 俺に関係ある話なのか? しかもつぐみに話さなきゃならない内容で?

 嫌な予感がしたきた。


「……マルクト王国で反乱発生。国王と王妃が捕らわれたとのことです」

「な……に……」


 もたらされたその情報に、俺は言葉を失った。


 マルクト王国の反乱。

 それは、平和となったこの世界の和を乱す……災厄の幕開けだった。


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