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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
マルクト王国編

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王国議会(後編)

 マルクト王国国王、アウグスティン八世の跡継ぎ問題。

 ヨーラン将軍が提議した案件は、咲にとっても最も頭が痛い問題だった。


「陛下は子供を作れねぇ。これが事実だとするなら一大事だぜ。王妃様もこのことは理解してんだろ?」

「問題が多いことは理解してるわ。この件についてはさらなる調査を……」

「あまり悠長に考えすぎんのも問題あるんじゃねーか? 万が一、がないとは言えねぇぜ」

「陛下にもしものことがあると? 困ったお方ね。不吉な発言は控えてもらえるかしら?」

「この度の巨人の一件は、下手すりゃこの国にも被害が出てた案件だ。俺も、王妃様も、陛下もな。無礼は承知。俺ぁこの国のことを思って言ってんだぜ」


 確かに、あれは脅威だった。そしてあの巨人の大元であるフェリクス公爵は、少なからず咲やマルクト王国のことを恨んでいるはず。ここに攻め入ってもおかしくない、そんなことは百も承知。


「じゃあヨーラン将軍。あなたには対案があるのかしら?」

「こいつを見てくれ」


 ヨーランが懐から取り出したのは、金のペンダントだった。中央には鷹のような鳥の模様が描かれている。

 マルクト王国の国旗と同じものだ。

 このペンダントを、咲は知っている。

 王家に連なるものが保有する、血の証明だ。

 

「俺は四代前の国王、アウグスティン四世の血を引いている。遠いが、陛下とは親戚にあたる身分だぜ」


 何人かの重鎮たちを驚きの声を上げる。

 しかし、咲はこのことを知っていた。


 マルクト王国はたびたび戦争、反乱、そして魔族の脅威にさらされてきたが、決定的な事態に陥ったことはない。王家には多くの傍流が存在し、彼らは貴族の中にも平民の中にも一定数存在する。

 素行の怪しいヨーランの出自は、すでに洗い出している。咲にとってこの事実は、取り立てて気を留めるほどのことでもない。ここで話がでるまで忘れていたほどだ。


「……まさか血を引いているから国王になりたいなんて言わないわよねヨーラン将軍。いくら戦功のあるあなたであっても、言っていいことと悪いことがあるわよ? 陛下に忠誠を誓うなら、身の程を弁えなさい」

「俺ぁ国王陛下に忠誠を誓う将軍だ。んなこと言うつもりはねーよ」

「あなたが王家の血を引いているとして、結局何を言いたいのかしら?」

「…………」


 下卑た笑いを浮かべながら、ヨーランがゆっくりと口を開いた。


「王家の血を引く俺が……あんたを孕ませるよ。その子供を次代の跡継ぎにする。こいつでどうだ?」


 瞬間、咲は激しい悪寒を覚えた。

 この場で、このように身の毛のよだつような提案をされるとは思っていなかったのだ。普段冷静に策略を巡らす咲であっても、我を忘れてしまうほどの言葉。


 だが、全く根拠のない提案というわけでもない。 


 国王の傍流は多い。しかしその中で有能かつ若い者といえば、数は限られてくる。

 今、この場にいる中で、かつ四十代以下の王族の血を引くものはヨーランだけ。その功績と年齢を考えるなら、筆頭候補を名乗り出てもおかしくはない。


「…………」


 咲は考える。

 むろんどこかから新しい種候補を引っ張ってくることは可能だ。しかしそれでは問題の本質は変わらない。

 そしてなによりこのヨーランという男に抱かれることなど御免だ。


(気持ち悪い……)


 想像するだけで呼吸が乱れてくる光景だった。


「ヨーラン貴様っ!」


 激怒したアウグスティン国王が席から立ちあがった。愛する妻を侮辱した男に殴りかかろうとしているようにも見える。

 巨体のヨーランとひ弱なアウグスティン国王。体格から見てもその差は歴然だ。このまま彼が怒りのままに殴りかかれば、逆にその手を怪我してしまうかもしれないと思えるほどに。 


 だが次の瞬間、ヨーランは予想だにしない行動に出た。


「陛下っ!」


 頭を下げて、土下座に近い体勢を取るヨーラン。

 

「俺ぁ陛下のことを思って言ってんだ。俺だってこんなことは言いたくねぇ! だが世継ぎがいなければこの国はどうなる? 醜い後継者争いが始まる。王家の権威はズタズタだ。隣のグラウス共和国が介入してくるかもしれねぇ。誰かが……たとえ命を失うことになったとしても言わなきゃならねぇっ!」


 国王は拳を止めてしまった。

 そもそもの原因は咲でもヨーランでもなく国王にある。自らの体のせいで起こってしまった騒動。怒りをぶつけることに躊躇してしまったようだ。


「この国を守りてぇ! マルクトの尊き血は、こんなところで失われちゃなんねぇんだ!」

 

 しん、と静まる会議室。

 ヨーランの独壇場だった。まさか、現場上がりの学のない将軍が、こんな主張をしてくるとは思ってもみなかったのだ。

 

「ヨーラン将軍……」

「まさかそれほどまでにこの国を……」

「ふむ……」

 

 白々しい演技、と咲は思っていた。

 しかし重鎮たちには好印象だったようだ。

 国王になりたいだとか、王妃が憎いだとか、直情的なことを言えばすぐに反感を買っただろう。だが彼は国王を持ち上げ、王妃を糾弾せず、少々下品だが実のある提案をした。傍目から見れば、確かに国を思っての行動に見えたかもしれない。


 だが独自の情報網を持つ咲は知っている。この男は野心家だ。国王のためとか、国のためとか、そんなことを言う人間ではない。

 このたびの発言も、おそらく自らの立身出世を睨んでのもの。血縁上の王の父となれば、それだけで自然と発言力が増していくもの。

 この男、野獣のような体つきをしながらも頭が回りしたたかだ。


「将軍の国を思う気持ち、確かに理解したわ」


 このまま黙ってヨーランの思い通りにさせてはならない。咲は周囲の重鎮たちの空気を読みながら、言葉を選んで話し始めた。


「けれど陛下が嫌がってるじゃない。将軍もわたくしも、このような結果を望んでいないはずよ」

「…………」

「世界は平和になったわ。この件は五年、十年後に結論を出しても問題ないはずよ。ゆっくり、そうゆっくり話し合いましょう。技術が進めば、子種の件も解決するかもしれないわよ? いいわね?」

「…………ああ」

「それでは、今週の議会はこれで閉会」


 咲は強引に話を切り上げた。


 話し合いは終わった。一週間後の議会でまた蒸し返されるかもしれないが、とりあえずの時間稼ぎはできたということだ。


 しかし、咲の胸中に不安が増していくばかりだった。


(……手を打っておく必要があるわね)


 ヨーランをこのままにはしておけない。

 国王の隣に立ちながら、咲は効果的な対策を考えるのだった。


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