養父と子
俺と陽菜乃は、熱い夜を過ごした。
しかしその途中で、養父バイロンに俺たちの行為を見られてしまった。
とりあえずバイロンには退席してもらい、俺たちはすぐに服を着た。
そして今、彼の部屋に全員が集まっている。
養父バイロン、そして養母が正面。俺と陽菜乃が隣同士。
まず、バイロンが……泣いた。
「いつかは……こんな時が来ると思っていました」
ぽつり、と呟くバイロンは、まるで我が子を失った親のような顔をしている。
「陽菜乃が想い人となる人を見つけ、旅立っていくその日が。まさか、これほど早いとは思っていませんでしたが……」
「…………」
「ひな、お兄ちゃんのお嫁さんになる!」
俺に抱き着いてくる陽菜乃。もう振り払う気力もない。
「陽菜乃が私のもとへきて一年以上。長いようであり、短いようでもありました。仕事に追われ枯れていた私の人生にとって、陽菜乃はキラキラと輝く一凛の花でした。親として、幸せを与えてくれた娘に報いることこそ責務。そして、陽菜乃も匠様の十二人目の嫁となるのですね。とても光栄なことです」
「光栄、ですか?」
「はい、その通りです」
言い切ったバイロン。
こんな風にまじめで優しそうな男に見えても、やっぱりこの世界の住人なんだ。
上からは共和国の大統領が女性の権利について熱く語っているが、現状はこんなものだ。十二人目の嫁であると知ってもなお、バイロンは俺への尊敬をやめない。許されることだ、むしろ上に立つ者として当然のことだと思っているのかもしれない。
少なくとも他の嫁がいることに関して俺が非難される気配はない。
うちの一族から国王の嫁が出て嬉しい。みたいなノリなのかもしれない。わかるような、分からないようなそんな理屈付けだ。
期待していたわけではないが、養父バイロンがこの件に関して否定することはない。
どうする?
つぐみや小鳥に『新しい女の子だ』って陽菜乃を紹介するのか? いや、俺もう式を挙げて子供までいるんだぞ? さすがにそれは……無理過ぎないか?
「えっと、あの……そのですねバイロンさん」
「どうかなさいましたか匠様?」
「その、陽菜乃とのお付き合いに関しては、深い事情がありまして……」
ううっ、なんだこれ? このままじゃあ、俺完全にクズじゃないか。女の子ヤリ捨ての言い訳してるみたいだぞ?
そう思うと、その先の言葉が出てこなかった。
「なっ、なんと! 私めに何か落ち度がございましたでしょうか? 匠様! 何が不満なのですか? 私に何かできるなら、どのようなことでも叶えましょう。死ねと言われるなら死んでみせます! どうか陽菜乃を……」
……だ、ダメだこれ。まだ俺最後まで話をしてないのに……。
もう事故でしたなんて済まされる状況じゃないぞ。というかその言い方は俺が明らかに悪人過ぎるし……。
「陽菜乃」
俺は陽菜乃に改めて向きなおった。
「俺のこと、好きか?」
「うんっ!」
「そうか……」
多くは語るまい。
彼女は子供だ。でも子供なりに俺のことが好きで、さっきの出来事だってその気持ちが暴走したからに過ぎない。
たとえ俺が悪者になったとしても、せめて、陽菜乃の意志だけは優先させてあげよう。
そう思った。
「……安心してくださいバイロンさん。俺は陽菜乃を悲しませるようなことはしません」
「……おお、……おおおおおおぉ、それでは」
バイロンが泣いた。
陽菜乃は俺に抱き着いた。
養母は俺たちの様子を見ながら、ずっとハンカチで目を押さえている。
この後、俺たちは馬車で首都へと向かった。
2019/9/5運営から警告が来たので前半部分を削除。




