牛の営み
深夜。
四家陽菜乃は目を覚ました。
「うにゃ……」
匠に絵本を読んでもらって、そのまま寝てしまったらしい。寝ない寝ないといつも心に言い聞かせているのだが、いつも眠りに落ちてしまう。
陽菜乃はそれが悔しかった。どうして普通の大人たちと同じように夜更かしできないのか、それが許せなかったのだ。
次こそは、次こそはあこがれの夜更かしをする。陽菜乃は心の中でこぶしを握り締めた。
「ブモオオオオオオオオオッ!」
ふと、声が聞こえた。
それは人間の声ではなく、明らかに動物の声。声の主は問うまでもない。この周囲の牧草地で飼われている、牛たちの声だ。
「ブモッ! ブモッ! ブモッ!」
とても苦しそうな声だ。
(ケガしたのかな?)
陽菜乃は牛のことが心配になってきた。夕方、エサをあげて仲良くした彼らは、陽菜乃にとって決して無視できる存在ではない。
牛たちは陽菜乃にとって友達だった。頭を撫でたり餌をやったりしたのだから、それは当然のことだ。
「…………」
陽菜乃は悩んだ。
夜、太陽が沈んでからは外に出ないようにと、バイロンには言われている。夜の街は危険がいっぱいだからだ。
同じことを地球にいる両親からも言われているから、納得の言いつけだった。
「ブモォッ! ブモッ」
しかし、今、外から聞こえてくるのは友人たちの苦しそうな泣き声。『苦しい』、『助けてくれ』と言っているように、陽菜乃には聞こえてきた。
(……ここ、うちの町じゃないから……いいよね?)
陽菜乃はそう理解した。あれだけ牛がいっぱいいるのだ。悪い人だってきっと牛がやっつけてくれる。
そう思い、陽菜乃は夜の牧草地へと飛び出した。
暗く、そして肌寒い風の漂う牧草地。
鳴き声のしたほうへ向かうと、二体の牛がいた。
片方の牛が、もう片方の牛に体当たりをしている。
陽菜乃には、二体の牛がケンカをしているように見えた。
「ケンカはダメええええええええっ!」
陽菜乃は飛び出した。
友達同士のケンカは止めなければならない。彼女の正義感が、体を動かしていた。
興奮気味の牛に近づいた陽菜乃。しかし――
「…………っ!」
彼女は立ち止った。
そこで起こっていた出来事は、陽菜乃の想像をはるかに超えてきた。
「お、同じだ」
目線は、牛の下半身。
「……お、お兄ちゃんとおんなじだ。おっきくなってる!」
牛のゾウさんが、おっきくなっていた。
むろん、人間のソレと牛のソレは多少見た目が異なるのだが、ついてる場所は同じのため陽菜乃はすぐに察することができた。
「ブモオオオオオオオオオオッ!」
牡牛が牝牛に覆いかぶさった。激しく、そして雄々しく体をぶつけるその姿は、遠目から見れば確かにケンカをしているように見えたかもしれない。
陽菜乃はその様子をずっと見ていた、これはケンカをしているのではない。何か大切な営みを行っているのだと、心の中で理解した。
この時、陽菜乃に電流走る。
「……ひな、分かっちゃった!」
***********
その日、俺は目を覚ました。
「うう……ん」
朝は気持ちをリフレッシュして、護衛の仕事を頑張っていこう。
そう決意をした俺は、ゆっくりとその目を開けた。
「お兄ちゃあああああああん!」
は?
目覚めとともに聞こえてきた声は……ひな、の?
俺は混乱した。
2019/9/7運営の警告により後半部分を大幅削除。




