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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
護衛編

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教会の絵


 勇者の屋敷近くには、教会がある。

 俺を神と崇める謎宗教、『勇者教』の教会である。

 意味が分からない。俺が神だなんてそんなありえない宗教は、ほっとけば自然消滅して消えるに違いない。


 などと思っていた時期が俺にもありました。


 巨人の襲撃と前後して、教会の来訪者は激減した。まああれだけ危機が迫っていたのだから、それは仕方のない話だと思うけど。

 そのまま忘れさられてくれるのか、と思った俺だったけど、すぐにその認識を改めねばならなくなった。 


 来訪者が増える、増える……増える増える増える!

 最初は女の子だけだったのに、いつの間にか男、老人、子供、老若男女すべての世代・性別の人々が訪れるようになった。それもちょっと集会したりとかそんな感じではなくて、明らかに遠くから拝みに来ました風の人が増えてる。


 ぼろぼろ旅装束をまとった老人とかいるし。ここはメッカか何かか? お前ら一生に一度ここに来ないと地獄に落ちるのか?


 屋敷周りは近衛隊が警備をしているため、信者たちが俺たちの生活スペースに押し寄せてくることはない。しかし遠くから屋敷に向かって祈りを捧げている人がいるのはどうかと思う。


 あの教会! あの教会が憎い!

 あの建物のせいで俺の日常が侵されていくっ!


 ……とはいえ、聖剣で教会をぶっ壊すわけにもいかない。

 今の俺にできることと言えば、あの教会の様子を見に行くことだけだ。


「…………」


 サングラスに帽子、厚手のコートにマフラー。ついでにマスク完備で完全な変装だ。

 完全に不審者っぽく見えるんだが、これで問題ない。なぜならこの〈勇者教〉の信者たちも、俺に負けず劣らず変な格好の奴らが多いからだ。

 なんなんだろうあいつらの民族衣装みたいな格好。俺の知らないところで厳しい戒律が生まれているのだろうか? 匠神は何も言ってませんよ?


 勇者の屋敷は森で囲まれている。当然その近くに建てられた教会もまた、木々に囲まれている。

 二つの建物は直接通路でつながっていないため、一度都市近くの街道まで戻る必要があった。


 俺はやや遠回りして、目的の教会へとやってきた。


「…………」

 

 相変わらずの繁盛ぶり。男女比2:8で女性が完全に優勢だ。

 

「ちょっといいか、そこの人」


 俺は近く歩いていた少女に話しかけた。


「はい、何でしょうか?」

「〈勇者教〉の教会からさっき出てきたよな? 俺も入信したいかなぁと思ってるんだけど、少し話を聞かせてくれないか?」

「はい、何なりと」


 この教会に来て上機嫌になったのだろうか、特に抵抗なく質問を答えてくれるような気がする。


「俺は田舎者だから、恥知らずな質問を許してほしい。どうしてみんなこの教会に集まってるんだ? やっぱり勇者様の屋敷が近くにあるからか?」

「もちろんそれも関係あります。そして女教皇ハイプリエステス亞里亞様のお話を聞きたく、というのもあります。しかし第一番の理由を挙げよというのであれば、やはりあの絵でしょう」

「絵?」

「はい、あの素晴らしい絵を見て感動した人々が、噂を広めているようです。かくいう私も、先ほど拝見して大変感動しました。やはり匠様は偉大なる神……」


 少女は両手を合わせて祈りを始めた。大人しくではなく、宗教的恍惚感に支配されて顔が赤く息も荒い。


「はぁはぁはぁ、匠様。私をお導きくださいはぁはぁ」

「……あ、あのさ。どんな絵なんだ? 匠様の絵か?」

「なんでも勇者様の屋敷に魔族が侵入した件に関する絵らしいです。実際にあった出来事を参考に作られた絵、と聞いています」

「魔族……?」

 

 かつてこの屋敷で起こった悲劇。

 大妖狐マリエルが俺の嫁たちの中に紛れ込んでいるという話だ。彼女は変身する魔法を身に着けており、それを使って鈴菜に化けていた。

 俺は彼女が偽物であることを見抜くのが遅れた。その間、体を重ねていたこともあったのだからうすら寒いものを感じる。


 あの事件があったころ、まだ教会どころかこの宗教も存在しなかったのだが……。まあ、俺の功績には違いないか。


「ありがとう、俺もその絵を見てくるよ」

「それがいいでしょう。あなたにも、匠様の加護がありますように」


 いや俺がその匠なんだけどね。

 少女は軽く手を振ってこの場から立ち去った。


 俺は教会の中に入った。

 教会は聖地扱いだが未だに万民に解放されている。信者を少しでも増やそうという亞里亞の采配かな?


 以前入ったことのある建物ではあるが、これだけ人が多いと印象も違ってくる。


 入口正面、ステンドグラスの先に絵が飾ってある。どうやらこれが例の物らしいな。

 どれどれ、ど


「はぁ?」


 思わず、俺はそう呟いてしまった。


 どうやら食事中の様子を描いたものらしい。中央に両手を広げた俺、左右には鈴菜を含めた俺の嫁たち。右の隅には亞里亞までいる。


 その宗教画を見て……俺はこう思った。


 …………。

 …………。

 …………ぱ。


 ぱ……パクリだアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!


 こ、こいつ! 異世界人が地球の絵画を知らないのをいいことに、構図とかタッチを丸々パクってやがる!


 どうみてもこれ、『最後の晩餐』だろ!

 謝れ! レオナルド・ダ・ヴィンチに謝れ!


「あそこにいるのが亞里亞様ですよね」


 信者の少女たちが、最後の晩餐風俺の宗教画について話をしている。


「他の奥様方とは違い、明らかな存在感。さすがは私たちの女教皇ハイプリエステス様。生まれ持っての信心の差ですね」


 ひどい捏造を見たあああああああああああっ! そのころ君神聖国にいたよね? 何ちゃっかり座っちゃってるの?


 絵の周囲では女の子たちが一心不乱に祈りを捧げている。


「『この中に偽物がいる』。匠様の予言は見事的中しました」

「すでに誰が偽物かご存じでしたのね。全知全能の匠様は、たとえ魔族でも自ら罪を告白することを期待していた」

「それだけではありません。あえて魔族のいる晩餐に奥様方を参加させ、人類と魔族の融和をうたっているのです」

「ああっ、やはり匠様は偉大なお方。あのお方が神でなければ、私も奥様方の末席に加えさせて……」


 いやいやいやいや、当時は絶対そんなに偉大じゃなかった! 毎日焦りまくりの怖がりまくりで夜も眠れませんでした。


 捏造かつパクリの宗教絵画なんだけど、絵としての出来はそれなりのもの。ふらりとこの教会にやってきた一般人が信者になってしまうきっかけとしては十分だ。

 

 ちっ、あの絵……燃やすか?


 暗い考えが頭をよぎる。


 いや、仮にもしっかりとした画家が描いた宗教画。それを勝手に燃やしてしまうのはその人に対する冒とくだ。


 ぐぬぬ……しかしこのままでは、この謎宗教がさらに発展してしまうぞ?

 何か……何か手を打たなければ……。


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