婚礼の二次会で水を葡萄酒に変える奇跡
しばらく休憩を挟んだのち、二次会が開かれた。
結婚式、披露宴は国家の思惑が関わり厳かなものとなってしまった。俺は勇者で、つぐみは大統領で、一紗も勇者でエリナは将軍で……というラインナップを考えれば、仕方のない話ではあったが……。
だからこの二次会を開くことにした。
ここは無礼講。偉い人はいないし、花嫁たちは二次会用のシンプルなドレスに着替えた。式に出てた人たちを悪く言うつもりはないが、俺も肩の力を抜いてゆったりと過ごすつもりだ。
近衛隊。
冒険者ギルドの人々。
子猫の同僚。
鈴菜の研究仲間。
亞里亞の信者たち。
そのほかにも、関わりのある個人的な友人たちを何人か呼んでいる。人数が人数のため会場はでっかいホールだが、料理やスペースは問題なく用意している。
乃蒼はこういった席は苦手なようだったので、すでに屋敷に戻っている。強制ではないから俺も止めはしなかった。
鈴菜は大学の研究仲間と議論をしている。この場に似合わない、タンパク質や遺伝子に関する単語が聞こえる。
つぐみは璃々と一緒に近衛隊に紛れている。あえて目立たないようにしているのは、余計な緊張を生まない配慮だろうか。
一紗、雫、りんご、小鳥は女の人と話をしている。昔住んでいた建物のご近所さんらしい。雫が若干浮いてるのは、きっと友達作らなかった結果なんだろうな……。
エリナは配下の軍団と一緒に食事中。時々鋭い視線が彼らから俺のもとに飛んでくるのは、軍団のアイドルを奪ってしまった俺に対する怒りだろうか?
子猫は同僚と話をしているようだ。ここの料理の一部は彼らが用意してくれたもの。あとでお礼を言っておこう。
そして、俺は亞里亞の取り巻きたちと話をしていた。
勇者教、という俺を神と称える謎宗教。その信者である彼女たちは、神とされる俺を前にして奇妙な行動をしている。
「……祈りを」
「お手を触らせてください」
「この地面に落ちた髪の毛を頂いてよろしいでしょうか! 家宝にいたします! 是非っ!」
などと、意味不明な発言をしている模様。宴会の冗談、というわけではく純真無垢な瞳をキラキラとさせながらそんなことを言ってる。
「は……はは……は」
俺は乾いた笑いしか出なかった。
こ……怖いよこいつら。なんとかしてこのカルト教団ぶっ潰せないだろうか? ここはうちの国の独裁者にお願いして、邪教撲滅法を……。
「匠様……」
……と、また目をキラキラとさせた女信者が話しかけてきた。どうでもいいが女の子ばっかりなのはなんでなんだ? 亞里亞が悪いのか?
……いやマルクトの国王は男だったか。
「この葡萄酒は匠様のお力で作り出したものというのは本当ですか?」
と、少女はテーブルの上に置かれたワインを指さしてそう言った。
「……は、はぁ? 何の話ですか?」
「パーティーに葡萄酒が足りず、あなた様がお作りになったのでは? 手をかざすと水が葡萄酒になると、亞里亞様が仰っていました。匠様は奇跡のお方と……」
「…………」
また亞里亞が話盛ってるよ!
もうね、俺キリ〇トか何かか? そのうち国に処刑されるんじゃね? 死後千年たって大教団になってるとかいやだよ。
……ここはしっかり教育しておく必要があるようだな。
「そこまで言うなら見てろ!」
俺は近くにあった水入りのコップをつかみ取った。
「この水、俺の力で酒にしてやるよ」
コップを近くのテーブルに置き、手を当てて力を込める。
「ぐぬぬぬ……ぬぬ、ぬおおおおおおおおおおおおおおっ!」
気合を入れて叫んだ。
もちろん、水が酒になるわけがない。俺がどれだけ気合を入れて唸っても、物理法則は塗り替えることはできない。
これ水じゃないですかー、と女の子に笑われながら『冗談でした』END。俺の神性はなくなるが親しみやすさは増す、まさに一石二鳥の計画だ。
「はぁ……はぁはぁはぁ。気合入れてみたけどさ、やっぱり俺普通の人間だから。水を酒にするなんて無理――」
と、そこまで解説したちょうどその時、俺の目の前にあった水入りコップが消えた。
亞里亞だ。
何を血迷ったのか、亞里亞は水入りコップを奪い去ると、猛烈な勢いで中身を一気飲みした。止める間も話をする間もなく、まさに一瞬。
「すごいですわわああああああああああ! 葡萄酒! 水のように澄んだ白ワイン! これお酒になってますわあああああああああっ! すごい! 匠様! 奇跡! 唯一神! 偉大!」
は?
い、いや、それ俺が変な声出して気合入れた振りしただけで、普通の水だし。
「ちょ、待て亞里亞! 嘘つくなこのカルト教祖! 水が酒になるわけねーだろ!」
「偉大ですわああああああああああっ!」
俺の抗議を阻止する亞里亞。そこまで体張らなくてもいいだろ……。何が何でも俺を神にしたいらしい……。
「……本当に、水を葡萄酒に」
「やはり匠様は神、奇跡のお方」
「ああ……私、先ほどあの方と肩が触れました。なんと幸福なことか。故郷の信者たちに自慢できます」
もうどうしようもなくなってきてる気がするっ!
やはり国の力を使って宗教撲滅するしかないのか?
しばらく騒いで、その日の二次会は終わった。
まあ明日から国を挙げてのお祭りがあるので、これで終わりって感じはしないんだけどな。
そして、夜。
結婚初夜だ。
まあ、はっきり言って今更なんだがな。
「匠君……」
そっと、乃蒼が俺の腕に抱き着いてきた。
彼女を抱えながら、俺はベッドに足を進める。
ドレスを身に着けた十人。鈴菜、つぐみ、璃々、一紗、雫、りんご、エリナ、子猫、亞里亞、小鳥。
美少女十人が、薄手のドレスを着て俺を待っている。
「……遅いわよ。いつまで待たせんのよ」
ドレスの胸元をはだけさせる一紗。
誘っている。
「うおおおおおおおおおおおおおっ!」
野獣エリナ、その辺に這えてるキノコにでも突っ込んでいきそうな勢い。
「……初夜」
小鳥が天井を見上げたままぼんやりとしている。また何か考え事をしてるのだろうか?
俺は乃蒼とともにベッド入り込み、まずは一紗に抱き着いた。
「……あんっ、もう、あんたほんっとあたしの胸好きよね。よく飽きないわよね」
「好きで悪かったな」
「んんっ、ああっ、ねえ、キスして」
赤まった彼女の顔を見て、興奮に感情を高ぶらせる。
そこから先は、求めて、求められて、もう言葉なんていらなかった。
俺は全員を抱いた。
体力が持たなかったので、途中で乃蒼の聖剣を使って回復してもらった。この日ばかりは俺は絶倫で、何度も何度も果てては復帰してを繰り返した。
平和な時代に幸あれ。
俺の家族が、にぎやかなものになりますように。




