誓いのキス×11
新婦十一人と誓いのキスをする。
難易度が高いことは分かりきっているが、やらなければならない。
俺の左側に並ぶ十一人の花嫁たち。彼女たちに一人ひとり誓いのキスをしていくことが、俺に課されていた課題だ。
まずは、乃蒼。
乃蒼……。
思えば、彼女が始まりだった。
在りし日の思い出が走馬灯のように蘇ってくる。
ゆっくりとベールを上げ、乃蒼にキスをする。
時間は一瞬、おでこに軽いキス。俺は唇でしてもよかったのだが、大勢の前でそれは恥ずかしいと事前に乃蒼と決めていたことだった。
次は鈴菜、つぐみ、璃々、一紗、雫、りんごと順番に進めていく。
ここまでは何も問題は起きなかった。
その次はエリナだった。
俺はそれまでの流れと同じように軽くキスをして、そして離れようとした。
「……んぐっ!」
しかし、エリナがそれを逃がさない。激しく口で吸いついてきたため、俺は彼女を引きはがすことができなかったのだ。
この馬鹿っ! 大事な式典なんだぞ! 舌入れてくる奴があるかっ!
「……ん、はむ……はぁ、あっ……ぁ……んんっ、あんっ!」
激しく荒々しいディープキスに俺は混乱した。
右腕で俺を抱き寄せたエリナが、そのまま左手で俺の股間を……
っておい、さすがにそれはまずいだろ! 咲や国王が見てるんだぞ!
と、必死に抵抗しようとした俺だったが、その必要はなかった。
すでに止められていたからだ。
「…………」
小鳥だ。
「…………(怒)」
笑っている。笑っているが心の中では怒り心頭だ。
小鳥は例の黒い霧を発生させている。それがまるでロープのように凝縮され、エリナの口や手を縛り上げていった。
「んっ、んんんんっ!」
あるいは聖剣ゲレヒティカイトを持っている状態であれば、小鳥の攻撃に難なく対応できたかもしれない。しかし今の彼女は非武装な上にウェディングドレスを身に着けている。無から武器となるベーゼの力を操れる小鳥とは違うのだ。
哀れエリナ。喋ることもできず俺から引きはがされていく。何かを必死に叫ぼうとしながら、こちらに手を伸ばしている。
『ヤらせろおおおおおっ!』と全身で訴えてくるその姿はレイプ魔そのものだ。
こんな花嫁はいらない……。さっきの誓いを撤回していいかな? 精霊への誓いはクーリングオフが効きますか? ……もちろん冗談だけど。
ナイス小鳥っ! そのままお前の力で縛り付けておいてくれっ!
エリナは小鳥の力で拘束された。
そして、その後は何事もなく誓いのキスは終了し、合同結婚式自体もお開きになったのだった。
式自体は終わったが、まだ俺たちが自由になったわけではない。
披露宴だ。
披露宴は別会場となった。
といっても、同じく官邸の中にある大広間だ。ここは各国の要人などを招いたときによくパーティーが開かれる場所であり、俺も何度か顔を出したことがある。
テーブルに並べられているのは料理。
グラウス共和国、各地域名産の料理。質も量も大満足の状態だ。
各地に戦争の傷跡を残したままなのに、こんな豪華な内容にしてしまっていいのだろうか? と思ってこの前つぐみにそれとなく話をしたことがある。
なんでもこれも戦後復興の一環らしい。国が各種名産品を買い取ることによって、地域の経済を活性化させるとのことだ。料理人も現地から高給で雇っているため、さらに戦地復興に繋がる?
俺には体の良い『ばら撒き』にしか見えないのだが、余計な口を挟むのはやめよう。つぐみに任せておけば大丈夫。素人がぐちぐち文句言っても仕方ないし。きっと見えないところで役人たちの猛烈な綱引きが行われているに違いない。
エリナががつがつ料理を食っていた。ま、まあいいんだけどさ、一応俺たちが招いている側であるということを忘れないでほしい。人が話したり誰かに声をかけられたときとか、しっかり対応しような……。
あと咲が代表として挨拶してくれた。変な下ネタ盛られないかとひやひやしたが、意外と普通の話だった。まあ、他の大臣や将軍もいるわけだから当然か……。
ウェディングケーキも十一個……あるわけもなく、代表して俺と乃蒼が入刀した。十一個用意することはできたが……さすがに白けてしまうと思ったのだ。
その後のスピーチは魔族、ダグラスが担当した。
「ご結婚、おめでとうございます……」
やや硬い印象はあるが、おおむね好感触だと思う。彼のまじめさ、敵意のなさが世界中の人々によく伝わった。
ただ、俺を褒め称え過ぎなのはちょっとどうかと思う。恥ずかしいからやめてほしい。俺は慈愛の天使か? 万物の創造主か?
ダグラスさんや亞里亞の話す俺は人間じゃない。人をやめてしまった神か何かに違いない。
その後、余興と称して咲が卑猥なダンスを踊ったり(自重しろ)、ダグラスさんが魔物を召喚したり(怖いよ)……。
ため息をつく場面があったものの、その時間帯だけは緊張を忘れて楽しむことができたんじゃないかと思う。今にして思えば、彼らは俺たちの緊張を解すためにあえて道化を演じてくれたのかもしれない。
全体的には、神経を使う戦いだった。
これで両親兄弟親戚友人がいたらどうなっていたかと思うと、何とも言えない気持ちになってしまう。
ゲストを見送り、俺たちは適当に挨拶を交わした。
よく知るもの、全く知らない者、いろんな人がいた。いろんな人とこんな機会を得られたのは、とてもうれしいことだと思う。
こうして、披露宴は終わった。




