愛の誓い
パレードが終わった。
俺たちはどこかの王族みたいに微笑んで、手を振っていた。
サービス精神豊富な一紗は、ときよりポーズを決めて観衆を喜ばせた。
つぐみは多くの観衆に手を振って、喜びをアピールしていた。
小鳥と亞里亞は俺の隣に立とうとするあまり、観衆たちにさらされてしまった感がある。
鈴菜、乃蒼、雫、りんご、子猫は一歩下がってその様子を眺めていた感じ。
エリナが暴走しかけていたが、俺や周りが必死に止めた。あれだけ事前に言っておいたのに……困った奴だ。
そして神輿を引く馬は、とうとう最終目的地へと到達してしまった。
官邸、すなわちグラウス城の西に存在する建物。
まっすぐ伸びる赤いじゅうたんが、建物前の階段、そしてその先に続く部屋の中へと敷かれている。
いわゆるバージンロードというやつだ。
神輿を降りた俺たちは、ゆっくりと全員でその絨毯の上を歩く。
近衛隊の警備が徹底しているため、ここには招かれた者以外は誰も入れない。お祭り騒ぎの観衆は完全にシャットアウトされ、厳かな雰囲気が保たれている。
俺たちは建物の中に入った。
学校の体育館ぐらいに広い部屋。きらびやかに装飾されたアーチ窓には、ステンドグラスがはめ込まれている。天井に設置された豪華なシャンデリアは、この部屋を照らすものというよりも飾り的な意味合いが強い。
ここはかつて、グラウス王国において国王の戴冠式などが行われていたらしい場所。
共和制となった現在、つぐみが大統領として就任するときに一度使われたと聞いている。もっとも、そのときの俺は彼女から疎まれていたため、式典に参加することはできなかったが。
赤いじゅうたんは部屋の中央を横断するように敷かれ、その左右には来賓者たちが座っている。
咲、アウグスティン国王、魔族代表のダグラス、神聖国の教皇代理に、共和国の将軍、旧貴族、大商人。
彼らはただ偉い人間というだけでなく、俺たちに無関係でもない。咲やダグラスはもとより、神聖国やこの国を守ったのは俺なのだから。
バージンロードの先には祭壇のようなものが置かれており、その近くに一人の男性が立っている。
キリスト教式結婚式における神父や牧師のような役割。
といっても実際にアスキス教の司祭であったりどこかの宗教の偉い人であったりするわけではない。儀式専門の大臣、とでも言えばいいのだろうか?
グラウス王国では国教のようなものは存在しない。しかし式典を進行する職を持つ彼がいたため、今回の結婚において神父役を依頼している。
俺と、そしてクラスの女子十一人は彼のもとまで歩いて行った。
式が……始まる。
「精霊よ。本日、あなたの子であるこちらの新婦と新郎は結婚式を挙げようとしています。新郎、下条匠。新婦、島原乃蒼、大丸鈴菜、赤岩つぐみ、柏木璃々、長部一紗、羽鳥雫、森村りんご、西崎エリナ、須藤子猫、細田亞里亞、草壁小鳥。新しい人生を歩む彼らに、どうか祝福を」
神父が祈っている。
神ではなく精霊。それは宗教というよりも、俺たちで言うところの電気やガソリンなどのエネルギーに近い存在なのかもしれない。魔法の力を与えてくれる存在である精霊は、意思を持ち尊き存在とされている。
精霊教、などと言ってしまえばそれまでだけど、どちらかといえば便利な道具として使われている感じではある。宗教の線引きは難しいということだ。
「それでは皆さま、歌いましょう」
讃美歌――ではない。
流れる音楽は、やはりグラウス共和国の国歌。
しかし先ほどまでのパレードでの派手な曲調とは違い、ややトーンを押さえて大人しく上品な感じを前面に押し出している。いかにも儀式ですと言いたげなその音に、俺の緊張は増していくばかりだった。
聖歌隊っぽい少女たちのソプラノが良く響く。まるでドラマか映画のBGMを聞いているみたいだ。この日のために練習していたのだろうか?
国歌斉唱が終わり、再びの静寂が訪れた。
しばらくの沈黙。
そして、神父役の男が口を開いた。
「……それでは、精霊の名のもとに誓約をしていただきます」
……いよいよ、この時が来たか。
「新郎、汝健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」
「はい、誓います」
俺の心は決まっている。
この世界で生き、彼女たちを幸せにする。もう子供も生まれて、そしてこれからも家族が増えていくんだ。
俺たちは……結婚する。
「新婦、汝健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」
「「「「「「「「「「「はい、誓います!」」」」」」」」」」」
十一人の声が重なった。そこには……迷いも何もない。
ハーレムだからと、このような特殊な結婚式になってしまったことに少し戸惑いは覚えている。しかし誰かを無視したりするわけにもいかないから、こういう形になってしまった。
十一人全員が新婦なのだ。そこだけは曲げられない。
「では、新婦十一人に……誓いのキスを」
…………。
…………。
…………。
……そうなんです。
新婦が十一人いるから、俺は十一人にキスして回らないといけないのです。
……わ、分かってはいたが……これは緊張するな。周り全員偉い人が見てるのに……。
「「「「「「「「「「「はい、誓います!」」」」」」」」」」」
とか自分で書いてて思わず苦笑い。
なんちゅー結婚式だ……。




