合同結婚式、開催
合同結婚式が始まった。
まずは勇者の屋敷から城までの道を神輿に乗ってゆっくりと進んでいく公開処刑。ということで俺たち全員はこの屋敷に集まっていた。
もちろん、全員が結婚式にふさわしい服装に着替えている。まだ他のクラスメイトたちは着替えが終わっていないらしく、俺が一番乗りで庭の前に立っている状態だった。
「……とうとうこの時が来たか」
俺は白いタキシードを身に着けている。
高いものだと聞いているが正直なところよく知らない。どうでもよかったので商人やつぐみに丸投げしてしまったが、最高級のものを用意されてしまったようだ。
傷つけたり汚さないように注意を払っていきたい。
しばらく庭で時間をつぶしていると、扉の開く音が聞こえた。
屋敷から出てきたのは、着付けやメイクを終えた少女たち。
新婦――俺と結婚するクラスメイトたちだ。
乃蒼は質素な感じだ。派手さのないスレンダーなドレスは、少々物足りなさを感じるが大人しい彼女にはぴったりの印象だ。
鈴菜は体のラインを強調するいわゆるマーメードラインのウェディングドレス。それほどデザイン性に富んでいないのは、コスパを重視した結果ということだろう。
つぐみは派手だ。王国の王女のウェディングドレスを参考に作られたらしいそのドレス。精密な刺繍はいかにも金がかかっているという感じ。王冠を模したティアラは純金製で、そこから出ている金糸のベールは俺の身長の三倍ぐらい長い。後ろに控えている平民の女の子二人が、ベールガールとして彼女を助けるらしい。
璃々はつぐみのデザインに似たドレス。といっても彼女ほど豪華ではなく、ティアラもベールもそれほど着飾っていない。刺繍も簡略化されて、どちらかといえば一般人向けな印象を受ける。
別に豪華な衣装を用意してもらってもよかったんだが、つぐみを立てたいという彼女の意見を尊重した結果だった。
一紗はミニスカート型。美しい脚線美を強調しながらもドレス自体のデザイン性を強調する、彼女のセンスが爆発した珠玉の一品だ。専門誌の拍子を飾ってもおかしくないレベル。
雫はかわいい。りんごがデザインに一枚かんでいるらしい。淡いピンク色のドレスは子供っぽい印象を与えるが、愛らしくかわいらしい彼女の容姿を一層際立たせている。
りんごは雫と同じで淡いピンク色のドレス。ただ彼女の大人っぽい体つきは、似たような衣装を身に着けていても全く違った印象を与える。
エリナは一紗と同じようにミニ、そして半袖。デザイン性もそれほどなく、オーソドックスな白い生地。たぶん動きやすさを重視した結果なんだと思う。
まあ、暴れまわってドレスを破られたら困るからな。これはデザイナーの名采配といったところか。
子猫は当たりさわりのないドレスを身に着けている。ただこんな式の時でも猫耳としっぽは忘れていないのはさすがというべきか。
外せよ……。
亞里亞は乃蒼と似て質素な感じ。一応聖職者なので派手さを抑えたかったのだろうか。ただドレスや短めのベールには勇者教のシンボルマークが刺繍されている。
せっかくの晴れ舞台にあの痛々しい宗教をも持ち込んでしまうとは……なんて不憫な子だ。
小鳥はお姫様っぽいドレスだ。パニエとフリルでボリュームアップされたその姿は、近代ヨーロッパの貴族を思い出させる。
すでに自分の姿に陶酔状態らしく、目の焦点が合っていない。だ、大丈夫か小鳥?
「…………」
みんな、きれいでかわいくて輝いていた。
俺は目元からこみあげる涙を手で押さえた。感動した。世界が平和になって、俺たちは……この世界で新しい家族になる。そう思うとたまらなくうれしかった。
ぼんやり口を開けているだけではただのバカみたいだ。そろそろ彼女たちに話しかけることにしよう。
「皆、すごく綺麗で――」
「ああんっ! しずしずっ、好き!」
俺の言葉を遮って、りんごが雫に抱き着いた。頬をすりすり手をすりすり。男だったら痴漢どころの話じゃないぞ。
雫はうんざりした顔で空を眺めている。嫌なんだな、雫。
でもりんごの気持ちはわかる。確かに今の雫はめちゃくちゃかわいい。俺もガムテープで奴の口をふさいで一日中眺めていたいぐらいだ。
などと書くと叫ばれないように口をふさぐ誘拐犯のようだが、毒舌をかわしたいだけだ。それ以上の深い意味はない。
「お姉さま、素敵です……」
両手を合わせて少女漫画のヒロインみたいに目をキラキラと輝かせた璃々が、ドレス姿のつぐみを見て頬を染めている。
つぐみがさっきの雫みたいにうんざりした顔で空を眺めている。似たもの同士だった。
……璃々、お前は俺と結婚するんだよな? な?
などと目で訴えていた俺のメッセージに気が付いたのか、璃々はこちらを向いた。
「なんでウェディングドレス着ないんで――」
「黙れよ」
もうそのネタはいいからさ。
「――閣下、勇者様。お時間です」
スーツ姿の女性が、俺たちを誘導する。
俺たちが乗るのは、もちろん例の神輿。三階建てで小さな城がのっかっている、おそろしい代物だ。
すでに白馬数頭が待機中。俺たちが乗ればいつでも出発できるようになっている。
ちっ、なんでこの神輿無事なんだよ。この前の戦いでぶっ壊れてたらよかったのに。
などと心の中で黒いことを考えているのを許していただきたい。俺は質素でつつましい結婚式が良かったのだ。
ちなみに二階の内部が休憩室のような作りになっている。乃蒼は耐えられなくなったらそこで休憩する手はずなので、一応この神輿に乗ることとなった、
なお俺には休憩すら許されない模様。勇者はつらいよ。
俺たちは全員神輿の上に乗った。
壊れないのかな、これ?
「上の方で手を振ってればいいのか?」
ぱんぱんはらら~ん♪ ぱぱんらら~♪
じゃんじゃんじゃんじゃん♪
近くに控えていた楽団が、一斉に楽器を鳴らし始めた。グラウス共和国の国歌だ。
こ……この人たち、俺らが城につくまで……ずっと一緒に歩いて演奏するのか?
あまりの壮大さに、俺は盛大にため息をついたのだった。




