聖剣ジュンパティー
――〈真解〉。
それは聖剣・魔剣の身を犠牲にして放つ奥義。下手をすれば剣自体が死んでしまう危険性をはらんでいる。
使い手と聖剣・魔剣の心が一つとなって使える技。
聖剣ヴァイスは俺に言った。〈真解〉を使い巨人を倒せと。
彼女がそう決意したのなら、話は早い。俺だってあいつを倒したいのだから。
使える。
「――〈真解〉」
俺は〈真解〉を放った。
すさまじい白い光が巨大な槍となり、天を貫いた。巨人の背など遥かに超え、その威力は宇宙空間まで到達しているかもしれない。
聖剣ヴァイスの命を賭けた一撃。
思えば、この剣とは長い付き合いだ。
一度王国からこの剣をもらい、すぐにつぐみに取り上げられた。その後一紗から再びこの剣を返してもらって以来、ずっと酷使し続けてきた。
苦しい時も、うれしい時もこの剣と一緒だった。
俺たちの戦いが、今日、終わるかもしれない。
そう思うと、言葉に表せないような寂しさがこみあげてくる。
「もってくれよっ! ヴァイス!」
「グオオオオオオオオオオオオオオオオンっ!」
光の奔流は余すところなく巨人に激突し、その力をいかんなく発揮した。
巨人の左、すなわち西側から聖剣の力をぶつけた俺。奴はその衝撃に耐えきることができず、東に広がる森林地帯に吹っ飛ばされた。
その距離、2~3キロメートルほど。
これでしばらく時間が稼げるか……。
ヴァイスは?
〝……問題ありません。まだ……戦えます〟
ヴァイスは運がいい方だったらようだ。剣の装飾部分にところどころひびが入っているものの、刀身自体は全く無事。普通に剣を使う分であれば、全く問題ないレベルだ。
そして巨人は……。
「グ……オ……オ……」
ダメージを受けているように見えるが、とても戦闘不能というレベルではない。
倒しきれなかったか……。
薄々気が付いていたことだが、この巨人は聖剣程度でどうにかできる相手じゃない。
ヴァイスは無事といっても、二度目の〈真解〉に耐えられるとは思えない。装飾部分のひびが刀身に及べば、悲惨な結果を招く可能性がある。もう無理だ。
そして彼女は因縁のある弟だからこそ〈真解〉が使えた。他の聖剣・魔剣ではこうはいかない。
つまり、唯一敵を倒せるかもしれない大技が、つぶれてしまったのだ。
未だ戦場は膠着状態。新たな力を身に着けた小鳥や一紗たちが一生懸命戦っている。すでに俺も参戦しているが、とてもではないが勝てそうではない。
どうする?
「……っ!」
不意に、体に震えを感じた。何事かと周囲を見渡すが、誰もいない。
巨人の攻撃でもないし、これは……。
「お前たちか?」
ポケットの中に入れていたつまようじのような木の枝。
ゼオンの〈千刃翼〉。
異空間に収納された数々の聖剣・魔剣の入り口でもある。こいつが反応しているということは、かつてゼオンのものだった剣たちが俺に何かを言いたいということか?
「まさか、この前ゼオンを倒した時みたいに〈真解〉を?」
〝……彼らはあなたのために死ぬつもりはありません〟
と、ヴァイスが説明してくれた。
そりゃそうだよな。俺なんてつい最近ゼオンから剣を奪い取っただけのただの持ち主だ。感謝はされているかもしれないが、命を投げうってでも助けたいとかこの都市を守りたいとは思われていないはず。
志が違えば〈真解〉は使えない。かといって俺はゼオンのように多数の剣を同時に使用する体力もない。
宝の持ち腐れだ。
〝しかし力を貸したいと言っています〟
「……気持ちはうれしいが、もう十分役に立ってくれている。これ以上は……無理なんだ」
実のところ、いくつかの聖剣・魔剣はすでに使い手に貸し出している。すべて配れるならそうしたかったが、そうはいかない事情がある。
聖剣・魔剣使いには適正があるのだ。
適正がなければ扱うことができない。そして低い適正ならすぐに体力を消費してしまう。ただ配れば兵士を強化できるわけではない。
もう適正を持つ兵士には剣を配り終えている。これ以上武器が増えてもどうしようもないのだ。
「使える人間はみんな聖剣・魔剣を使ってる。もっと才能を持った人間が多かったら、その気持ちを生かせたかもしれないけどな」
〝万民が聖剣・魔剣を使える方法があるとしたら?〟
「……何?」
これは、想定外の返答。
「そんなことができるのか?」
〝これを……〟
人型になったヴァイスが、俺のポケットから〈籠ノ鞘〉を取り出した。そしてそれを起動させると、一本の剣を出現させる。
〝聖剣ジュンパティー。複数の相手に感情、能力を上書きする聖剣です〟
「……珍しい能力の聖剣だな」
〝これを使いあなたの才能を他の人間に授け、この場にいるすべての人間が聖剣・魔剣に高い適正を持てるようにします〟
俺の能力をコピーして、すべての人間が聖剣を使えるようにする。そこには本人の適正も、腕力も性別も関係ないってことか。
「そんなことが、可能なのか?」
〝試してみる価値はあるでしょう、さあ……〟
どのみち、もはや他に方法があるとは思えなかった。
ゼオンの聖剣・魔剣は数が多く、俺もすべての能力を把握しきれているわけではない。ましてや聖剣・魔剣使いとしての能力を分け与えるなんて考えもしなかった発想だ。
ここはヴァイスと他の聖剣たちの進言に従ってみよう。
「解放、聖剣ジュンパティー」
俺は聖剣を高らかに掲げた。すると剣の先から白い光の粒が放出され、兵士たちの立つ大地へと撒き散らされていく。
これで……いいのか?
俺は大地に降り立ち、一人の兵士に声をかけた。
「この剣を使ってみてくれっ!」
「ゆ、勇者様。俺はただの兵士です。魔剣なんて……とても……」
「いいから、試してみてくれ」
「解放、魔剣ドンナー」
男は、魔剣使いではない普通の兵士。そのはずだった。
しかし彼の声に従って魔剣ドンナーは発動。周囲に雷鳴をとどろかせながら、巨人の足を打ち抜いた。
「つ、使える! 使えるぞ! 俺にも魔剣が使える!」
「他の人たちも試してみてくれっ!」
俺は〈籠ノ鞘〉を起動し、収納されていたすべての聖剣・魔剣を放出した。
地面に待機していた兵士たちが、それを一斉につかみ取った。そして先ほどの男がやったのと同じように、次々と聖剣・魔剣を起動させていく。
圧巻だった。
一騎当千の聖剣・魔剣使いが800人以上増えた計算になる。これなら、あのゼオンとだっていい勝負ができたかもしれない。
俺たちは巨人に立ち向かった。
傷つき、倒れるものもいた。しかしそのたびに別の兵士が聖剣・魔剣を預かり、再び戦力として復帰した。
二時間、いや三時間だろうか。熾烈な戦いは大地を抉り、多くの木々を破壊した。
そして――
俺たちは、完膚なきまでに巨人を叩き潰したのだった。




