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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
黒の巨人編

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壁攻略


 魔剣ベーゼには宿主がいる。

 魔剣に対して適性を持つその人物は、呪われしベーゼの力により理性を失い、殺戮と破壊の衝動に駆られて周囲を徘徊する。そこに本人の意思は存在しない。

 かつて小鳥は魔剣ベーゼに操られていた。彼女と戦い、ベーゼと会話も交わした俺だからよく知っている。

 小鳥の無実、そしてベーゼの邪悪さを。

 

 その事実が、俺たちの認識を狂わせた。

 

 宿主は無関係であると。何かの拍子に剣を掴んでしまい、魔剣ベーゼが暴れるための条件を整えてしまった不幸な人間。

 そこに宿主の意思は存在しない。ベーゼと相性が良かったわけだから悪人なのかもしれないが、どちらにしても共和国の平和のため倒さなければならない。


 その程度の理解だった。


 だが魔剣がフェリクス公爵であり、その意思をもとに行動しているのなら話は変わってくる。彼は小鳥のことを全く恨んでいない上、一紗たちのこともほとんど恨んでいないだろう。俺のことは多少恨んでいるだろうが、同じ被害者として過ごしてきた時期もあり第一番に恨みの矛先が向いていることはないと思う。冗談だとは思うが仲間に誘われたこともあったからな。


 つまりここで俺たちがどれだけ顔を出しても、どれだけ挑発してもさしたる意味を持たないのだ。

 奴の恨みの矛先は決まっている。この国で革命を起こし、仲間である貴族たちを弾圧し、さらには自分を迫害し、そしてついには追放するまでに至った原因。


 グラウス共和国大統領、赤岩つぐみ。


 これほど復讐相手としてふさわしい相手はいないだろう。彼は知っていたのだ。大統領である彼女は、よほどのことがない限り首都から離れないという事実を。俺でも小鳥でもない、つぐみを追いかけて……奴はここまでやってきたのだ。


「赤岩……ツグミィイイイイィィィイィィィィイィィィッ!」


 つぐみの名を叫びながら壁を殴りつける巨人。みしり、みしりと氷の壁がきしんでいくが、りんごたちが再び直しているためその力関係は拮抗している。

 

 ……落ち着け、俺。あの巨人がフェリクス公爵だからなんだというのだ?


「皆、倒すぞ! ここでっ!」


 俺は声を張り上げた。


 どちらにしろ行うべきことに変わりはない。壁は完成した。俺たちは背後を取った。逃げ場のない奴をこの場で袋叩きにし、倒してしまえば何も問題は起こらない。


 いくら首都が近いといっても、まだ二キロメートル以上の距離がある。仮に俺たちが勝利し、この巨人が壁に沿って東側か西側に倒れこんだとしても、その衝撃による被害は首都の防壁に阻まれて影響を及ぼさないだろう。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 俺は巨人を傷つけた。

 一紗と小鳥は剣を駆使した。

 雫はひたすらに巨人を矢で貫いた。

 りんごは壁の強化に集中した。


 多くの兵士たちが攻撃・壁の強化に別れて動き回った。終わりは見えない。しかし都市を守れるかもしれないという希望が、俺たちを突き動かした。

 故郷を守る。

 心を一つにして、巨人に立ち向かう。


 あちこちに傷を作った巨人は、すぐさま体を回復させ壁に体当たりを繰り返す。

 終わりの見えない戦いだ。俺たちの攻撃は本当に効いているのか? もしかしてこの巨人は……不死身なんじゃないのか?

 そんな不安に心を揺らしながらも、攻撃の手を緩めない。たとえ奴が不死身であろうとも、避難の時間が稼げるならそれで十分だ。

 半日……いや一日は体がもつ。その後は休憩を取りながら交代で攻撃に当たるしかない。


 そんな十数時間先のローテーションを考えていた俺だったが、膠着状態は唐突に破られてしまった。


「グオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 

 今までに比べ、比較的強い叫び声だと感じた。何かが来る。俺の中の直感がそう告げていた。


「一紗、小鳥っ!」


 俺は二人に声をかけたが、それよりも巨人の方が早かった。


 巨人が消えた。


「な……に……」


 突然、視界から巨人が消失したのだ。

 俺は焦った。敵を見失ってしまうことは、戦場での敗北を意味する。

 

 魔剣ベーゼはテレポートでも身に着けたのか?

 

 そんな想像を一瞬だけしたが、すぐに何が起こったのかを理解した。


 突貫工事で作られたその壁を攻略するため、巨人フェリクスが導き出した方法。それは壁を破壊することではなく、後ろに控える俺たちを倒すことでもない。

 壁自体を、飛び越えるという方法だった。


 空を見ると、黒い影があった。

 巨人だ。

 太陽を背に跳躍したその姿は、まるでいん石のように巨大で……圧巻だった。このまま奴がここに落ちてくれば俺たちは圧死する。それだけの恐怖がそこにあった。


 高さ1000メートル以上あるんだぞ? 冗談だろ……。嘘だって……言ってくれよ。


 壁を悠々と乗り越えた巨人は、当然のように俺たちのところではなく壁の向こうへと降りたった。


「うおっ!」


 俺はその衝撃に思わず身構えた。


 瞬間的な地震は大地をひっくり返したかのような衝撃を与え、とても立ってはいられないようだ。転んだだけの人間はまだまし。兵士たちの中には運悪く剣が腕に突き刺さったものや、近くの木に頭を打ち付け気絶したものもいる。


 翼で低空飛行を続けていた俺たちは、空気の衝撃に耐えるだけでいい。しかし地面に足を立てていた兵士たちの被害は甚大。

 もう、これまでと同じような戦い方はできない。いやそもそも壁はもう越されてしまったのだ。同じ方法は通用しない。


「ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオっ!」


 巨人が走り出した。

 森林地帯を抜け平野部に突入した奴。もはや遮るものなど何もない。小さな橋や小屋を破壊しながら、首都への道を猛然と駆け抜ける。


 対する俺たちは完全に後手に回っていた。壁を遠回りして奴を追いかけたが、距離がある上にこちらの方が遅い。


 まずい。

 このままじゃあ……。


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