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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
黒の巨人編

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巨人総攻撃


 巨人戦、開幕。


「ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


 けたたましい叫び声をあげながら前進する巨人。その先にはグラウス共和国首都。多くの施設、俺たちの生活、国民の命、すべてがそこにある。

 敗れるわけにはいかない。かつてイグナートが決戦を持ちかけてきた時と同等か、それ以上の危機だ。


 空を飛ぶ俺たちは、それぞれ背の高い木の上に足を乗せ、巨人の前に立ちはだかるように陣形を整える。


「――〈白刃〉っ!」

「――〈獄炎〉っ!」

「――〈花刃〉っ!」


 俺、一紗、小鳥が同時に聖剣・魔剣による遠距離攻撃を放つ。白と炎と花の刃が巨人の巨体へと激突すると、小さな小さな傷を作った。

 効いていないわけではない。しかしこの巨人を覆う黒い霧のような物質がバリアのような役割を果たしているらしく、思っていたほどにダメージを与えられていない。おまけに俺たちが作った傷はすぐに自然回復してしまった。


 敵のHPなんて見えるわけもないから、今の攻撃が蓄積されているのか全回復したのか全く分からない。ちくちく攻撃をするより、一撃必殺で叩いたほうがいいのは明白だ。

 もっとも……こいつを倒せる都合のいい必殺技があればの話だが。


「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 二番手はエリナ。彼女は臆することなくその巨体の左足に飛びついた。


「エリナっ!」


 俺は焦った。黒い巨人は黒い霧に覆われているのだ。ベーゼの表れであろうその霧は、見るからに体に悪そうだ。

 いわゆるバットステータスを受けそうな状況であったから、俺たち全員近づくのを躊躇していたのだ。


 だがエリナは、それを無視した。巨人の左足に聖剣ゲレヒティヒカイトを突き刺すと、そのまま走り出した。

 足を巨人に、そして体全体を宙に浮かせたままの彼女は、剣を支えにして巨人の体を疾走したのだ。

 剣を突き刺したまま走るのだから、当然巨人の傷口を広げる結果となる。


「正義が栄え悪は滅ぶっ! 無辜の民を守るあたしの必殺、正・義・注・入っっっ!」


 重力に逆らい垂直に走るその姿は、まるでアクションゲームのキャラクターを見ているかのようだった。巨人の足にできた傷口は広がる一方で、そこから黒い血のような物質が吹き出している。

 効いてる……ように見える。


「ブオオオオオオオオオオオッ!」


 苦しんでいるのか、はたまたただ単に叫んでいるだけなのかはわからない。どちらにしても巨人はまだまだ全然余裕だということは伝わってくる。 

 

「…………っ!」


 その時、俺たちは巨人の変化を目の当たりにした。

 周囲を覆っていた黒い霧が、急速に旋回を始めた。まるで小さな竜巻のようにとぐろを巻いたそれは、空気を切り裂く音とともに周囲へ広がっていく。


「にゃあああああああああああああああああっ!」


 圧力に耐えかねたエリナ。剣がすっぽ抜ける。

 吹っ飛んでいったエリナは、すぐに翼を全力ではためかせてバランスを整えた。五体満足であるが、戦いが振り出しに戻ってしまった。


「ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


 巨人が再び叫び始めた。竜巻状になっていた黒い霧が、十程度の太い塊に凝縮される。

 槍のように鋭い先端を持ったそれが、一斉にエリナへと襲い掛かった。


「え、あっ、正義! 正義! 正義いいいいいいいいいいいいいいいっ!」

 

 エリナが翼を使って踊るように回避している。映画か何かのドッグファイトじゃないんだぞ? あのままじゃあすぐにやられてしまう!


「エリナっ!」

「エリナっ!」


 俺と一紗がすぐに加勢する。黒い霧自体はそれほど強度がなかったため、すぐに切断することに成功した。

 切断した黒い霧は空中に溶けて消えてなくなった。生えてきたり分裂したりといった能力はなかったようで、追撃の手はぴたりとやんでしまう。

 黒い巨人はその様子をぼんやりと眺めていたが、やがて首都に向けて走り始めた。


「大丈夫かエリナ」

「うう……悔しい! もっと戦えた!」

「いや、エリナは十分頑張ったさ。でも……」


 俺は巨人の様子を見る。


 ずっと張り付いていたらいつかは力尽きると信じたいが、それはきっと三十分や一時間なんて短時間では済まされない。一日か、二日か、下手をすれば一週間なんて長期戦も予想される。 

 そこまで時間が空けばどうなる? 首都は間違いなく壊滅だ。近くにある俺の屋敷も、それどころかその先にあるダークストン州すらもぼろぼろに破壊されてしまうだろう。その後巨人がどこに向かうかわからないが、あふれ出た難民の多くが犠牲になるのは目に見えている。

 

「やっぱり、すぐには倒せそうにないか……。よし、当初の計画通り、プランBで行くぞっ!」

「そうね、このままじゃあきっと……あたしたち間に合わないものね。りんご、頼める?」

「OKだよたっくん、かずりん! 勧善懲悪大正義、このりんごにおまかせあれ!」


 しゃき、と愛想よく敬礼するりんご。妙におどけたその姿は、俺たちの緊張を解そうとしてなのかもしれない。


「プランB……B……えっと」


 頭からぷすぷすと煙が出てきそうなほど悩ましくしているのは、先ほどまで大活躍していたエリナ。


 エリナ……あれほど食堂で話をしたじゃないか……。「ウンウンナルホドソウカソウカー」って頷いてたじゃないか……。もう忘れてしまったのか? それとも理解してなかったのか……。

 さっきの突撃も作戦とかではなく普段通り敵に突っ込んでいっただけか? 今回はそういう流れだったからよかったが、あれがもし伏兵とか挟み撃ちとかそういう作戦だったら……。

 いや、考えるのはやめよう。最終的にけが人が出なかったのだからそれでよしだ。


 ともかく、これで流れが変わってくれるといいのだが……。

 俺は作戦に従い、近くに控えている兵士たちのもとへと降りて行った。


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