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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
黒の巨人編

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巨人戦開幕

 巨人の迎撃に向け、俺たちは準備を始めた。


 できる限りの用意はした。兵士の配置、兵器の配備と、一般人の避難。地形の確認とそれに伴う巨人の進行ルートの算出。加えていくつかの作戦が立案された。


 最初期、一般人の避難は難航した。今回はダークストン州の時と違って難民が発生しているわけではないので、情報が伝わってないのだ。危険だと言ってもすぐに信じてもらえない、そんな状況だった。


 当初は避難を躊躇っていた人々であったが、すぐに状況は一変した。

 巨人が、見えるようになったからだ。

 山を越える高さを誇るその巨体は、叫び声をあげながら首都へと迫っている。小さな子供は泣きだし、大の大人でさえ震えあがってしまうほどだ。人々は我先にと門へと駆け出していった。

 そのままでは二次災害が起きてしまうため、璃々たち近衛隊が避難の誘導に当たっている。


 グラウス共和国首都、北方の森林地帯にて。


 俺たちは空を飛んでいた。

 空気を裂き、澄んだ空気を疾走する。翼をはためかせながら宙を浮く今の状況は、まさしく鳥になかったかのようだった。


「……感謝するよダグラスさん。あんたのおかげで、戦略の幅が広がった」


 このコウモリのように皮膜の張った翼は、魔族ダグラスが用意したものだ。彼の魔法によって翼を手に入れた俺たちは、こうして空を飛びながら目的地へと向かっていた。

 俺たち勇者PTと、エリナと……そして小鳥がメンバーだ。


 正直なところ、小鳥は休ませたほうがいいのではないかと思った。ベーゼの力によって体調不良になった彼女を、果たして戦力に加えていいものなのかと。

 だが本人はベーゼとの戦いを強く希望した。彼女にとって奴は長年体を操られた憎い敵であり、こうして都市に危機が迫る今となってはいてもたってもいられなかったのだろう。

 俺たちとしては少しでも戦力が欲しいところ。慎重さを欠いているかもしれないが、彼女の意思を尊重することにした。


「巨人の進行ルート。首都の次はダークストン州です。僕たちの町が壊されるのですから、無関係な話ではありません」

「それもそうだな……」


 この魔法、もっと早く教えてくれれば……なんて一瞬思ったりもした。

 でも、よくよく考えれば翼があったところでゼオンやベーゼが倒せたわけでもない。頼めば使ってくれたんだろうが、それを当然のように期待するのは少しわがまま過ぎだったか。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ! 空! 空! 空だ!」


 はしゃぐエリナが、無駄にアクロバティックな飛行をしている。気持ちは分かる。俺だってこんな状況じゃなかったらエリナと同じことをしていたかもしれない。


「……騒ぐな、エリナ、酔うぞ!」

「匠君! 空中セッ〇スしようよ!」

「お前は気楽でいいな。この戦いが終わったらな」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 しまった。ついついエリナと変な約束をしてしまった。

 できるのか? 俺。空中で……。


「…………」

 

 ま、まあ後のことはいったん忘れよう。今は戦いのさなかなのだから。

 俺はエリナから距離をとり、最後尾にいる小鳥へと近寄った。


「大丈夫か、小鳥? 少しでも体調が悪くなったら近くの森に退避してくれ」


 聖剣を持った小鳥は、翼を生やして飛行している。これといって体調不良な様子は見られないが、案外やせ我慢しているだけかもしれないから……油断はできない。


「そーよ小鳥。こいつがなんでもするから隣で見てるだけでいいのよ。今のうちに、妻としてイニシアチブを持っとかないと式の後が大変よ」

「小鳥は自由にしてもいいがお前の手綱は俺が握る。まじめな話お前自活できないし、浪費も多そうだからな。そーいう話は朝一人で起きられるようになってからしてくれ」

「朝はいいのよ、大切なのは夜の営み……」

「……はいはい」


 適当に会話をしたのは、もちろん小鳥の緊張を解すためだ。

 俺と一紗の気遣いに、小鳥は一瞬だけ黙り込んだ。しかしすぐに顔を上げてその思いを口にする。


「ありがとう匠君、ありがとう一紗ちゃん。でもね、私は……戦いたいのぉ。このまま何もしないで避難してたら、きっと後悔するから……」

「小鳥……」

 

 やはり決意は固いようだ。

 俺も余計なことを言うのはやめよう。


 地上を見ると、兵士たちが所定の位置についていた。大木、丘、岩陰に隠れた彼らは隙を見て巨人に攻撃し、少しでも足止めになってくれる予定だ。

 もともと足場の悪い森林地帯。巨人の移動速度も緩み気味だ。彼らの足でも十分に攻撃はできるから、働きが期待される。


「近いぞ」


 雫の鋭い声に、一同全員押し黙った。


 でかい……。

 森の大木が膝どころかくるぶしまでしか到達していない、そんな巨大さ。周囲をまとう黒い霧はベーゼと酷似しており、その影響を強くにじませる。


 突如、巨人がその口を開く。


「ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!」


 鼓膜どころか耳の骨まで砕いてしまいそうなほどに、強烈な咆哮。衝撃で吹き飛ばされないように注意を払っているが、下手をすれば体ごともっていかれる。

 ぎょろり、とその赤い目がこちらを向く。これまでずっと空を飛ぶ鳥のようにしか見えなかった俺たちだったが、ここまで迫ればその存在を隠せるわけがない。

 

「何よあれ……」

「近くにいるだけでこれだ。こんな奴が都市に侵入したら、何人も殺されるぞ」

「…………」


 そびえ立つ、絶望。

 説得も、交渉も通用しない完全無欠の悪人。当然殺すしかないわけだが……果たして、今の俺たちにそれができるのか?


〝悩んでいる暇はありません〟


 不意に、聖剣ヴァイスが声をかけてきた。


「……ヴァイス」

〝あなたにはあなたの、私には私の、役割を果たしましょう〟

「…………」


 そう……だな。

 覚悟を……決めるか。


 敵は目前。手には武器がある。ならばこれから何をするか、悩む必要などどこにもない。


「ベーゼえええええええええっ!」

 

 俺たちは急降下した。


 魔剣ベーゼ。

 そして俺たち人類。

 世界の平和を賭けた大戦が、今、幕を開けたのだった。


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