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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
黒の巨人編

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結婚式の相談(前編)


 勇者の屋敷、食堂にて。

 夜、つぐみも含め全員が集まって結婚式の打ち合わせをしていた。

 

 俺たちはもうすぐ結婚する。しかも式はこの国、いや広義の意味で世界も巻き込んだ一大イベントだ。念入りな打ち合わせが必要になってくる。


「今日もいっぱい客が来たな、疲れたぞ……」


 俺は椅子にもたれかかりながら、体の力を抜いてリラックスした。

  

 客。

 結婚を祝うために官邸にやってくる人々のことだ。彼らは大商人であったり貴族であったり大臣であったりと、とっても無視できる存在ではない。

 権力者であるつぐみや勇者である俺にすり寄ろうとしている奴も多いが、根っからの悪人というわけでもないから対応しなければならない。適当に挨拶して、適当に話を聞いてそれで終わりだ。


「今日は何人も官邸へ誘導しました。近衛隊は疲れ切ってます」


 近衛隊の隊長である璃々がげんなりした様子でつぶやいた。この屋敷にはミカエラみたいなクラスメイトを除いてほとんど誰も来ていないが、それは周囲を警備している近衛隊の仕事があってのことらしい。


「どこの誰だかわからない奴を敷地に入れたら危険だからな。申し訳ないけど、結婚式当日までは頑張ってくれ。俺が感謝してるって、同僚に伝えてもらえるか?」

「ありがとうございます。私はご褒美に女装したミーナさんの姿が見たいです」

「いやだ」


 チッ、と舌打ちした璃々。


「つぐみもフォローありがとうな。お前がいなかったら、俺が死んでた」

「まあ半分は私目当てでやってくる奴らだからな。あれくらいの手助けは当然だ」


 挨拶に来た客はよほど特殊でない限り俺とつぐみが相手をする。


 俺は何も考えなくてもとりあえず『うれしい』とか『ありがとう』とか言えばいい……というか気の利いたセリフなんて思いつかない。それに余計な言葉を与えては、国家レベルで問題になってしまうかもしれない。

 だから会話を進めるのはつぐみに任せている。彼女はそういった会話に慣れているし、不用意な発言はしない。頼りになる存在だ。

 来る人来る人その場であいさつをしていたらそれだけで俺の一日が終わってしまうため、スケジュール管理は官邸で行っている。俺は午後の三時間程度をつぶして挨拶をしているだけだ。自由な時間が確保できることには助かっている。


 とはいえ、その場に俺もいる以上……疲れることには変わりなかった。


「明日明後日には収まってくれないかな、この客」

「……こんなものじゃないぞ。今はこの首都やその近くに住んでる人間が軽く挨拶に来てるだけだ。今後は遠くから、もっともっと人がやってくる」


 などとつぐみが俺を追い立てるような言葉を放つ。


「頭が痛くなるな……」


 だから身内だけのちっちゃな式を……。

 ……なんて、もう後戻りできる状況じゃないからな。


「式は一か月後でいいんだよな?」

「遠方からの来客もある。ある程度時間をおかねば間に合わないだろうからな。かといって客を長時間待たせるわけにもいかない。ここから遠いマルクト王国やアスキス神聖国との距離を考えれば、これが一番妥当な時間だ」

「鈴菜の出産時期と重なるか? いやもう終わってるかもしれないな」


 後になるか前になるか、それだけ微妙な時期だ。正直言ってタイミング的にはあまりよくない。


「私のことは気にしなくていい。後ろにずらし過ぎればつぐみや璃々の体調にも差し支えるからな」

 

 ……おっしゃる通りで。


「匠様には迷惑を掛けますわ。これからわたくしの知り合いが、この国にやってくるのですから……」


 亞里亞がそう言った。


 それほど多くはないが、亞里亞には神聖国の友人がいる。何も神聖国の人間すべてが悪人ではないから、お世話になった人や単純に友人だった人も招待している。

 遠方だからまだこちらには来ていないが、招待状はすでに届いているはずだ。時間差であいさつに来る……予定。


「ああ、大丈夫だ。亞里亞の知り合いだもんな。ちゃんと挨拶しないと……。はぁ……」


 ため息が漏れたのは許してほしい。別にその友人が嫌なわけではなく、挨拶挨拶で気が滅入ってしまっているのだ。


「こう考えると親族がいないのは助かったな。俺の家親戚が多いから、結構な人数になってたぞ」

「あーあたしも、元の世界の友達連れてきたら大変なことになってたわね」

「りんごも姉妹が……」


 一紗、りんごが身の上話を始める。


 まあ、普段の俺たちを知る親族や友人にこそ、この結婚式には来てもらいたくないわけだが……。

 恥ずかしいもんな。


「…………」


 親族、か。

 俺たちは異世界人。当然ながらこの地に親も兄弟も親戚もいない。


 晴れ舞台を見せられないのは少し寂しいことではあるが、そこは割り切って生きていくしかない。いつか技術が進めば、俺たちも元の世界を訪問……。

 いや、変な考えをするのはやめよう。俺たちはこの世界で生きていくと決めたのだ。今更顔を出しても、この結婚を認めてくれる相手は……いない。


「……注文する料理、ウェディングケーキ、その他必要な設備はすべて国として用意している」


 考え事をしてたら、司会進行役っぽい感じのつぐみが話を進めていた。


「休日に関する法案も通した。遠方の客にはささやかながらお礼の品を用意している。誰を訪ねてきた客か、一応リストは用意してある。当日粗相のないように各自確認しておいてほしい」

「…………」


 俺なんて最初の方に挨拶したなんとか大臣がもう記憶の彼方に吹き飛んでるからな。こういうリストがないと死んでしまう。


「午前中は用意された神輿に乗り、都市の中を回りながら花嫁たちとともに挨拶。式自体は官邸で行う予定だ。その後一度近しい友人、要人だけで披露宴が開かれ、二次会はその日の夜に。翌日以降は国民総出の祭りとして、様々な催しものを……」


 その披露宴で終わっちまえよ……。


「それと祝福のスピーチはダークストン州のダグラス殿にもお願いしている。少し特殊な事情を鑑みてのことだが、どうか理解してもらいたい」

 

 つぐみが頭を下げた。

 これはかなり政治的な意味合いが込められている。要人が出そろった披露宴において、魔族である彼が話をするのだ。俺たちと魔族の友好を内外に示すことは、復興に協力している彼らへの理解につながると思う。

 

 結婚式の政治利用、というべきか。いやそもそも国民の休日な時点で、周りを盛大に巻き込んでしまってるわけだが……。

 投降魔族と人間の共存は俺たちの願いでもある。ここは良しとしよう。


この黒の巨人編は特殊な回です。

一人一回ハーレム入りなことが多いこの小説ですが、今回新たな参入者はいません。


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