表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
黒の巨人編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

251/410

ミカエラの来訪


 勇者の屋敷、廊下にて。

 

 雅な調度品に彩られた廊下は、静けさに包まれていた。クラスの女子十一人が暮らしているといっても、仕事や趣味でこの場にいない者も多い。今は朝だから、一紗のように寝坊しているぐうたら人間だっている。

 一人の時間を確保するのはそれほど難しいことじゃない。もっとも、すぐに誰かと鉢合わせることになるとは思うけど……。


 俺は窓の外を眺めながら、物思いにふけっていた。

 魔族を倒し、小鳥を助けた今となっては、俺は完全に暇人だ。あと残っている重大イベントといえば、例の合同結婚式ぐらい。


 合同結婚式は一週間かけて行われるらしい。その日は共和国における国民の休日となり、あちこちで出店が出たり飾り付けされたり催しものが開かれたり。


 とんでもない祭り騒ぎになるようだ。かつて王国時代にも建国祭や国王即位の記念日があったらしいが、その時の規模を軽々しく超えている。


 う……胃が痛い。こんなはずではなかった。俺はもっとこぢんまりとした身内だけの結婚式がよかった。各国重鎮とか大商人とか、そういう人たちはいらない……。

 あ、咲にはきてほしいけどな。それぐらいだろ。


「匠君」


 廊下でぼんやりと外を眺めていた俺に、乃蒼が声をかけてきた。


「お客さん、だよ」


 そう言って、彼女は後ろを振り向く。その目線の先には、俺も知っている少女が立っていた。


「こんにちは下条さん、お久しぶりです」

「ミカエラ」


 福田ミカエラ。 

 いわゆる留学生として俺たちの学園にやってきた少女だ。もともとは欧米の国に住んでいたらしいが、日本人の片親についてきて俺たちのクラスメイトになった。

 つぐみの革命よりずっと前に、別の町へと移住したと聞いている。亞里亞のように騙されて連れられていったわけではなく、咲のように仕事先を見つけて独り立ちした感じだ。


 久しぶりに会うな、元気にしてたかな?

 俺はそう思いながら、彼女の姿を見る。


 俺ほどではないが、乃蒼よりはずっと背が高い。髪はピンク色のセミショート。着ている服は羊っぽい毛のニットカーディガンに、灰色のロングスカート。泥一つないパンプスは新品当然で、まるで空を飛んでここまでやってきたかのような印象を抱いてしまう。

 ちゃんと衣類の現地調達ができているらしい。生活が安定している証拠だ。

 

「近々、結婚されると聞きました。所用で見学することは叶いませんが、この場を借りて祝わせていただきます」


 日系人ということもあり、俺たちとそん色ない日本語を話す。というかたぶん国語のテスト、俺より点数取れてるんじゃないか?


 そ……それにしても。


「うっ……」


 なんということだ。この都市に住んでいないクラスメイトにハーレム&結婚の話が知られているのか? ミカエラは俺たちと親しくはなかったが、だからといって他人というほど知らない仲でもない。な、なんだかこれぐらいの立ち位置の人間に俺たちの関係を知られるのは恥ずかしいな。ダメージがでかいぞ。

 

「あ、ありがとう」


 俺は適当にお辞儀をした。そうすることしか思いつかなかったのだ。


「あ、あの、わざわざありがとうございます。わ、私もミカエラさんに会えてうれしいです」


 と、乃蒼が言った。明らかに社交辞令だが、そんな社交的な言葉が彼女の口から出てきたことに成長を感じる。 


「知ったのはつい最近。突然のことでしたので何も用意していませんが、よろしければ祝い金ということでこちらを……」

「ミカエラ、そんなに俺たちに気を使わなくていい。学生同士で祝い金とか……。この屋敷を見てくれればわかるけど、俺だってそれなりに金を持ってるからな」

「ではお言葉に甘えて、祝辞だけで……」


 ふう、これでミカエラはあの恥ずかしい合同結婚式に来ないぞ。よかったよかった。

 二度と蒸し返されないよう、話題をそらさないとな……。


「と、ところでミカエラはこれまでどうしてたんだ? 最近連絡も取れてなかったかったから、心配してたんだぞ」


 正直なところ俺やその周りは災難続きだったから、落ち着いて連絡を取り合う暇もなかったというのが現実……。


「そうですね、長い間連絡を取らなかったのは申し訳なく思っています。私は、とある団体に所属しながら働いてました」

「団体? 商会とか職人ギルドとかそんな感じか?」

「よろしければどうぞ」


 そう言って、ミカエラは一冊の本を渡してきた。

 少年コミック単行本の程度の大きさで、半分程度の厚さ。中にはいくつかのほほえましい雰囲気の絵と、それを説明する文章が記載されていた。


「エリクシエル教?」


 表紙に、そう書かれていた。

 聖書、というには薄すぎるような気がするから、おそらくパンフレット的なものなんだと思う。俺はミカエラに宗教勧誘されているのか? 彼女は宗教団体に所属している?

 おいおい……まさか亞里亞みたいになってないだろうな?

 

 しかし頭ごなしに疑っても反発されるだけ。ここは慎重に慎重に……。


「へ、へえ、宗教団体か。俺はこの世界の神についてよく知らないんだけど、このエリクシエル様っていうのはどんな神様なんだ? やっぱりアスキス教みたいに男性優位なのか?」

「私たちの神、エリクシエル様は世界平和と人類平等を歌っています。あの細田さんが信じていた過激な宗教よりは……マイルドに感じていただけるかと」


 うーん、この名前……どこかで聞いたことがあるような。思い出せない。


 アスキス教の件もあり、宗教というものに対して若干の抵抗を抱いてしまう。たとえ耳障りの良い言葉をスローガンに掲げていたとしても、だ。


 しかし若干悩んでいる俺とは違い、もっと激しく敵意を抱く人物が……近くにいた。


「わたくしたちの神に……異教の神の下につけと? 邪教め……」


 いつの間にか、横に立っていた乃蒼を押しのけて俺たちの前に現れたのは、聖女で女教皇プリエステスの亞里亞だった。


 あ……亞里亞さん、目が怖いよ。


 亞里亞は超高速で俺からエリクシエル教のパンフレットを奪い取ると、床の上に放り投げた。


「悪霊退散! 悪霊退散! 悪霊退散! 悪霊退散! 悪霊退散! 悪霊退散! 悪霊退散! 悪霊退散! 悪霊退散! 悪霊退散! 悪霊退散! 悪霊退散! 悪霊退散! 悪霊退散! 悪霊退散! 悪霊退散! 悪霊退散! 悪霊退散! 悪霊退散! 悪霊退散! 悪霊退散! 悪霊退散! 悪霊退散! 悪霊退散! 悪霊退散ですわっっっ!」


 どこから取り出したのか、亞里亞が清めの塩をパンフレットに振りかけた。

 す、すげぇ……。振りかけすぎて塩の柱みたいになっているぞ……。


 俺の腰ぐらいまでの高さに塩を盛ったところ、亞里亞は深いため息をついた。


「ふぅ、危ない危ない。カルト教団の邪神に魅入られるところでしたわ。わたくしの目の黒いうちは、匠様をお守りしますゆえ。どうかわたくしを、いえこの人類をお導きください。ああ……匠様は唯一神、偉大なお方……」


 亞里亞……お前のほうがよっぽどカルト教団っぽいぞ? ミカエラが引いてるし。一応俺の名前使ってるんだから、清く正しく宗教やってほしい。


「まだ足りない……まだ足りませんわ」


 プルプルと、まるで薬物中毒者の禁断症状みたいに体を震わせる亞里亞。どうやら、邪教退治にまだ満足していないらしい。


 逃げ出すように駆け出した亞里亞は、自室から必要な道具を持ってきたらしい。

 『えりくしえる』と書かれた藁人形を磔刑にして、火あぶりにしている。燃え盛る炎を眺めながらニヤニヤしている彼女を見ると、とてもかつて聖女ともてはやされた少女とは思えない。


「神よ……ふふ、うふふふ」

 

 一人で達成感に酔っている。

 もう俺は話しかけるのをやめた。関わりたくない……。


「あ……火事になっちゃう!」


 乃蒼が大慌てで走っていった。消火用のバケツを持ってくるつもりなのかもしれない。

 亞里亞、……後で反省しろ。 


「ミカエラさん、ごめんな。せっかく会いに来てくれたのに、その……亞里亞のことは許してくれ。複雑な事情があるんだ」


 大人な俺は身内の尻ぬぐい。


「私たちの神、エリクシエル様は一人ひとりの心の中に宿っています。どのような御言葉も、偶像も聖遺物も本当の神の前では等しく無意味。その本を燃やされたところで、信仰の光が消えるわけではありません。それは下条さんに差し上げたものですので、どうぞご自由に」


 お……おお、なんということだろうか。亞里亞の非道な行いを許してくれるらしい。

 偉い!

 邪教とか言って怒り狂って塩を投げまくるどこかのカルト教団とは大違いだ。宗教には寛容さが必要だと思うんだ。


「……世界に広がる『救世の輪』。どうかご理解を」

「『救世の輪』?」


 たぶんパンフレットに書かれてたんだと思うけど、あれは塩の山に埋もれてるからな。今更引き出すわけにもいかないし、変に熱心な様子をミカエラに見せたくなかった。


「エリクシエル教の標語、とでも言いましょうか。世界の危機に救世主が現れ、人類に変革をもたらすという言い伝えです。そのために人々は慈しみ合い、互いを尊重し協力し合う必要があるのです」

「……そうなのか」


 もうすでに人類の危機を目の当たりにした俺にとっては、今更感のある標語だった。

 

 この後、ミカエラは適当にクラスメイトたちと話をしたのちに、この都市を立ち去った。そのままマルクト王国に向かうらしい。

 咲に会うためではなく、エリクシエル教の都合とのことだ。向こうで熱心に布教でもするのだろうか?


突然ですが読者の皆さんの今日の運勢を占います!

むむ……むむむ……見えた!


・努力もほどほどに

読者のあなたは人生の転換期にいます。

困難な目標に向けて努力を強いられるでしょうが、体調を意識してほどほどに。

困難な時に助けてくれる友人は、あなたの目の前にいるかもしれません。

時には娯楽も必要ですので、仕事や勉強ばかりではなく息抜きの時間を意識するようにしましょう。


・ワンポイントアドバイス

新しい小説を読んでみると幸せになれるかも。


ラッキーナンバー:5、10

ラッキーカラー:黄色

ラッキー方向:画面の左上、(スマホ)

ラッキーワード:クラス、の、女子全員、+、俺、だけの、異世界召喚


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ