小鳥ハーレム入り
小鳥が倒れた。
唯一の恋人を自称していた彼女だったが、実際のところ俺には他の婚約者がいた。同じ屋敷に住んで、あまり性的に褒められた生活をしているとは言えない。それに妊娠している子もいる。
ショックだったんだと思う。倒れてしまったのはきっとそのせいだ。
こんな言い方は小鳥に失礼かもしれないが、俺たちは安心した。これだけ衝撃的な出来事があっても、彼女は狂うことなく己の自我を保ち続けていた。もはやベーゼのことは忘れてもいいかもしれない。
そもそももはや魔剣はここにないのだ。剣の力を持たない小鳥が暴れたところで、その被害はたかが知れている。
相談した俺たちは、彼女を屋敷へと連れていくことにした。
馬車を使って三日ほどの距離だ。小鳥は二日目に目を覚ましたが、落ち込んでいるのか疲れているのか、うまく話にならなかった。新しい屋敷に連れていく、と説明したら、こくりと頷いてそのまま眠ってしまった。
まだ魔剣から解放されたばかりの彼女だ。いろいろと体調が戻っていない部分があったのかもしれない。
そして、俺たちは屋敷へと戻った。
寝ていた小鳥は屋敷の仮眠室へと運ばれたが、すぐに目を覚ました。
ややぼんやりとしているように見えるが、意識ははっきりとしている。
小鳥と俺。
ベッドから上半身を起こす小鳥と、それを見下ろしている俺。簡単な見舞いではない。あの時ショックを受けた出来事について、確認しておく必要がある。
「……すまなかった」
俺は謝った。
体調も戻り、真実を知った彼女に嘘をつき続ける意味などない。俺には今の状況をありのままに伝える義務がある。
「俺はどうしようもないクズ野郎だ。乃蒼も、雫もりんごも……一紗も何度も抱いた。しかもそのうえで……小鳥も抱いてしまった。二股どころじゃない、十一股。しかももうすぐ子供が生まれるんだ。あの商人が言っていたことは全部本当だ。俺のことを殴ってくれてもいい、罵ってくれてもいい……」
言ってしまった。
俺は小鳥を裏切った。どれだけ怒られても仕方ない、そう思っての発言だった。
しばらく沈黙が続いた。
針の筵に座らされた心地。小鳥はいったい何を考えているのだろうか? わからない。ただ謝罪の言葉を口にすることしか……できない。
やがて、小鳥は静かにその口を開いた。
「私のことを心配してくれたんだよねぇ?」
「何の言い訳にもならないかもしれないけど、確かにその通りだ。小鳥を元に戻すにはこれしかないって、必死だった」
「私のこと、好きじゃなかったのぉ?」
「ハーレム状態の俺がこんなことを言っても、嘘っぽく聞こえるかもしれない。でも俺はあの時、小鳥のことを愛していた。だから抱きたいと思った。義務だとか嫌々とか、そんな気持ちはなかった……」
だからと言って、俺の行為が正当化されるわけではないが……。
俺の言葉を確認した小鳥は、ゆっくりと頷いた。
「私は匠君のおかげでこの世界に戻れた。私にとって匠君がすべてだったよぉ。あの日、気が付いたら匠君の顔が目の前にあって、キスされて、おっぱい吸われて、大事なとこ触られて、恥ずかしくて嬉しくて……頭がどうにかなりそうだった。心が爆発したから、私は元に戻れたんだよぉ」
「……小鳥」
「私は匠君が好き、二番でも五番でも十一番でも、あなたのそばにいたい」
声に意志をのせて、そう宣言する小鳥。
俺は感動で泣きそうになってしまった。
こんなにも小鳥は俺のことを愛していたのだ。だからこそ魔剣ベーゼの支配から逃れることができたのだ。
「ダメ、かな……」
上目遣いに、小鳥が俺の手を握った。
「小鳥っ!」
俺は彼女を抱きしめた。
「こんなただれた俺だけど、許してくれるなら一生懸命大切にするから! ありがとう、小鳥!」
「うん……うん」
縋りついている彼女が、たまらなく愛おしかった。
小鳥はこの屋敷に住むこととなった。
もとより、かつて彼女が住んでていた建物にはもう誰も住んでいない。一紗、雫、そしてりんごがこの屋敷に来てしまった今、あそこは無人となってしまったからだ。
小鳥は俺と一緒になることを望んだ。この屋敷に住むことは当然だった。
こうして、小鳥は正式に俺のハーレムへと入った。
魔族は死に、小鳥は救われ、俺たちは何の悩みも悲しみもない、幸せな生活を満喫することとなった……はずだった。
この時、俺は知らなかった。
まだ、戦いが終わっていないという、その事実を。
事態は俺の全く預かり知らないところでひそかに、そして劇的に進行していたのだった。
ここで魔剣ベーゼ編終了です。
意外と長くなってしまってびっくり。
2019/9/5 運営の警告により後半部分を削除。




