表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
魔剣ベーゼ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

237/410

煉獄葬送



 ――祟り神。


 それは魔剣ベーゼが持つ必殺技の一つなのだろうか。

 小鳥の周囲で増大していた黒い霧は、一点に集中して一つの形を取った。

 黒い霧を纏った髑髏が、宙に浮いている。

 いかにも死神といった見た目だ。手に持った鎌は魂を引き裂いてしまいそうなほどにおぞましく、そして呪いにふさわしい姿だった。


〝血反吐をぶちまけろや! 『煉獄葬送』っ!〟


 宙に浮く黒い死神が、手に持った鎌を振り回した。


「〈白刃〉っ!」


 俺は即座に聖剣による攻撃を放った。しかしその刃は髑髏に当たることなく、ただすり抜けていっただけ。黒い霧のように実態がないので、物理的に倒すことは不可能だったか。


 とはいえ手をこまねいているわけにはいかないので、すぐさま二撃目を打とうとした俺だったが……。

 

「ごぶはっ!」


 俺は血を吐いていた。


「な……」


 苦しい。

 胃と肺からこみあげてくる血は、留まることを知らない。ショックと貧血のせいで、俺は意識を失いかけていた。

 俺だけじゃない、一紗も、りんごも、雫も……みんなみんな……血を吐いて地面に倒れていた。


 まさかこれが、あの死神――祟り神の攻撃?

 嘘……だろ。

 俺たち、このまま全滅?


「匠君っ!」


 うっすらとした意識の中、かすかに聞こえてきた……女神の声。

 乃蒼だ。


「大丈夫?」


 気がつけば、俺の体は元に戻っていた。

 聖剣ハイルングとしての乃蒼の力は癒し。彼女の力によって、俺は絶体絶命の危機を回避した。

 体が……癒されている。

 

「く……乃蒼……、すまん」


 俺の無事を確認すると、乃蒼は隣で倒れている一紗に駆け寄った。俺と同じように、回復させるつもりらしい。


 これは、ヤバかった。

 乃蒼の癒しの力がなければ、俺たちは全滅していた。


 魔剣ベーゼは黒い霧を使って攻撃してくるだけの存在ではない。こういった遠距離の――『呪い』みたいな技もあるということか。


 先の攻撃は魔剣ベーゼとしても大技だったらしく、その反動のせいか小鳥は全く動いていない。無防備な俺たちや、それを回復しにきた乃蒼が全く攻撃されなかったのは助かった。今の俺には反撃なんてとても無理だからな。


 俺は即座に〈白刃〉を放ったが、小鳥は最小の動作でこれを回避する。動けないわけではないらしい。


 しばらくの攻防が続いた。

 時間がたつにつれ一紗、りんご、雫が復帰し、一方でベーゼを扱う小鳥の動きも元に戻ってきた。

 

 それにしても、まさかここまで追いつめられるとは……。

 やはり、ベーゼはもともとそれなりの力をもつ魔剣だったということだ。主として不適格の小鳥であるからこそ、俺たちに付け入る隙ができただけ。

 だがその拮抗もさっき崩れてしまった。それは魔剣ベーゼの告げ口。俺と一紗たちの関係を……奴らが見抜いたから。

 ってことは、やっぱり……。



「なあ」


 ルーチンワークに近い攻防を繰り返しながら、俺は一紗に話しかけた。


「小鳥って、俺のこと好きだったのか?」


 他人に聞くようなことじゃない。そんなことは分かっている。だが彼女の感情がベーゼに利用されてしまうなら、戦う側の俺は知っておかなければならない。


 はっとした表情をした一紗は、両手で魔剣を操りながらゆっくりと頷いた。


「そうよ。小鳥は、あんたのことが好きだったの」


 今にして思えば、伏線のようなものがあった。

 このレグルス迷宮で小鳥と出会ったあの日、真っ先に一紗たちが襲われたのに俺は生き残った。

 俺だけが小鳥に襲われなかった。むしろ俺と出会えて彼女は嬉しそうにしていたぐらいだと思う。狂っているから行動も意味不明だとあの時は思っていたが、別の解釈もできる。


 俺のことを好きだったから、俺だけを生かした?

 

 小鳥は魔剣ベーゼによって操られているが、その支配は完全ではないらしい。むしろ十分な力を出せず、あの魔剣はもどかしく思っているようだ。俺が生きていたのは、彼女の意思にベーゼが気を使ったから?  


「ねえ、それってやっぱり、あの剣が言ったのかしら?」


 〈同調者〉としての俺の能力を知る一紗は、すぐに正解を予想したらしい。


「魔剣ベーゼが小鳥を煽るためにそう言ったんだ。あいつが本当のことを知ってたのか、そうでないかは分からないが……」

「サイテーよね」

「ああ、そうだな。魔剣は心悪しき者、とは聞いてたが、あのベーゼはひどすぎる。あれじゃあ小鳥が……」

「そうじゃないわ、あたしよ」

「…………?」


 あたし?

 一紗が最低?


「あたし、小鳥が匠のこと好きって知ってた。ううん、むしろその恋を応援してたりしてたわ。あの時のあたしには彼氏がいて……。でもあの日、あんたに抱かれてすべてが変わった。もう、あたしたちは戻れない」


 そう、か。

 いや、元はと言えば一紗を誘ったのは俺だ。彼女を悪いと言うのはお門違いだ。

 それに――


「……謝罪も、罪滅ぼしも、全部後でいい。今は小鳥を助けることだけに集中しよう」

「そうね。そこからよね!」

 

 未だ小鳥はベーゼから解放されていない。


〝おらああああっ、このアマ! 何ちんたらしてんだよ! 男が寝取られたんだぜ! 熱くなれよ! 絶望しろ!〟


 魔剣ベーゼは小鳥を焚きつかせたいらしく、あの手この手で暴言を吐いている。しかし先ほどの件で耐性ができてしまったのだろうか、小鳥に大した反応は見られない。

 聞くに堪えない暴言に、俺のいら立ちは増していくばかりだった。


 大技を放たないとはいえ、小鳥は攻撃の手を緩めてはいない。尋常でない身体能力や闇の刃は今まで通りだ。俺たちは決して油断できる状況じゃない。

 

 小鳥が跳躍した。そのまま剣を振り下ろすのは……俺のところか?


「くっ!」


 俺はヴァイスでその剣を受け止めた。重力の力を得たその剣は重く、油断すれば競り負けてしまいそうだ。

 もっと力を!


 そう思い気合を入れていた俺だったが、すぐにその変化・・に気がついた。


 ピタリ、と小鳥の動きが止まった。

 剣を構えたまま、静止。俺に向かってくる圧力がすべて消失した形だ。


〝……こ、この女! なにしやがる!〟


 焦るベーゼの声が聞こえた。


 なんだ? 何が起こった?


 不意に、光が生まれた。

 黒い霧のようなベーゼの力に包み込まれていた小鳥であったが、彼女の胸のあたりから光が生まれた。

 太陽のように強いその光は、瞬く間に広い部屋を真っ白に染め上げる。


 なんだ、これは?


 光り輝く世界の果てに、俺は一つの心を見つけた。



 その時、俺は幻を見た。

 それは、少女の恋の記憶。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ