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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
魔剣ベーゼ編

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白い少女


「あっははははあはははははははははあっ」


 小鳥が、黒い刃を従えて俺たちに迫る。理性を感じさせないその赤い瞳は、俺たちのことを餌か何かとしかとらえていない。

 狂気。

 しかし狂気に彩られてもなお、小鳥の動きは一流だった。


 攻撃は激烈。

 回避は俊敏。


 攻撃を受ける一紗は対処することに精一杯で、反撃することができていない。


 加勢する、と俺が駆け出そうとしたちょうどその時、一紗と小鳥の間に一陣の黒い風が吹いた。  

 雫の矢だった。


 後退する小鳥。


「逃がさない。――付加エンチャント


 雫が矢を射た。その軌道は正確であり、小鳥ではなく彼女の持つ魔剣へと当たる。


〝痛ってぇ……〟


 ただの矢ではなく魔族の魔法を付加した一撃だ。さすがに剣を破壊できるレベルではなかったが、多少なりとも魔剣には効いたらしい。


 雫は矢継ぎ早に矢を射た。


「――召喚サモン


 背後ではりんごが召喚魔法を使っている。


 ゴーレム。

 グール。

 グリフォン。


 どうもこの魔物召喚の適性と魔法の適性は関係があるらしく、もともと魔法使い扱いであったりんごはこの術に長けていた。

 魔物たちは勢いよく小鳥へと迫っていく。


「――嘆きの凍獄コキュートス

 

 むろん、りんごは従来の魔法も使うことができる。

 氷系最強魔法嘆きの凍獄コキュートスは小鳥を一瞬だけ凍らせたが、魔剣ベーゼの力ですぐにそれを振り払った。

 その一瞬の隙をついて魔物たちが迫る。


〝邪魔だ雑魚ども!〟


 小鳥は例の黒い霧を噴射して魔物たちを吹き飛ばした。

 しかしすぐにりんごの召喚した魔物たちが彼女に殺到する。雑魚は雑魚。しかし群れればそれなりに効果がある。


 その隙をつき、俺は戦闘準備をする。

 俺は胸当ての中に手を入れ、一本枝のようなそのアイテムを取り出した。

 

 〈籠ノ鞘〉と呼ばれるこの魔具は、かつてゼオンが所持していたマジックアイテム。異空間に保管された聖剣・魔剣を呼び寄せるためのキーとなっている。


 俺の後ろに二十本の聖剣が突き刺さった。


 俺はゼオンの剣を手に入れた。

 しかし奴みたいに数百本同時に使うことはできない。〈千刃翼〉とはあの魔族固有の純魔法であり、とてもではないが俺が扱えるものではない。

 かつて優が魔王と戦った時、複数の聖剣を同時使用して気絶してしまったらしい。俺も一度訓練として同時使用したことがあるが、やはり同じように意識を失ってしまった。



 しかし数多くの聖剣、魔剣を手に入れたことは俺にとって戦略の幅を広げる結果になった。


「輝け〈白刃〉、凍てつけハーゲル」


 さすがに十本同時には使うことができないものの、俺は剣を持ちかえれば連続して聖剣・魔剣を使用することができる。遠距離技と併用すれば、クールタイムは二秒に満たない。


 白、水色、赤、黒、灰色、様々な属性を持った刃が小鳥へと迫っていく。

 小鳥は即座に俺の聖剣による技を打ち消した。基本的な力は魔剣ベーゼの方が強いため、これは仕方のない事。


「一紗」

「はいはいっと!」


 流れるような動作で、一紗は俺の背後にあった魔剣を掴み取る。

 

「吸い尽くせ魔剣エーゲル、グリューエン!」


 もちろんのことだが、この剣は一紗にも貸与することができる。彼女もまたレベルの高い魔剣、聖剣適正者。俺と同じように二刀流でも三刀流でも対応できる。


 さしもの小鳥も、連撃を処理していれば反撃の糸口が掴みにくい。 


 俺と一紗は幾重にも聖剣・魔剣による攻撃を加えた。

 雫は強化された矢を正確にぶつけた。

 りんごは魔物を大量に召喚しながら、時々魔法を使って攻撃した。


 とても効率がいい、そして連携の取れた攻撃だったと思う。地上侵攻の魔族相手であれば、有効な攻撃だったはずだ。


 だが魔剣ベーゼにはほとんど効果がなかった。元々魔剣自体が高い耐久力を持っており、それを扱う小鳥の身体能力も強化されている。


〝ちっ、ちょろちょろちょろちょろと、うっとおしい奴らだなぁおい〟


 なんだろう。

 声が聞こえるようになったせいか、あの魔剣ベーゼが小物に見えてきた。奴のチープで人間臭い台詞が、まるで物語の中の小悪党に聞こえてきて仕方ない。


 もちろん、それはただ単に錯覚だ。実際小鳥の動きは一流であり、何より彼女を人質に取られているこの状態は俺達にとってピンチ以外の何者でもない。

 だがそれでも俺に勇気を与えてくれると言う点では僥倖だ。そして俺が最初に出会ったころとは違い、みんなそれぞれ別の技を身に着けて強くなっている。


 奴のいら立ちは、俺たちの攻撃が効いていることを示唆しているのかもしれない。


 俺たちは負けない。

 今度こそ、小鳥を助けるんだ。


〝いい加減にしろよ。糞虫どもが……〟


 格下と思われていた相手に思わぬ苦戦を強いられ、苛立っているのだろうか。魔剣ベーゼの暗く淀んだ声とともに、小鳥の周囲に散らばっていた黒い霧が増大する。


〝――ぶち殺せええええええええええええええええええええええええええっ! 〈黒王刃〉っ!〟


 小鳥が剣を振るうと、数百の黒い刃が空中に出現した。


「――〈白王刃〉っ!」


 俺は即座に対抗策を発動する。同じく、同時に白い刃を出現させる〈白王刃〉だ。


 その刃の数は、奇しくも同数。

 二つの刃はけたたましい金切り音をあげてぶつかっている。あまりの激音に乃蒼は耐えられなかったらしく、耳を塞いでしゃがみ込んでしまった。

 そして黒い刃は白い刃によって完全に相殺された。


「…………」


 危なかった。

 かつて部屋に入ったと同時に一紗たちが全滅してしまった悲劇を思い出す。あれはこの技だったのだろう。昔のように不意打ちを食らっていたら、また全滅してしまうところだった。 


 いや……それだけじゃない。

 心なしか、聖剣ヴァイスの力が強くなっていたような……。普段の〈白王刃〉だけでは、速度も威力も数も足りなかったはず。


 不意に、聖剣ヴァイスが白く輝き始めた。


「な……なんだ」


 別に力を改めて解放したわけではない。技を使おうとしたわけでもない。特に何の前触れもなく熱と光を放つ剣に、俺はただ戸惑いを覚えるだけだった。


 光が収束すると、そこには一人の少女がたっていた。

 白い着物を着た、半透明の姿。

 〈白き刃の聖女〉と俺があだ名する聖剣ヴァイスの元となった人間だ。


 俺を助けるために現れてくれたのか? と思ったがどうも様子がおかしい。


〝テオ……〟


 その視線の先には、魔剣ベーゼ。


〝ちっ、姉貴じゃねーか〟


 と、魔剣ベーゼが言った。


 は?


 姉貴?

 こいつら、知り合いなのか?

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