結婚式の提案
つぐみと璃々が妊娠した。
発覚したのは同時だったが、つぐみの方が気づくのが遅れたらしく、妊娠約十一週目とのことだ。大統領職の激務による体調不良だと思い込んでいたらしい。
大統領は大変だ。彼女の体調を考えるなら辞めてもらいたい……。
でも妊娠したから大統領辞めるだなんて、一番つぐみが嫌いなパターンだよな。きっと代役を立ててすぐに復帰するんだと思う。
俺は気遣いの言葉しかかけることしかできなかった。
一方璃々は教会に籠っていた。
「女の子でお願いします女の子でお願いします女の子が良いんです女の子女の子女の子」
璃々が教会で祈っている。亞里亞が建てた例の教会だ。
いやその像にいくら拝んだところでご利益なんてないと思うけどな。何せ亞里亞が用意した俺の像だ。神でもなんでもない。
祈るならお空の神様に向かって祈ってくれ。
あまり祈りすぎては体に毒だからだと、適当に引き上げさせた。
もうあの像取り壊そうよ……。
そして――
二人の事とは別に、俺は考え事をしていた。
ずっと、悩んでいた。
これまでの事を思い出す。
多くの戦いがあった。
悲しい別れもあった。
そして多くの子と結ばれた。
俺たちは常に激動の中にいた。革命、戦争、陰謀、悲劇。祝い事とかそういったこととは無縁の、波乱の異世界生活だった。
でも魔王が死に、イグナート、マリエル、ゼオンが死に、そしてつい最近、とうとう最初に争っていた貴族たちまで死んだと聞いている。
もう俺たちに敵はいない。平和な時代が訪れたのだ。
もうそろそろ、いいんじゃないか?
「式を挙げたいんだ」
勇者の屋敷、食堂にて。
全員が仲良く食事をとっている中、俺はそう告げた。
「式? 結婚式か?」
と、代表するようにつぐみが問い返してきた。
「もう……子供が生まれそうな鈴菜には申し訳ないけど。このタイミングしかないと思う。平和な時代になったんだから、俺たちも次のステップに進んでいいと思うんだ」
「私のことは問題ないさ匠」
鈴菜がお腹をさすりながらそう言った。
すでに妊娠七か月程度の鈴菜は、傍から見てもよくわかるほどにお腹が大きくなっている。子供は元気に育っていることはとてもうれしいことだ。
すまないな、鈴菜。
でも問題は鈴菜の妊娠だけじゃない。十人という結婚式というにはあまりに多過ぎる花嫁たちも……考えなければならない。
この人数だ。一人一人盛大な結婚式を挙げていたら白けてしまうような気がするし、かといって全員まとめてという話では雑過ぎるような感じもする。
一体俺はどうすればいいんだ? 式は挙げたいがどうすればいいか分からない。そもそも俺は元の世界で結婚式を挙げたことはないし、参加したこともない。まったくの素人だ。
ここは身内だけの質素な式にすればいいのではないだろうか? 一週間間隔ぐらいで一人ずつ、みんなで祝う小さなお祭り。
ちょうどそれっぽい教会近くに建ってるし、雰囲気は出るんじゃないかな? お金をかけることがすべてじゃない。俺たちが楽しければそれでいいんだ。
「えっと、それでだな。この人数でいろいろと大変だと思うから、身内だけの――」
俺がそう宣言しようとしたその時、結婚式の話を聞いた彼女たちが口々に喋り始めた。
「私お嫁さんになるんだよね。はぁ~嬉しいなぁ」
「大学の皆を呼んでいいかな?」
「国民の休日にしてはどうだろうか? 各国の有力者に招待状を……」
「近衛隊のみんなも全員呼びたいですね。ミーナさんのウエディングドレスも用意しますね」
「あたし新婚旅行は南の島がいいなぁー。海の綺麗な建物で――」
「けっ、結婚! わ、私は別にお前のことを好きだなんて……。あ、その、式が嫌なわけでは……」
「りんごはねー、しずしずと一緒に結婚式挙げたいな」
「軍団の皆も呼びたい! 皆の前で〇ックスしたい!」
「結婚式なんて想像したこともなかったにゃ」
「式の様子を描いた宗教画を作りましょう。教会にそれを飾って、毎日の御祈りを義務といたしますわ」
う……うーん。なんというカオス。これを一体どうやってまとめろと?
今更質素で小さな式なんて……言えない。
この後、いろいろ話し合った結果国を上げての合同結婚式という結論になった。ちなみにそれを推奨したのは一紗とつぐみだ。
……こ、怖い。
なんでもこの日は国民の休日になって、ウエディングドレスを着た嫁たちがパレードに参加するらしい。そこにはマルクト王国の国王がいて、咲がいて、神聖国の司祭(善人)がいて、軍人も大商人も貴族もかなり来るらしい。それでめっちゃ派手なBGMとか花吹雪とかで、大通りどころか都市全体を歩いていくらしい。俺は皇族か有名人か何かのように、神輿の上で手を振ったりするのかな?
ヤバイ、ヤバイよ。乃蒼震えちゃってるよ。オレも隣で震えてたよ。
まあ乃蒼ちゃんは恥ずかしがり屋だからということでパレード免除になったが、俺が許されるわけもなく……。強制参加らしい。
『こいつが十人もハーレムこしらえた男か』とじろじろ見られるのかな? どこの男尊女卑悪徳貴族かな? さすがに恥ずかしすぎだろ俺。誰か代われよ。
うっ、なんだか胃が痛くなってきたような気がする。




