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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
刀神編

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222/410

聖アントニヌスの御言葉


 アスキス神聖国首都、セントグレアムにて。

 

 乃蒼の力を使って体を全快させた俺は、首都へと足を運んでいた。

 かつてこの地は魔族に支配されていた。そしてつい昨日までは大きな建物がいくつも壊れるような大戦争があった。

 刀神ゼオンと俺たちの戦いは熾烈を極めた。その余波は、いたるところに多くの傷跡を残している。

 

 中央広場には軍人が集まっていた。

 いくつかの建物と、仮設テントのようなものが設置されている。

 どうやら、軍人たちは戦地となったこの都市の復興に携わっているらしい。

 が、今の様子は復興どころではない。

 

 群衆が兵士に詰め寄っていた。


 兵士たちに囲まれ、中央に立っているのはつぐみとアウグスティン国王……それから咲だ。

 咲はやや疲労感のある顔色ではあるが、怪我などはないように見える。どうやら無事だったようだな。


 それにしても、この群衆は一体?


「出ていけっ!」


 群衆の中から、野太い男の声が響いた。


「し、市民の皆様。私たちはあなた方を救いにきた! もう二度とこのような争いが起きないよう、手を取り合って復興に力を注ぐべきだ」



 つぐみが声高らかに主張している。

 アウグスティン国王は口を開いてはいるが、元来それほど話し上手でないのが災いして……聴衆には全く聞こえていない。

 咲は大人しくしている。魔族に囚われたのが堪えたのか、それともこの場で何を言っても無駄だと悟っているのか、俺には分からない。


 つぐみは頑張っているようだが、不満げな市民たちは文句を言うことを止めない。


「女のくせに政治家の真似事しやがって! 大人しく俺たちのチ〇〇をしゃぶってればいいんだよ!」

「脱げ!」

「聖アントニヌス様の教えを守れっ!」


 ……こ、これはひどいありさまだ。少し魔族に襲われたぐらいで改心するわけがなかった。

 というか自分たちが悪いとすら思ってないみたいだ。魔族を倒せたのは自分たちの神のおかげ、とすら思っているかもしれない。


 そんな彼らを宥めながら、何とかして話し合おうとしているつぐみ。しかしそのこめかみがひくついている。激怒して『死刑』とか言ってしまいそうな雰囲気だ。

 この市民たち、まるで分かってないな。つぐみがキレて軍人使って制圧なんてことになったら、困るのはお前たちだぞ。


 普段はこういった政治っぽいことに口を挟まない俺だが、今度は切り札がある。


「頼めるか? じいさん」

「どこまでいけるかは分からないが、祖国の恥は私の恥。可能な限り力を貸そう」


 聖剣ゲミュートの力を使い、〈同調者〉としての力を覚醒させる。

 すると俺の持っているゲレヒティヒカイトに封印されていたアントニヌスが、その姿を現した。


「せ、聖アントニヌス様!」

 

 老いたとは言えその姿は石像の聖人と瓜二つ。信心深い都市の住民たちは、聖像を目の前にしたかのように跪いた。


「――親愛なる我が子孫たちよ」


 それはまるで、天から降り注ぐ神の御言葉。

 さすがは元聖人。ある種の神聖さを孕んだその声は、荒ぶっていた群衆を一瞬で黙らせてしまった。


「男は妻を愛し、妻は夫に尽くすものである。伴侶以外の女性に淫らな行いを求めるとは何事か! 欲望に身を任せてはならない」

「お、俺たちはアントニヌス様の教えに従って行動しました。女を抱いて、犯して、子供が増える。これほどうれしいこたぁねぇ」


 …………。

 本気で悪いと思っていないあたりが、呆れてものを言えない。


「浅はかなり」


 呆れを感じたのはアントニヌスも同じらしい。深いため息をついている。

 しかし聖人としてこの場に立つ彼のため息は、耳を傾けている信者にとっては一大事だったらしい。どよめきの声が広まっていく。


「教義があれば人を傷つけてよいのか? 女で欲望を解放してよいのか? 自らを律せずして何が信仰か」

「…………し、しかしアントニヌス様。教義にはそのように……」

「我が子孫たちよ、まだ分からぬか。神は我々を試されていたのだ。自らを律せるかどうか、これもまた修行」

「……な、なんと、そのような」


 ……教義全部偽物でした、って言うよりもそっちの方が効果的か。


「女性は弱い。だからこそ我々が守る必要がある。違うか?」


 うーん。

 よくつぐみが話しているような共和国憲法の自由・平等とはちょっと違う気がするが、あえてそのことを指摘する必要はない。とりあえず争いがなくなることこそ最優先なのだ。


「私は聖アントニヌス。この国を……いつまでも見守っている」


 そう言って、アントニヌスは姿を消した。……というか目で合図してきたので、俺が〈同調者〉の力を終わらせた。


「聞いての通りだ」


 ここで俺は前に出た。


「あんたたちの聖人は俺たちに味方をしてくれた。少しだけでいい、男も女も手を取り合って暮らせる……そんな世界を目指してくれないか?」


 一応、俺はゼオンを倒してこの国を救ったことになっている。救国の英雄を前に、多くの人々が耳を傾けてくれた。


「俺たちが……間違っていたのか?」

「聖アントニヌス様は正しい。なら……」

「聖アントニヌス様、俺たちは……」


 効果はあったようだ。

 もちろん、全員が全員言いつけを守るわけがない。群衆の中にも、不満をわめき散らしている者や暴力に訴える者も少なからず存在する。

 しかし、あの声は確かにここにいる人々の心に届いたのだ。


 内容に不満があったらしいつぐみが、冷たい目線をこちらに向けているが気にしない。なんでもかんでも理想を追い求めてもうまくはいかないと思うので、この辺りで勘弁してほしい。


 その後、多少の混乱はあったが復興への段取りは進んでいった。

 

 


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