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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
刀神編

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命の輝き


 ――〈真解〉。


 それは聖剣自身を犠牲にして発動させる、最強最大の技。


 ゼオンを倒したい。この国の人々を救いたいという俺とじいさんの願いが一致して初めて生まれる必殺技。


 この技を発動させた瞬間、目がくらむほどの強力な光が剣から放たれた。もともと剣を光らせて強化するタイプの聖剣だから、この点についてはこれまでと大して変わらないと思う。


 次に俺が目を開くと、そこには光の柱があった。

 剣からそびえ立つその光は、それ自体が巨大な剣の形をして空へと向かっている。雲を突き抜け、遥か大気圏まで向かっているため、その先端がどこで終っているのかを目視することは難しい。


 剣を握る手を通して、恐ろしいほどのエネルギーを感じる。天を穿つ力の奔流は、聖剣の最後にして最大の力。聖剣の白いじいさん――アントニヌスが生み出した奇跡。


 じいさん。これがあんたの……命の輝きか。



 美しい。

 いかにもファンタジー世界的なその光景。今が戦いの最中でなければ、その美しい現象に見惚れていただろう。


 おそらくグラウス共和国やマルクト王国からも、この光の柱は見えているはずだ。一紗や雫は、この輝きを見ているだろうか? あるいは近くで戦っているエリナは、つぐみは?

 本当の意味で……伝説となる戦いだったということだ。


 俺がこの国を……世界を救ってみせる!


「終わりだ、ゼオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンっ!」

 

 完全に不意の一撃。ゼオンは俺の聖剣を見て動こうとはしているが、間に合わない。


 俺は天高くそびえ立つ光の聖剣を……そのまま振り下ろした。


「う……ぐ……おおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 ゼオンはこれまで見たことのないような表情をしながら、剣を構えて迎撃を試みた。しかしその巨大な光の柱を防ぎきることもなく。地面に叩きつけられてしまう。

 衝撃で、彼の持っている聖剣が折れた。体にその光の刃が接触する瞬間を、俺は確かに目撃した。


 完全に、決まった。


 聖剣が放つ力を、完全にゼオンへと叩きつけた。タイミングも完璧だった。


「じいさん、やったぞ!」


 俺ははしゃぐように聖剣ゲテヒティヒカイトへと語り掛けた。しかし――


「なっ……」


 剣は、柄の部分を除いて変わり果てた姿となってしまった。

 錆だ。

 まるで幾年もの月日が流れて錆付いてしまったかのように……明らかに劣化していた。

 

 俺は震える手で剣を顔に近づけようとした。

 ぼとり、と何かが落ちる音が聞こえた。

 刀身の半分が、折れて地面に落ちた音だ。


 俺が力を加えたわけじゃない。ごく自然に、風に当たったただそれだけで折れてしまったようだ。


「…………」


 そうか、じいさん。逝ってしまったか。

 あんたは英雄だったぜ……。俺はあんたのこと、忘れないからな。


 聖剣ゲレヒティヒカイトの〈真解〉。それは世界を救う、光の柱だった。


「ぐ……あ……」


 口元に赤い血のような液体をまき散らしならが、刀神ゼオンがうめき声を上げた。

 どうやら、ゼオンは生きているようだ。


 しかしあの強力な魔族をもってしても、命を賭した一撃には耐えきれなかったようだ。左肩と左足の一部が切断され、もはや自分で立つことすらできないらしい。

 人間の常識でいえば、もはや瀕死の重傷だ。ほっといても死ぬ。でも魔族と言うカテゴリに当てはめて考えるなら……まだ戦える可能性すらある。

 油断はしない。


 とどめを刺さなければ。


 俺は聖剣を構えるのとほぼ同時に、ゼオンが動いた。

 動く、というのは少々語弊があるかもしれない。彼は荒い息をするだけで、ぴくりともその場から動いていないのだから。

 変化したのは、武器。

 空間に生じた黒い亀裂の中から、一本の聖剣が出現した。


 あれは……まさか……。


 乃蒼の……聖剣。


「――解放リリース、聖剣ハイルング」


 ゼオンが乃蒼の聖剣を発動させた。


 すると、剣から緑色の風が出現した。甘く、それでいて癒されるアロマオイルのような香りを周囲に充満させながら、その空気はゼオンの体を包み込んでいく。


 俺はすぐさまゼオンへと駆け寄ったが、時はすでに遅かったらしい。


「……ふむ」


 そこには、ゼオンが立っていた。

 腕も、足も元通り。これまでの怪我がまるでなかったかのように全快したゼオンは、再び『籠ノ鞘』を発動させて乃蒼の剣を仕舞った。

 すべてが、元通りになってしまった。

 俺の手元に残ったぼろぼろの剣と、傷ついた兵士たちを除いて……すべてが元通り。


 なんてことだ。まさか……乃蒼の剣は……。


 絶望を……この手で拭い去りたかった。

 だが五体満足でその場にたつ刀神ゼオンを見てしまっては、納得せざるを得ない。


「聖剣ハイルング。能力は対象の癒し。そなたの友人は素晴らしき才能を持つ、至高の聖剣であった」


 乃蒼の剣にそんな名前を付けたゼオンは、まるで自分の手柄であるかのように自慢げだった。

 奴は、乃蒼の聖剣を使って体を治したんだ。

 むしろこの剣の能力を試したかったから、俺の攻撃を食らったのかもしれない。

 

 なんて茶番だ……。俺はあいつの試し切りを助けるため、エリナの聖剣を差し出してしまったのか?


 じいさん……俺は……。

 

 俺の手から、壊れた聖剣ゲレヒティヒカイトが零れ落ちた。

 目元に溜まる涙を、抑えることができなかった……。


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