再戦、ゼオン
後日、俺は都市攻略戦に参加した。
すでにエリナからは聖剣ゲレヒティヒカイトことアントニヌスを借りている。秘められた新必殺技を解放するため、と正直に話したら快く貸してくれた。
すまないなエリナ。この聖剣、下手をすれば壊れてしまうかもしれない。
じいさんの意向もあるから、あまり詳しいことは話せない。しかし愛剣がなくなってしまうということは、彼女にとってとても悲しいことだと思う。俺が寂しさを埋めれればいいが、そう上手くはいかないかもしれない。
彼女には別の聖剣が与えられ、俺とは別の方向から攻め込むらしい。慣れない聖剣だ、無茶はしないで欲しいと念押ししてある。
南門から都市へ侵入する俺の軍団は、グラウス共和国の軍を主体としている。名ばかりではあるが、一応俺が将軍ということになっている。最前線で音頭を取りながら、みんなを応援することしかできないが……。
「みんな、聞いてくれ」
皆を率いる者として、景気づけの一言を言っておかなければならない。彼らのうち何人かは……二度と戻ってこれないかもしれないのだから……。
俺は声を張り上げた。
「すでにグラウス・マルクト両国の魔族たちは駆逐された。俺たちはここまでやってきたんだ。この神聖国が、人類の脅威である魔族唯一の拠点!」
しん、と静まり返った周囲に、兵士たちの息遣いが響いている。誰もが、俺の声を聞いてた。
何度か大勢の前で叫んだことのある俺だが、やはりこういう場面は緊張してしまう。声が上擦らないよう、注意していきたい。
「この戦を制することができれば、人類の夜明けがやってくる! 世界平和の伝説を、俺たちの手で掴み取るんだ!」
そう……これが最終章なんだ。
「人類に栄光あれ、進めっ!」
俺は剣を掲げ、駆け出した。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
兵士たちは俺の後に続いて、走り出していく。
迷いも憂いもないわけではない。しかしその瞳は、覚悟を決めた者のそれに変化している。
勇ましい限りだ。
これは伝説。
後世にその名を残す戦いとなるだろう。
こうして、魔族大侵攻を彩る最後にして最大の戦い、セントグレアム攻略戦が始まった。
気合を入れて門を開いた俺たちは、怒涛の勢いで都市の内部へと侵入した。
妨げるものは、何もない。
そう、誰もいない。
魔族によって支配されたその都市は、不気味なほど静まり返っていた。
無人、というわけではない。建物の窓から不安そうにこちらを眺める住民たちが見えた。外に出てこないことを見ると、外出禁止令でも出されているのだろうか?
これが最終決戦か?
といぶかしむ兵士たちの視線を感じる。
スパイたちの報告によれば、ゼオンは数十体の魔族たちとともにこの都市へ入ったはずだ。その人数でこの広大な都市をカバーしきれるはずもなく、俺たちが誰とも出会えないことは可能性として想定していた。
しかしゼオンは文字通り一騎当千の実力者なんだ。兵士が何人いたって足りない。
あっけないほど何の抵抗もなく、俺たちは中央広場まで到達してしまった。
そこには、侍風の男が立っていた。
刀神ゼオン。
一本の聖剣を地面へと突き刺し、杖のようにそれにもたれかかりながら俺たちを見据えている。
これほどの大軍を前にして微動だにしないその姿勢は、やはり魔族たちを統べる長ということか。取り立てて何もしてないのに、ある種の圧迫感すら放っているように見える。
乃蒼の剣は……見えない。使うつもりはないらしい。
木の枝を咥えていると言うことは、魔具『籠ノ鞘』を使用できるということ。奴がその気になれば、乃蒼の聖剣を含めて数多くの剣を出現させて攻撃してくるはずだ。
恐るべき技になるだろう。かつて優が魔王を殺した時と同等か、あるいはそれ以上に……。
ゼオンがゆっくりと口を開く。
「ようこそ人類の英傑たちよ。それがしの名はゼオン。今となっては魔族最強を自負する武人。そなたらの最後にして最大の……敵だ」
ごく自然な動作で剣を地面から引き抜くゼオン。
攻撃か、と身構える俺たちを尻目に、彼はその場から一歩も動かず剣を横なぎに振るった。
ひゅん、と一陣の風が吹いた。
瞬間。
「なっ……」
建物が、消失した。
この周辺にあった教会、時計台、噴水、街路樹、ゼオンを中心として直径約100メートル前後が……まるで地慣らしの工事でもしたかのように……更地になっている。
聖剣の力か? この力がもし……人間の体に向かったら……。
「さて、これで百人程度は戦えるのではないか? 遠慮はいらん。存分にその力を振るえ」
俺たちと戦うための土俵を用意したのか?
駄目だ。規格外の強さを目の当たりにして、兵士たちが完全に怖気づいてしまっている。
「恐れるな!」
俺はこいつに勝つ。
多くの兵士が犠牲になるだろう。力尽き、俺を恨んで死んでいく者もいるかもしれない。
本来なら、聖剣・魔剣使い以外の者たちは遠ざけるのが正しい。しかしこれは総力戦なのだ。どんな手を使ってでも、勝たなければならないのだから……。
「進めええええええええええええええええええええっ!」
俺は先陣を切った。
多くの人間を死地へ誘うこととなるだろう。しかしこの魔族を倒さずして、人類の平穏は訪れない。
これが最後の戦いなんだ。
未来は……俺たちの手で切り開く!




