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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
刀神編

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202/410

亞里亞、修道院へ入る


 アスキス神聖国首都、セントグレアムにて。


 聖女亞里亞は礼拝堂で祈りを捧げていた。

 深く、神聖な祈りは神にささげる少女の心。ステンドグラスから漏れ出す陽光を浴びるその姿は、ある種の美術品を彷彿させる美しさを秘めている。


 数日前、亞里亞は農夫から聞いた。魔族の危機が迫っていることを、そして多くの人々が犠牲になっていることを……。

 すぐに聖下に伝えなければ、と思った亞里亞は、この件を直接伝えることにした。


 そして今日、とうとう教皇との面談が叶ったのだった。


 祈りをささげる亞里亞の背後から、足音が聞こえてきた。

 後ろを振り返ると、そこには一人の男が立っていた。

 錫杖を持ち、冠を身に着けた荘厳な出で立ち。やや白髪の混じった灰色の髪を持つ、恰幅の良い男。


 教皇、ホーリーランド三世である。


「火急の用事、と聞きましたので時間を取りました。アリア、この度は余に伝えたいことがあると?」

「教皇聖下に申し上げます」


 教皇と亞里亞は師弟関係である。

 最初に亞里亞へアスキス教を教えたのは、偶然グラウス共和国にやってきていた司祭だ。しかし彼に連れられてセントグレアムにやってきて以来、彼女はずっと教皇から教えを受けていた。

 多くのことを教わった。神の尊さ、自分の生き方。女は男に奉仕すべき存在であると、劣った存在であると。


 亞里亞にとって教皇は神に近い存在なのである。自然と緊張するし、こうして話していること自体を誇らしく思える。

 

「先日、この近くで農夫の男性に会いました。彼は家族を魔族に殺され、多くの村が襲われたと聞きました。魔族の脅威が迫っているのは間違いありません。聖下、早急に対策を行うべきですわ」

「……農夫の件は余も心を痛めています。いかに卑賎の身分と言えど、神から与えられた命には違いありません。その件については余からも働きかけましょう。必要であれば軍の力も借りて……」

「……ありがとうございます、教皇様」

 

 亞里亞は安堵した。農夫の話を聞いたときはどうなることかと思ったが、教皇はしっかり話を聞いてくれた。


(これなら……心配いりませんわね)


 多くの命が救われたことを、少しだけ誇りに思う。自分はこの国に役立てた。それはとても尊いことで、聖女にふさわしいふるまいなのだがら。

 

「……貴重なお時間をいただき、ありがとうございました聖下。わたくしはこれで失礼いたします。またご機会があれば、身の上話を聞いていただきたく……」

「ああ……待ちなさい、亞里亞」

「……何か御用ですの?」

「今日あなたをここに招き入れたのは、余から伝えたいことがあっての事でもあります」

「……わたくしに?」

 

 亞里亞は一瞬だけ考えたが、すぐに首を傾げた。伝えたいこと、と言われるほどの内容を思いつかなかったからだ。

 

「……あなたをセントグレアム修道院に招きたいのです」

「わたくしを?」


 セントグレアム修道院。

 それは女性がアスキス教の精神にのっとって労働と祈りをささげる場所。禁欲的な生活によって神と一体感を得、信仰を深めるところだと聞いている。


 亞里亞は考える。

 多くの人々に神の存在を説き、『異邦人の聖女』と呼ばれるまでになった。


 しかし聖女といっても何か奇跡を起こしたわけではない。権力があるわけでもなく、学識があるわけでもない。ただ教皇の寵愛を受け、多くの人々を改心させたそれだけだ。

 本当の意味では、亞里亞はただの一信徒に過ぎない。否、その経験の少なさを考えれば一般的な信徒以下と言っていいかもしれない。


 だからこそ、亞里亞は望んでいた。

 学ぶことを。

 神を理解することを。

 修道院に入ることは、それを進めるための最も良い方法だと、亞里亞は常日頃から考えていた。


「これを機に、あなたがもっと神に奉仕できるようにと余からの親心……とでも言いましょうか。男である余からの申し出を断るとは思いませんが、一応話は聞いておきましょう。亞里亞、修道院に入ることへ、不満はありませんね?」

「……これでわたくしも、神の御心に近づけるのですわね。願ってもない申し出、感謝の言葉が足りないほどですわ」 

「それでは亞里亞、早速ですが修道院に向かいましょう」


 丘の上にあるセントグレアム礼拝堂は、修道院のすぐ隣。つまり今亞里亞たちが話をしている場所のすぐ近くが、修道院である。


「え? 今ですの?」

「良いことは早く行うべきです。今日ここであなたが余と面会したこともまた、神の導きなのでしょうから……」


 教皇は礼拝堂の奥に設置されていたドアを開くと、亞里亞の手を引いて中に入った。

 そこは、渡り廊下のような構造をしたところだった。天井はアーチ状になっており、雨風をしのぐことはできないものの、蔦と花によって彩られた廊下はまるで植物園のようだった。

 百合の甘い香りが鼻孔を掠め、亞里亞は自然と気持ちが高揚していくのを感じた。色とりどりの鳥たちが彼女のために歌をうたう。まるで楽園へと誘われるような心地に、自然と足が前に進んでいく。


 しばらく進むと、大きな建物の入り口が見えてきた。レンガ積みで建てられたその建物は、遠目ではあるが亞里亞も見たことがある。丘の上に建っている、セントグレアム修道院だ。

 正面の扉が、この吹き抜け廊下と修道院の境界だ。


「さあ、亞里亞、準備は良いですか?」

「……はい」


 深呼吸をし、亞里亞は心を引き締めた。あまり浮かれていてはいけない。修道院とは禁欲的な生活で祈りを捧げる場……であるはずなのだから。

 教皇がゆっくりと扉を開いた。

 そして――


「ひっ……」


 亞里亞は驚きのあまり固まってしまった。


 噴水と植物に彩られたそこは、まるで修道院と言うよりもどこかの公園のようであった。そしてそこには、何人かの女性が歩いている。


 亞里亞が驚いたのは、その女性たちの格好だ。

 彼女たちは修道服らしきを身についている。『らしき』と称したのは、それをどうしても修道服だとは思えなかったからだ。


 下半身部はスカート状になっているが、スリットからは太ももどころかお尻と派手なショーツが露出している。上半身部は袖がなく肩空き構造で、ブラジャーと胸部を強調する作りだ。


 とてもではないが、禁欲を貴ぶ修道院にふさわしいとは思えなかった。


 教皇がいることに気がついたらしく、二人の女性がこちらに駆けよってきた。


「ああん、好きぃ。教皇様、愛してる」

「あたしぃ、教皇様の子供、いーっぱい欲しい!」


 一人は教皇に抱き着き、何度も何度も唇に舌を這わせてキスをした。

 そしてもう一人は密着し、しきりに彼の下半身を弄っている。


「き……教皇聖下、一体、何をなさっているのですか?」


 亞里亞は理解できなかった。彼女たちの行動は、恋人か……さもなければ娼婦のようでとてもではないが修道院には似ても似つかない。

 そもそも教皇はおそらく四十か五十代の中年~初老といってもよい年代だ。彼女たちのような二十歳前後の女性と恋人関係であるのはおかしいし、二人同時にハーレムなど常識的ではない。


 むろんアスキス教は男性優位の宗教であり、ハーレムは犯罪でない。しかしだからと言ってすべての行為を好意的に解釈しているわけではない。良き夫に従う良き妻たれ。そういう意味合いの男性優位であるから、当然男性にも多少の品格は求められるはず。

 少なくとも亞里亞は、今日までずっとそう思っていた。


「……ひぃ」


 亞里亞は小さく悲鳴を上げてしまった。

 気がつけば体が震えていた。

 理解してしまったのだ。

 自分が、来てはならないおぞましい土地にやってきてしまった……その事実を。


「そ……そんな……わたくし……は……」


 ショックのあまり、亞里亞は気絶してしまった。


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