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勇者パーティーとの合流


 グラウス共和国首都、中央通りにて。


 城から城門までの長い距離を貫くこの大通りは、とても活気のある場所だ。比較的背の高い建物が立ち並び、城から少し離れたあたりには出店のようなものが散在している。

 そしてなにより、人の多さだ。この都市にはこんなに人が住んでいたのかと思ってしまうほどに、人でごった返している。


「人、いっぱいだね」


 乃蒼は俺の腕に縋りついて離れようとしない。俺との触れ合いを通して少しは人見知りが改善した彼女であるが、さすがにこの人では躊躇してしまうのだろう。


「もっと人通りのないところに行こうか? 落ち着けた方がいいからな」

「そ、そだね。頭、くらくら……」


 乃蒼はあふれ出る人の熱気に当てられたのか、体をふらふらとさせている。 

 デートのつもりでここに来たのだが、どうやら彼女にとっては負担が強かったらしい。


 俺は彼女を連れて、大通りから少し離れた公園へとやって来た。活気のある大通りとは違い、広く静かな場所だ。小鳥たちの鳴き声と、周囲を駆けまわっている子供たちの声が遠くから聞こえる。


 俺たちは近くの芝に腰かけた。小高い丘になっているような場所で、遠くに生い茂っている森が一望できる。


 ふと、茂みの奥から何かが現れた。オオカミかイノシシ、などと思い剣を構えた俺だったが、どうやら杞憂だったらしい。

 ネコだ。


「ネコさん!」

 

 乃蒼が目を輝かせて、ネコに駆け寄っていった。


「にゃーん、ねこにゃーん」


 ネコのような鳴き声をあげながら、ネコにすり寄っていく乃蒼。悪意がないことを理解したのか、野生であるはずのそいつは彼女にすり寄っていった。


 座り込み、ネコを撫でる乃蒼。

 俺はその隣に座った。


「俺はしばらく、迷宮に行くつもりだ。もしかすると、帰ってくるのが遅くなるかもしれない」


 俺は迷宮に潜る。

 いつでも外に出られる装置が存在するわけもなく、いつ頃地上に戻ってくるかは誰にも分からない。一紗も半日で戻ってくる時もあれば、一週間も姿を見せないこともあった。 

 一日、二日で終わればいいが、時には一週間近く戻って来ない時もある。そうなれば乃蒼は完全に一人だ。


「……寂しいね。匠君がいない、なんて想像したこともなかった」


 乃蒼は寂しそうにうつむいた。彼女の小さな手で撫でられた猫が、甘えるようにかわいらしい鳴き声をあげる。


「一人で大丈夫か?」


 乃蒼は、人見知りをする子だ。屋敷に引きこもる、というレベルではなくなったものの、未だその傾向は強い。大通りは苦手だ。声だって俺以外の人間が相手では上擦っている。


「……大丈夫、頑張る」


 だが、乃蒼は俺の懸念を払しょくするかのようにガッツポーズをした。力こぶなんて全く見えないかわいらしい腕だけど、今の俺にはちょっとだけ頼もしく見えてしまった。


 乃蒼は俺の手を握った。 


「大丸さんを、助けてあげてね」


 同じ式典に出席した乃蒼だ。当然ながら、鈴菜の不幸についても知っている。

 優しい子だ。鈴菜とはほとんど会話したこともなかったはずなのに。


「俺は最善を尽くすつもりだ。クラスメイトだもんな。あのままなんて……悲しすぎる」

「あんまり、話したことないけど。でも、やっぱり心配」

「そうだな。俺も全力で行く。その分、乃蒼に会えなく寂しくなるけどな」

 

 突然、乃蒼が俺に肩を預けてきた。彼女の長い黒髪が俺の胸当てや服に絡まっていく。 


「今日は、ずっといられるんだよね?」


 彼女の髪から、まるで花のような心地よい香りがした。


「一週間分の匠君を頂戴ね?」

「俺も一週間分の乃蒼が欲しい」


 俺と、乃蒼と、ネコ。三人で日が暮れるまで、ずっとぼんやりと過ごした。


 

 レグルス迷宮は世界の地下に存在する広大な迷宮である。


 入口は世界中で20か所以上確認されており、どこも所属国家が厳重に管理している。肉体を転移させる『転移ゲート』や、トラップとして仲間の一人をランダム転移させる『転移呪』が存在し、各地の入口はそれによって繋がっている。

 迷宮の全体像は未だはっきりとはしない。転移が激しすぎるからだ。

 魔王とその傘下の魔族たちは、迷宮を住まいとしている。彼らは時として地上に降り立ち、その地の人々に暴虐の限りを尽くす。


 止めなければならない。それがこの世界の人類共通の望み。


 勇者として迷宮へ行くことになった俺であるから、当然世界平和も大きな目標の一つ。でも今最も重要なのは、沈みゆく鈴菜の心を取り戻すこと。


 その鍵は、迷宮で時々入手することができるマジックアイテム――魔具にある。

 こいつを使えば、鈴菜の手を治し、ひいては被害にあってしまった人の手も治す……ことができるかもしれない。

 藁にもすがる思いとはまさにこの事。はっきり言ってしまっていい、こんなものはただの夢か願望でしかない。今まで見つからなかったものが、急に見つかるはずなんてないのだ。


 だが、それでも何もしないよりはずっといい。無力じゃない。何かできることがある。そう思えること自体が、どれだけ俺や鈴菜にとって救いになるだろうか。


 暗い顔では士気にも関わる。一旦、重い決意や不安な未来は忘れよう。


 グラウス共和国が管理する迷宮への入口。都市郊外で、山中の洞窟みたいになっているこの場所だ。


「来たぞー。今日からよろしくな、皆」


 なるべく、明るい声と表情を努める。


「こっちよ、匠」


 まず先頭に立つのは一紗。胸当て、それからブレザーの制服とスカートを身に着けた軽装備。

 ツーサイドアップの金髪を揺らしながら、俺の近くまでやってきた。


「匠、長くなるわよ? 心の準備はできたかしら?」

「……決心したからな」

「ほんとにー?」


 一紗がニヤニヤしながら俺の頬を剣柄でつついた。付き合い長いから分かるが、あまりよくないことを考えている時の顔だ。警戒しなければ。


「スライムを剣で切り刻んだゲル状ジュース。オークの目玉を焼いた目玉焼き。コウモリの尿をふんだんに使った大ミミズの肉入りスープ。迷宮料理の定番ね。迷宮シェフ一紗が腕によりをかけて振る舞う珠玉の料理、乞うご期待!」

「え……」


 嘘、だろ? 目玉? 尿? こ、こいつ、今までそんなもの食ってたのか? え? まじで……? 俺、そんなもの……食うの?


 真剣に冷汗を流し始めた俺を見て、一紗は噴き出した。


「……ぷっ、今の顔。それよそれ、それが見たかったわ。冗談よ」

「おいっ!」


 じょ、冗談か。そんなゲテモノたちを口にしなければならないのかと、本気で震えてしまったではないか。


 一紗は上機嫌で迷宮の入口へと進んでいった。


「たっくん、準備はおっけーかな?」


 続いて隣に立ったのは、俺もよく知っているクラスメイトの女子だった。

 森村もりむらりんご。

 明るい茶髪のショートカットの目立つ、一紗の友達。勇者一紗のパーティーとしては魔法使いソーサラーを担当している。

 俺や一紗ほどではないが、かなりの魔法適正を持つ少女だ。

 魔法使いらしく、制服の上からフード付きのローブを身に着けている。りんごは決して背が低いわけではないのだが、ローブのサイズが妙にでかくてぶかぶかになっていた。


「いやー、たっくんと一緒に迷宮潜れるなんてりんごはちょー嬉しいよ。男っ気のない女子会に放り込まれた、白一点の牡牛。これはたっくんを巡って恋の三角戦争勃発待ったなしですな。そういんっ、配置に着け! 心の塹壕を掘りまくるよ!」

「塹壕って……俺とりんごの心はそんなに離れてるのか? なんか悲しくなってきたぞ」

「あ、いやいや、今のノリで言っただけだから。りんごとたっくんは以心伝心一心一体焼肉定食。しっかりばっちり魔法でフォローするから、お任せあれ」


 りんごは笑いながら迷宮の入口へと向かって行った。機嫌がいいように見えるのはたぶん気のせいじゃないと思う。俺がいてこうなったんだとしたら、ちょっと嬉しいかな。


 さてと、俺も早く二人の後を追って……。


「おい」


 尻を蹴られた。


「……急げ、ノロマクズ」


 振り返ると、一人の少女がいた。


 羽鳥雫はとり しずく

 肩あたりまで伸びる銀髪をリボンでまとめたツインテール。まるで外国のお姫様を髣髴とさせる、美しくもかわいらしい容姿をしている。

 

 一紗と同じように制服と胸当てを装備。ただし背にはいくつかの矢を抱え、太もものホルスターには護身用のナイフが装備されている。

 射手アーチャーを担当する。これは彼女が一紗の友達であり、弓道部だったからという安易な理由からである。華道部とかだったら剣山両手に持って戦ってたのかな? 


 蹴ったのはこいつだ。背が低いから俺の尻に足を届かせるためにはスカートの中が見えるぐらい激しく蹴り上げなければならないのだが、そういう躊躇は全くなかったらしい。

 

「蹴ることはないだろ蹴ることは。俺の尻が裂けたらどうする?」

「あ?」


 目つき悪っ! 背は乃蒼と同じぐらい低い彼女ではあるが、その眼光はクマすらも失神させるほどの威圧感がある。

 こんな目線(+毒舌)を向けてくるのは、この世界で俺相手ぐらいだ。一紗を含め他の人たちには、それほどつらく当たったりはしないんだけどな。

 一紗の友達ってだけで中途半端に慣れ合ってしまった結果がこれか? いっそのこと他人行儀の関係だったほうが良かったかも……。 


「お前の尻穴、矢じりでもっと増やしてやろうか?」


 「くっくっくっ」と黒い笑みを浮かべる雫。さすがに穴を開けるっていうのは冗談だとは思うが、後ろから背中を矢でチクチク刺してきそうなぐらいの本気度を感じる。


 もういいや。さっさと迷宮に行こう。


「急いで歩け。お前が豚みたいに鳴く声を、私も聞きたくはないからな。くっくっくっ」

「いたっ!」

 

 今ちくってした! こいつ、ホントに俺のこと刺した!


 こうして、俺たち4人は迷宮へと進んだ。


昔かいた小説が一話20000字で行間少なくて非常に見づらいから、直そうかと思った。

一つ手を付けたんですけど、これ意外と手間ですね。

他の奴はまた後日……、暇な時に。

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