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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
刀神編

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196/410

剣に成れ


 刀神ゼオンと対峙する俺。

 こいつは、これまでの魔族とは比較にならないほど敵対的、そして好戦的だった。一紗も、りんごも、雫も、みんななすすべもなく倒されてしまった。

 俺は泣きそうだった。

 あいつらは、大丈夫だろうか? そして今ここにいる俺は、この国は? 


「さて……」


 そんな俺の混乱を知ってか知らずか、ゼオンは片手に持った黒い霧状の刀を消失させた。

 そして、一瞬にして俺の視界から消える。


 その速度、刀神の名にふさわしく神の領域。


 この魔族にとって、俺の存在などまるで歯牙にもかけないものだったらしい。彼は敵意をむき出しにしていた俺のことなど完全にスルーし、その背後へと回っていた。


 すなわち、未だその場に立ちすくんでいる乃蒼のところへと。


 乃蒼は、泣いていた。

 一紗、雫、りんごが倒れ、俺すらも敵わないこの状況は、彼女にとってとても辛いものだったに違いない。本来なら子猫のように避難していないといけないのだが、足が動いていないように見える。


「ひ……あ、あの……」

「…………」


 無言のまま、ゼオンはその手で乃蒼の首元を掴んだ。

 こ、こいつ! まさか乃蒼を……絞殺するつもりか?


「何をする気だ、止めろっ!」


 俺は駆け出した。頭に血が上っていたが、その速度は馬にも負けていなかったと思っている。

 だが、どれだけ気持ちを昂らせても、どれだけ強く願っても、限界を超えることは難しい。

 

 ゼオンは俺が走っていることに感づくや否や、すぐさま門の近くへと瞬間移動した。高速で走っているだけのようだが、俺の知覚できないほどの速さだった。


 頸動脈を締められた乃蒼が、苦しそうに嗚咽を漏らす。

 本当に? こんな形で乃蒼が?

 焦燥感で心が壊れてしまいそうだった俺の耳に、ゼオンの声が聞こえてきた。


「――〈剣成〉」


 乃蒼を締め付けるその手から、黒い魔法陣が出現した。


 その、魔法は……。


 ――〈剣成〉と呼ばれるその魔法で、人が剣になる。


 かつて、エリナの聖剣である白い老人――アントニヌスから聞いた言葉を思い出す。彼やヴァイスの女の子を聖剣に変え、そして多くの聖剣・魔剣を生み出した……特殊な能力を持つ魔族がいるという話。


 こいつがあの、エリナの聖剣が言ってた、剣を人に変える魔族!

 まさか……こいつ。乃蒼を?

 まずい! このままじゃ……乃蒼が!


「乃蒼あああああああああああああああああああああああああっ!」


 それはまるで、熱したガラスが溶けているかのような光景だった。

 乃蒼の脚が、手が、どろりと粘性を持った液体のように溶け出し、ゼオンの手元に収束していく。親しい人が人間でなくなっていくその光景に、俺は軽く吐気すらも覚えてしまった。


 抵抗できなかった。この魔法を途中で中断して、果たして乃蒼が生きていられるのか? その答えを……断言することができなかったから。

 

 やがて、粘土のように重なりあった乃蒼だったものは、一本の武器に変質した。

 乃蒼が……剣になった。


 この神々しさ、分類でいうなら『聖剣』と呼ばれるもの。俺の持つ聖剣ヴァイスやエリナのゲレヒティカイトのように、声をかければ反応してくれるのだろうか?

 予想以上の出来栄えに、刀神ゼオンは満足だったらしい。薄く笑いを浮かべながら刀身を撫でている。


「ふふ……これは中々に素晴らしい。とんだ拾い物だ。心清きものは聖剣になる。さて、まずはゆっくりと名前を考えねば……」

「乃蒼を返せっ!」


 俺の剣は刀神ゼオンへと迫った。しかし彼が聖剣――すなわち乃蒼だったものを構えて防御しようとしたため、思わず躊躇してしまう。


 乃蒼を……傷つけられないっ!


「……人類希望の勇者でこの程度、期待外れだな」


 俺は即座に一本の剣を拾った。

 魔剣グリューエン。

 怪我をした一紗が落とした魔剣だ。

 剣一本増えたところで勝てるかどうか分からない。しかしそれでも……少しは有利になると確信して……。 


「ふっ」


 しかし、そんな俺の打算を刀神ゼオンは笑う。


「まさか剣の数が増えただけでそれがしに勝てると思っているのか?」

「なんとでも言え。俺はお前を倒して……乃蒼を助けなきゃならない……」

「では、冥土の土産に面白いものを見せてやろう」


 かつて雫を倒した時と同じセリフ。俺は背筋が凍っていくのを感じた。


「あまねく聖剣・魔剣はそれがしの生み出したもの」


 一紗の時と同じく、空気中に生まれた黒い亀裂から聖剣・魔剣を取り出すゼオン。


 一本。

 二本。

 五本。


「は?」

「特に気に入った剣は、それがしが保有している。お前たち人間が掴み取った剣のほとんどは、できそこないの二流剣。美しさ、能力、硬度、選ばれし剣は優れた人材に使われるべき。すなわちこの……ゼオンの手によって」


 刀神ゼオン。

 その名にふさわしい、聖剣・魔剣のコレクターだったということか。


 もはや手で抜き取るのも煩わしくなったのか、ゼオンは頭上に黒い亀裂を生みだした。するとそこから、何本も剣が落ちてきて……地面へと突き刺さる。

 

 五十、いや百はくだらないだろう。


 俺は……絶望した。

 こんなの……勝てるわけがない。

 俺の剣は二本。奴は無数に剣を持っている。この状況で、一体どうやってこいつを倒せっていうんだ? 敵の手加減も奇襲もなしに勝てる相手じゃない。


「――では勇者殿、さらばだ」


 攻撃を予知して身構えた。

 五感を研ぎ澄まし、瞬きをしないようにしていた。

 だが、それでもなお刀神ゼオンとの圧倒的力量差を埋めることは……難しかった。


「――解放リリース


 ドン、と体に衝撃を覚えた。

 切られたか? と一瞬混乱したが、すぐに正気を取り戻す。

 見上げるのは空。左には空、右にも空。そしてには、遥か遠方に見える……俺の屋敷があった。


「は?」


 俺は、空にいた。

 刀神ゼオンは聖剣・魔剣をふんだんに使用し、その衝撃波によって俺を空の彼方に吹き飛ばした。そう理解することは……できた。


 高い。

 そして翼をもたない人間に、空を飛ぶことは叶わず。

 結果――


「う……」


 落ちる。

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」


 俺は剣を構えたままがむしゃらに足掻いた。何をどうすればいいか分からなかった。

 死ぬ。

 このままじゃあ、地面に叩きつけられて……死ぬ。

 …………。

 …………。

 …………。



 ********* 


 気圧の変化、空気の衝撃。

 混乱は頂点に達し、匠は意識を失った。


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