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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
大妖狐編

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188/410

エンチャント


 俺たちとマリエルの戦いが始まった。

 全員で突撃、といっても巨大生物を相手にしているわけではない。集団で殴り掛かっても、直接攻撃できるのはせいぜい4~5人が限度。

 まず前に出たのは、前衛として高い火力を誇る一紗とエリナだった。


「〈炎帝〉!」

「ジャスティス!」


 〈炎帝〉は高出力の炎の刃を生み出し、相手を攻撃する技。

 エリナのゲレヒティテカイトは剣の刃自体が強化される。

 どちらも弱小魔族であれば容易に傷つけられる程度の力を持つ。


 二人の剣がマリエルに迫ったその瞬間、彼女は迎撃に動き始める。

 尻尾だ。

 毛におおわれた巨大な尾が、まるで盾のように彼女たちの攻撃をはじいた。衝撃を受けた二人は態勢を崩さなかったものの、激しく後方へと吹き飛ばされる。

 やはり、片足をなくしたといってもそう簡単に倒されてはくれないか。


「――〈白王刃〉」


 次は俺。

 周囲に多数の刃を出現させ、一斉に攻撃を仕掛ける聖剣ヴァイスの必殺技だ。尻尾や手ではじけないほどの多量の攻撃を受けてどう対応するか、それを見るための様子見でもある。


 尻尾は〈白王刃〉の半分程度をはじき返したが、残りは彼女へと向かっていく。避けることはできない。

 が、これも不発。

 確かに白い刃は当たっていた。が、直前で彼女の皮膚が黄金の毛に覆われ、肉を抉るまでは至らなかったのだ。


「我の毛皮は鉱物のように固く、あらゆるものを通さない。幾多に分裂した刃の一つなど、弱々しくて話にならない」

「…………」


 なら一点突破の〈白刃〉なら有効ということか? そう思い、俺は剣を構えたのだが……。


「ぐ……」


 先に別の攻撃が放たれた。

 矢だ。

 マリエルの右手に、矢が刺さっていた。


「小癪な真似を……」

 

 この矢を放ったのは、雫。

 聖剣でも魔法でもないただの矢が、なぜマリエルの固い毛皮を貫いたのか。

 それは矢の先端に付加された、黒い刃に秘密がある。

 雫は再び弓を構えた。その先端には、三角形の形をした黒い霧状の刃が張り付いている。

 

「――付加エンチャント


 雫の静かな声が響く。

 この黒い刃のような物質は魔族の魔法によって生み出された。運用方法が単純明快な魔物召喚と違い、この霧の刃がいったいどのようにして使われるのか当初は分からなかった。


 だがダグラスさんたちの協力を経て、俺たちは正しい扱い方を知った。

 これは、刃物や己の体を強化するために使うらしい。

 しかしもともと力を持つ聖剣や魔剣では強化の効果が薄いらしく、一般の武器への付与がなされた。

 今、雫は魔族の皮で作られた手袋を装備している。こいつで奴らの魔法を扱い、矢を強化しているのだ。


 人と魔族、その力を結集させた雫の新たな力。


 マリエルは矢を抜いて近くへと投げ捨てた。致命傷どころか大けがにも至っていない一撃。しかしそれでも、いくらかのダメージを与えることはできたはずだ。


 雫は再び矢を射た。

 弾くために体勢を崩したマリエルに、俺の刃が肉薄する。

 

解放リリースっ!」


 他の兵士たちもまた、マリエルに攻撃するために聖剣を構えた。

 そして、さらに俺たちが召喚した魔物もそろっている。


 ヘルハウンド。

 スライム。

 骸骨兵士スケルトン

 ゴーレム。

 グール。

 グリフォン。

  

 魔物のバリエーションも増え、戦いの幅が広がった。

 さあ、始めようか!



 …………。

 …………。

 …………。

 そこからは、いちいち語ることもできないほどの乱戦だった。

 多くの人間、そして魔物がマリエルに群がった。剣を、槍を、そして魔法を使って少しずつ攻撃をくわえていった。


 マリエルは耐えた。一つ一つの攻撃が、人間なら致死に相当する一撃だ。それを耐えてしまうのは、やはり魔族だからというべきだろうか。

 しかし彼女は逃げることができなかった。四方も空も塞がれたこの状況で、徐々に体力を削られていくだけ。

 聖剣、強力な魔法、雫の矢。何度も何度もかすり傷のような裂傷が増えていった。硬い岩盤に存在するわずかな亀裂クラックから、岩石を削り取るように。俺たちは数えきれないほど彼女を叩いた。


 俺たちは、とうとうマリエルを追い詰めた。


 激しい呼吸に肩を揺らすマリエルは、もはや瀕死の重病人にも等しい。

 初手で脚を潰しておいたのが大きかった。あれがなければ、適当に暴れた後逃げられてしまったかもしれない。


 何度か降伏を勧告したが、聞き入れることはなかった。マルクト王国に展開する配下を引き上げてくれればよかったのだが、交渉すら応じてくれない。死すらも覚悟しているような気迫を感じる。


「何か……言い残すことはあるか?」


 勝利を確信した俺は、彼女にそんなことを呟いていた。騎士道精神や武士道を気取るつもりはないが、ここまでの激戦を繰り広げてきた敵だ。少し感傷的になっていたのかもしれない。


「ふ……」


 尻尾も半分が引きちぎられ、キツネ耳は幾多の裂傷によって原型をとどめておらず、ドレスは無残に傷ついた。もはや最初に感じた威厳も貫録も何もあったものではない。

 それでもなお、彼女は懐からキセルを取り出し……タバコを吸おうとしている。


「……魔王陛下に栄光、あれ……」


 魔王はもう死んでいるし、自分も死のうとしている。それなのにこの台詞か。

 よほど魔王に忠誠を誓っていたんだろうな。死を覚悟してもなお戦おうとするこの姿は、忠義ゆえだったのかもしれない。

 

 喉を震わすことが、彼女にできる最後のことだったらしい。

 力なく地面に倒れこんだマリエル。物言わぬ死体となったその体は、白い灰となり大地に還っていった。


「…………く」


 俺は剣を地面に刺してもたれかかった。精神、体力ともに大きく消耗する戦いだった。本来なら激しく勝ち鬨を上げてもいいのだが、不安も残っているためそんな気分にはなれなかった。


「終わりましたか?」


 空中で隊列を組んでいたダグラスとその仲間たちが、地上へと降りてきた。マリエルへの牽制、そして隙を見ての空中からの援護はかなりの助けとなった。ここにいる俺たちと共和国の兵士たちは、彼らの献身ぶりを決して忘れないだろう。


「……ダグラスさん、聞いてくれ。鈴菜がこの屋敷の地下にいるらしいんだけど、魔法で秘匿されてるらしい。ダグラスさんの目なら見つけられるんじゃないのか?」

「……分かりました。試してみる価値はありそうですね。僕が向かいましょう」


 戦いの後処理はつぐみに任せることにし、俺たちは屋敷の地下へと向かった。


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