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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
大妖狐編

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175/410

偽者の証拠


 俺たちの中に、魔族の化けた偽者がいる。

 その衝撃の事実を告げたのは、俺たちの敵であるはずの魔族フーゴ。


「……詳しく話が聞きたい」


 ソファーに腰掛けた俺は、荒くなりそうな呼吸を抑えながら、努めて冷静にそう問うた。

 こいつが嘘をついている可能性もある。まずは詳しい情報を聞き出すことが先決だ。


「何がなんだか分からないんだ。まず、教えてくれ。お前はどうして、俺のクラスメイトが偽者だって思ったんだ?」

「一か月前の話だ」


 ワーウルフ、フーゴはその戦闘的な見た目とは裏腹に、両手を組んで深く考える仕草をしながら口を開いた。


「承知の事と思うが、我々魔族は現在人類と戦争中だ。多くの者たちに命を下し、作戦を考案するのは……指導者であるマリエル様の仕事。俺はこう見えても魔族たちの大部隊を率いる軍団長クラス。いろいろと話を聞く機会もあった。そんな時、聞いた話の一つが、あの方が人間に化けて潜入するという内容だった」

「……人間に化ける?」

「そうだ。人間に化けて指定の場所に潜入。そこからスパイ活動をするのか、内部から暴れるのか、何らかの工作をするのか、詳しくは聞いていない。だがその時、資料としてもらった地図がある。これがその地図だ」


 フーゴはそう言って俺に地図を渡してきた。

 それを見て……俺は……。


 こ……この地図は……。

 俺の家……勇者の屋敷近くの地図じゃないか!


 一か月前なら、ここにいる俺たち含めて全員があの屋敷にいた時期だ。もし本当にそのマリエルが化けているなら、誰にでも可能性が生まれてしまう。


「……ちょっと待てよ。あんたらはこの国で戦争してるんだろ? なんで俺たちの国の女の子に化ける必要がある? 何の意味があって……」

「考えあってのことらしいが、委細は話してくださらなかった」


 分からないってことか……。


 先の悪魔王イグナートとの戦争を思い出す。

 あまり、魔族の幹部たちに理論性を求めるのは良くないかもしれない。奴もそうだった。結局、最後まで何がしたいかよくわからなかったからな。

 あるいは国というくくりではなく、人類の希望として俺に目を付けた? ……いや、それは少し自惚れ過ぎか?


「証拠っていうのはそれだけか? その地図だけなら、俺だってメイドだって候補に入る――」 

「もう一つ証拠がある」

 

 魔族フーゴは間髪入れず台詞を挟んできた。


「マリエル様が人間に化ける瞬間を目撃した魔族がいる。一人の人間を連れ去り、その人間に化けたまさにその時、傍にいたらしい」

「……分からないな。その魔族は俺たちの顔を覚えていたのか? そいつが人間を目撃したからって、なんの証拠に……」

「これが、捕まった女の服だ」


 そう言って、フーゴは咲から一着の服を受け取った。


 ブレザーの制服。


 俺たちが住んでいる元の世界、日本で作られた服。高品質できれいな生地であるため、今でも女子たちが着ることも多い。

 俺たちの学園の、制服。


 小鳥みたいに服がぼろぼろになってしまった子を除いて、ほぼ全員が持っていると言ってもいいだろう。

 一紗は制服の上に防具を身に着けている。

 鈴菜は白衣の下に制服を身に着けている。

 璃々や乃蒼だって、普段は身に着けていないが持ってはいる。

 これがこの場にあるということは、やはり連れ去られたのは俺の屋敷にいる……誰か?

 

 いや待て、すぐに決めつけるのは早計だ。そもそもこれ自体が罠だったらどうする? 制服一着誰かから奪うことなんて簡単だ。偽者の可能性もある。すべてを疑ってかかるべきだ。

 

 ただ、いずれにしてもこの魔族の話に信ぴょう性が増したのは確かだと思う。もっと詳しく、話を聞いておくべきだ。


「誰に化けたか分かるか? 髪の長さ、背の高さ、胸の大きさでもいい。特徴を教えてくれ」

「すまないが、我らはあまり人間の区別がつかないからな。おまけに目撃した当の仲間は、この国の聖剣使いに殺されてしまった。女、ということ以外は何も聞いていない」

「…………」


 無理もないか。俺だって猿やトカゲの区別がつくかっていったら分からないもんな。おまけに当の本人が戦争で死んだならもうお手上げだ。

 くそっ、せめてその魔族が生きていればいろいろと聞けたものを……。


「……雲をつかむような話だけど、可能性がないわけじゃない」

「ごめんなさいね。こんな話、下条君にしかできなくて」


 咲が謝ってきた。

 彼女の中ではつぐみも偽者の候補に入ってるらしい。なるほど、確かに俺にしか話せない内容だ……。

 だが、俺には……あまりに荷が重すぎる。


「……俺は、どうすればいいと思う?」

「とりあえず、明日から魔族たちと戦ってくれると助かるわね。予定通り」

「こんな状態でか? 冗談はよしてくれよ……」

「うふふ、あまり元気のない姿を見せると怪しまれるわよ? わたくしのために、世界のために、頑張って」

「…………」


 そうした方が良い……のか?


 少し、考えよう。

 …………とんでもない話を聞いてしまった。

 俺たちの中に、偽者がいる? しかも時期的に、俺だって何度も話しかけているはずだ。


 一目見れば偽者なんてすぐわかる! 俺と彼女たちの絆は絶対。


 ……と言えたら、どれだけ気が楽だろうか。


 かつて、優の偽者に騙されてしまった暗い過去。あんな間違いを犯してしまった記憶を持つ俺は、とてもではないがそんな自信は持てなかった。


 結局、その日はそれ以上実りのある情報は得られなかった。



 後日、俺たち勇者はマルクト王国の援軍として前線に投入された。


 期間にして一週間。


 もちろん、例の偽者の話が気になっているのは確かだ。だがここで、偽者がいると騒ぎだてて事を大きくするのはまずいと思った。

 偽者がいるということは、本物がどこかに囚われているということ。もし、俺が大妖狐マリエルを逃がしてしまったら? 本物のクラスメイトはどこかの洞窟か牢屋に囚われたままだ。

 それだけは避けなければならない。いや、もう一か月も前の話ならとっくに……。


 …………止めよう。本物は生きている。監禁されているが世話はされている。そう信じないと……すべてが終わる。


 何よりもどかしいのは、俺に情報の真偽を判断する術がないこと。俺のこの心配すら、すべて杞憂なのかもしれない。

 

 援軍の効果は絶大。 

 俺、一紗、雫、りんごは多くの敵を倒した。そして多くの喝さいを受け、多くの報酬をもらった。


 しかし大勝に沸くマルクト王国を尻目に、俺は焦燥感を募らせていくばかりだった。


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