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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
大妖狐編

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172/410

パレード風入場


 翌日、俺たちはマルクト王国へと旅立った。

 俺、つぐみ、一紗、雫、りんごを筆頭として、護衛の兵士100人を連れた一団はグラウス共和国を北西へ向かった。

 整備された街道や、やや歩くのに適さない山道。一度通ったことがあるものの、やはり見慣れぬ景色というものは新鮮だ。


 道中、様々な村に立ち寄った。

 田舎町ともなれば、新しい大統領に興味はあれど顔も見たことがないという人が多い。そんな彼らの好奇心を満たすため、広場の中心でつぐみが簡単な演説をした。


 その結果は大好評。

 若く美しい彼女が手を振るだけで、歓声が響き渡った。

 この人気を見る限り、彼女の治世も安泰だろう。


 ついでに言うと、俺や一紗も軽く手を振って喝さいを受けた。どうやらこんなところでも俺たち勇者の噂が流れているらしい。

 思ったよりも、俺たちこの国で名前が通ってるんだなと思った。


 そんなことを繰り返しながら、俺たちは山を越え、谷を越え、村を、森を、川を越えた。

 グラウス共和国国境を越え、マルクト王国に入国。かつて御影や貴族たちと熾烈な争いを繰り広げたマーリン地区を通り過ぎる。

 やはり、この辺りになると少数ではあるが魔族と戦うこととなった、俺たちや護衛の兵士、加えてマルクト王国側の軍人が袋叩きにしたので大した戦いにはならなかったが、それでもこの国における魔族侵攻の根深さをうかがわせる出来事だった。


 ともかく、多少のつまずきはあったものの、俺たちは無事ここにたどり着いた。


 マルクト王国首都、マルクス。

 

 規模としてはグラウス共和国の主都とほぼ同等。都市を覆う巨大な外壁と、その上に掲げられた国旗が見る者を圧倒する。

 大国、といっても差し支えないこの国。国王、そしてその妻である咲は上手くこの国を統治しているらしい。


 巨大な扉が開かれて、都市の中へと入ってきた俺たちは――


 大歓声に迎らえた。


「勇者様ああああっ!」

「大統領閣下、こちらを向いてください!」

「押すな、押すなよ! 見れねぇだろうが」 


 声が、聞こえる。

 扉の奥には、予想通り王城へと向かう大通りが続いていた。しかしそこは、俺が想像していたような少し人通りが多い程度の通り道ではなかった。

 

 例えるなら、祭り。

 誰の計らいかは知らないが、紙吹雪が舞っている。そして何より耳につくのは、人々の歓声でも動物の鳴き声でもなく……音楽だった。

 弦楽器、金管楽器、木管楽器によって奏でられるその曲は壮大で重厚。オーケストラさながらの構成は、まるでどこかのコンサートに来てしまったかのような錯覚を覚えてしまう。

 

 そして周囲には人、人、人。通路を邪魔しないように兵士たちが一般市民を押さえてくれてはいるが、それすらも飛び越えてしまいそうなほどに溢れ返った人々。女、男、子供、老人、商人旅人市民武器屋鍛冶屋旅人ウエイトレス露天商、とにかく様々な業種、年齢の人々が俺たちのことを見物していた。 


 そして、馬車に乗りながらそのパレードのような大通りを進む……俺たち。完全に見世物扱いだ。


「これは……」


 軽く観光をして……なんて考えていた俺の予定は一気に吹き飛んだ。自由に動けないぞ。

 俺たちは皇族か何かか? いや、つぐみは大統領なわけだから、それ相応の扱いを受けて当然なのか。それにしてもこの歓迎はなんだ? 俺たちこんなに人気があったのか?


 ……どうやら咲が事前に言いふらして準備をしていたらしい。それもこの盛り上がり具合を見るに、随分と良い噂を吹聴してくれたようだ。


「…………」


 俺や一紗はいいさ。戦いに慣れてて多少は体力があるからな。でもつぐみは普段体を使わない大統領職だぞ? こんな長旅があった後に、熱烈歓迎で愛想ふりまけって大変な話だろ。


「…………」


 当のつぐみは、一国の長として見事なまでに愛想を振りまいていた。当然だ。こんなところで態度を悪くしても何もいいことはない。


 これが咲のやり方か? 悪意100%とも言えないあたりが、なんとも文句を言いづらいな。

 

 こうして、パレードに戸惑いながら、俺たちは城までゆっくりと行進していった。



 城にたどり着いた俺たちは、豪華な応接室へと案内された。

 初めてくる場所だ。昔の優たちもここに案内されてきたのだろうか?


 俺たちはソファーに腰掛けていた。動物の毛皮や羽が使われた豪華なそれは、おそらく俺が一年働いても手が届かないほどの値段がすると思う。

 差し出された紅茶は相当に美味しいはずなのだが、いまいち舌が反応してくれない。先ほどまでのパレード風入場があまりに衝撃的過ぎたからだ。


 知り合いしかいなくなったこの場所で、つぐみは緊張が解けたように盛大なため息をついた。

 

「……正直なところ、これほど歓迎を受けるとは思ってなかった」

「大丈夫かつぐみ? 疲れてないか?」

「問題ない、これも私の仕事だからな」


 強がっているようにも見えるが、ここであえて追及する必要もないだろう。


 一紗たちは部屋の調度品を眺めながら、あれこれと雑談に花を咲かせている。


「阿澄さん、こんなところに住んでるのね。あたしだったら耐えられないかな」

「一紗の言うとおりだ。こんな他人ばっかりのところになんて、考えるだけでも恐ろしい」

「りんごもやだなぁ。クラスの知り合い誰もいないなんて……」


 勇者三人はこの王城独特の環境が嫌らしい。昔、貴族が牛耳っていた頃のグラウス王国を思い出したのだろうか?

 俺もあまりいい気分がしない。


 軽く手を叩く音が聞こえた。つぐみだ。


「もうすぐ咲に会える。とりあえず、主なやり取りは私に任せてもらいたい。匠たち勇者には迷惑がかかり過ぎないよう、調整はするつもりだ」


 例の軍服っぽい服を着ているつぐみは、何となく頼りになりそうに見える。ちなみに、俺たち勇者はいつも通りの胸当てや剣を装備した姿。変に着飾った正装をするよりも、この方が望まれているだろうという結論だった。


 その後、適当に話をしていると、メイドらしき女性がやってきた。


「グラウス共和国大統領、赤岩つぐみ閣下。そして勇者下条匠様、長部一紗様、羽鳥雫様、森村りんご様。国王陛下と王妃様がお待ちです。どうぞこちらに……」


 いよいよか。

 俺達はメイドに連れられ、咲の待つ玉座の間へと向かったのだった。


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