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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
大妖狐編

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鈴菜の解剖教室


 戦争が終わり、少しの時が流れた。

 魔族たちはグラウス共和国からほぼ駆逐された。ごく少数の投降してきた魔族たちを、ダグラスに引き渡しダークストン州の開拓、復興に力を貸してもらうことになった。

 俺は屋敷で引き続き待機状態だ。近くに魔族はいないし、迷宮もほぼもぬけの殻となった。魔物は魔族が生み出していたため激減。冒険者ギルドのクエストは盗賊・野生動物討伐や薬草採集など、より身近なものへと切り替わっている。

 

 戦争では大活躍と言うことになっている俺だが、今の年金生活みたいな感じは少し国に対して申し訳ない。つぐみは何か俺に頼むことがありそうな気配なのだが、しばらくは先の話になると思う。


 俺は鈴菜の研究室に足を運んだ。

 彼女の研究室は勇者の屋敷に併設してある。屋敷の連絡用渡り廊下を越えると、そこはもう彼女の領地。乃蒼を除いて、ほとんど屋敷の人間が訪れない、そんな建物だ。


「鈴菜~、調子はどうだ~」

 

 別に冷やかしにきたわけではない。俺は勇者。魔族と闘う者。彼女の研究を知ることは、俺にとっても必要なこと。

 もう一度言うが、冷やかしに来たわけではない。


 よく分からないガラス瓶、書類、ホースのようなものを潜り抜け、建物内を進んでいった俺は……そこにたどり着いた。


 グロっ!


 俺は思わず、そう心の中で叫んだ。


 台の上には、魔族の死体があった。それも腕の一部が、まるで皮膚をはがされたみたいに血管がむき出しになっていて、人体模型のようだった。


「匠か」


 白衣にマスク、まるで外科医のような恰好をした鈴菜が立っていた。周囲には似たような服を着た助手っぽい女の人もいる。


「……見苦しいところを見せてすまない」

「魔族の死体。例の戦争のか?」

「そうだね。いくらかの死体を、実験のため引き取った」


 なんだか……今までで一番マッドサイエンティストっぽい作業をしていると思った。マスクの中で「フフフ」とか笑っているのだろうか。


 まあ、俺も魔族を散々倒してきた男だ。今更魔族の死体見て、『魔族さんかわいそう!』なんていうつもりもない。ましてやこいつらが戦争で死んだ敵であるならなおさらだ。


 鈴菜はマスクと手術っぽい帽子を外して、近くの椅子に腰かけた。


「今、ちょうど終わったところだ。僕に何か用かな?」

「頑張ってるんだな。俺が言うまでもないことだとは思うけど、自重してくれよ。もう、一人だけの体じゃないんだから……」


 鈴菜は妊娠している。お腹の中には俺の子供がいて、少し太ったかな、というほどにお腹が出ている。要するに大事な時期なのだ。

 もちろん彼女だってそのことは理解してると思う。今まで魔族の死体のせいで子供に障害があったなんて話は聞いたことがないし、ここでこういった実験をすること自体は問題ないのだと思う。彼女がそう判断したならなおさらだ。


 しかし万が一ということもある。俺は心配せずにはいられなかった。


「僕にしかできないことなんだ」


 そう言われると何も言えない。


「カフェインや食物連鎖による水銀、ヨウ素などを取らないように食事中は気を付けている。何も考えてないわけじゃないから、安心してくれていい。君と僕の、大切な子供だからね」

「鈴菜……」


 お腹をさする彼女を見て、俺は少しだけ照れくさい気持ちになってしまった。


「あ、ところで、死体を切り刻んで遊んでたわけじゃないんだろ? 何をしてたんだ? 俺にも関係あることか?」

「関係あるね。匠、君は以前僕が話したことを覚えているかい? 魔族の純魔法の研究に関することだ」

「ああ……そういえばそんな話があった……ような」


 もう御影が襲ってくる前の話だよな。

 確か、魔族の使う純魔法を俺たちでも使えるよう研究している、だったか?


「なるほどな、それでこの魔族の死体に繋がるわけか。確かにあの魔法が使えたら、戦略の幅も広がるしな」

「あれは、どうやって使ってると思う?」


 これまで、相手にしてきた魔族を思い出す。


「手で書いてるんじゃないか?」


 目に見える魔法陣をいきなり展開させるパターンもあるけど、それはあらかじめ準備していたんだと思う。念じればできます、というならイグナートがわざわざ空で頑張る必要もなかったわけで。

 かといってチョークとか杖とかそれっぽい道具を持ってるやつもいれば持っていない奴もいるわけで、なら誰でも持ってる『手』で書いてるんじゃないかと言うのが、俺の結論だ。


「僕もそう思った。そこで……これだ」


 鈴菜は、そう言って台の上からあるものを持ってきた。


 手袋だ。


「この手袋は?」

「魔族の指の皮膚には特殊な線が発達していて、そこから微量の魔力を放出している。彼らはその特殊な指を使って、魔法陣を描く。それは魔族の表皮を引きはがして、手袋に張り付けたものだ」

「ああ……なるほど」


 要するにこれ、そこの台で解剖っぽいことをされた魔族の皮で作った手袋なのね。

 グロっ! まあ俺は戦い慣れて耐性あるからいいけどさ。


 魔族たちの魔法は俺たちとは違う。純魔法、と呼ばれるその力は、あらかじめ火や水などの属性を指定された精霊に依存する俺たちの魔法とは異なり、自由度が高い。それをもし、俺たちが扱えるようになれば、今後の戦いを進めていく上での大きなアドバンテージになる。


 うう……しかし若干気持ち悪いものがあるな。


「使ってみていいか?」

「もちろん」


 俺は手袋を装着した。


「はめたけど、どうやって使うんだ?」

「とりあえず、空中に△を描いてくれ」


 俺は言われた通り、指で空中に三角形の形を描いた。

 すると、そこから綺麗な三角形の魔法陣っぽい図形が出現した。


「おお……おおお……」

 

 発光とともに、魔法陣から何かが出現する。


 魔物出た!


 ぷるるんぷるるん! 

 なんと、俺の描いた魔法陣から青いスライムが出現したのだ。

 

 俺は出現したスライムを触ってみた。ひんやりとした感触だ。襲ってくる気配はない。


「君が召喚したんだ。何か命令してみてくれないか?」

「じゃあスライム、右に動け」


 すると、スライムはぷにぷにとその体を動かし、右に移動した。

 俺の命令を……聞いてくれたぞ!

 


「すごいな。この手袋があればだれでも魔物使いになれるのか?」

「まあ、その皮膚に残された魔力には限りがあるから、同じ魔法陣を五回描けば、もう使えなくなるよ」


 俺たちの体と魔族の体は違うからな。その何とか腺とやらにある魔力がすぐになくなってしまうわけだ。


「ほかにも何か魔法が使えるのか?」

「三角でスライム召喚。一本線を描けば黒い刃を飛ばせる。他はまだ不明だ。もう少し、研究を進める必要があるね」


 あの究極光滅魔法メギドとかいう魔法の魔法陣はかなり複雑だった。使い手であるイグナートが死んでしまった今となっては、もはやその詳しい形を知ることは不可能だ。

 そして仮に魔法陣をマネできたとしても、それだけで魔法が使えるようになるとは限らない。それならどんな魔族でも超一級の魔法が使えてしまうことになるからだ。実際には、RPG風にいうなら魔力とかレベルとか熟練度とか、何かが必要になると思う。


 ぷるるんぷるるん!


「あのさ、このスライム。どうやったら消えるんだ?」

「残念ながら、召喚した魔物を消す方法はまだ発見されていない」

「それはまた……面倒な」


 まあ、俺の言うこと聞いてくれるなら、しばらくペットのように飼ってみてもいいかな。スライムならかわいいし。


 と、台の上に乗るスライムを見ていた俺は気がついた。その視線の先、すなわち窓の外を歩いている少女……一紗に。

 パーカーっぽい服を着た一紗は、ぼんやりと庭を歩いている。俺と同じで、暇なんだろうなきっと……。


「おーい、一紗、ちょっとこっちに来てくれ。面白いものを見せてやるぞ」


 せっかくだ、俺の召喚魔物を紹介しておこう。

 俺の声を聞きつけた一紗は、すぐに研究室に入ってきた。


「やだ、なにこれ、なんで魔物がここにいるの? 敵?」

「おいおい一紗。俺の呼び出した最強チートスライム君になんという暴言だ。彼はこれから俺の右腕として戦場で大活躍してもらう予定なんだ。お前よりもかわいくて強くて頭もいい。称えるのだ」

「へー、すごいじゃない」


 素直に感心しているらしい一紗は、俺の冗談などまるで気にすることもなくスライムに近寄っていった。


 ぷるるるるん!


 突然、スライムが一紗の胸に飛び込んだ。


「ひゃうっ!」

 

 感触が気持ち悪かったのか、一紗は妙な声を上げて床に座りこんだ。


「この子張り付いて……。ひんやりしてて、気持ち……悪い」

 

 一紗はスライムをはがそうとしたが、もともとが軟体動物に近い生き物であるため、どうにもうまくいかないらしい。

 普段戦っているときは敵の攻撃を許したりはしないのだが、俺が召喚したということで油断していたのかもしれない。だとするとこれは俺の落ち度か。


「戻れ」

 

 俺が命令すると、スライムはすぐに一紗から離れた。

 やはり召喚者の命令には従うらしい。


「一紗、すまんな少し……」


 俺は床に座り込んでいる一紗に手を出して……気がついた。


 服が、溶けた!

 着ていたパーカーが、ちょうどスライムの張り付いていた胸元の部分だけ溶けていた。

 薄ピンクのブラを押さえながら、不機嫌そうに唇をへの字にする一紗。


「やだ、何よこれもう。匠サイッテー。夜あれだけ脱がしておいて、まだ足りないのかしら? 魔物に襲わせたくなったの? 歪んだ趣味ね……」

「匠……」


 鈴菜の目が冷たい。


「ちょ、ちょっと待て! 俺が命令したわけじゃない。勝手に動いたんだよ!」

「ホントに~? 雫の見て、病みつきになったじゃないの?」

「だから違うって」 

 

 この後、俺は誤解を解くため三十分ぐらい一紗と話し合った。



 ……とにかく、この手袋はとてもすごいものだと言うことが分かった。

 女が魔法を使えるようになる、例のブレスレット以上の発明だ。今はまだ回数制限があるが、根本的な構造が分かればもっと多く複雑な魔法を使用できるはず。

 俺たち人類が、魔族に劣らない力を得ることになるのだ。


 鈴菜はすごいな。

 本当に、この世界を変えてしまいそうな気がする。


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