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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚  作者: うなぎ
悪魔王編

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黒球


 魔族、悪魔王イグナートと対峙する俺。隣にはエリナがいる。

 しかし戦場であったはずのこの場所だが、今は霧に阻まれて何も聞こえない。

 激戦区なのにあまりに不自然。魔族や味方が誰一人来ないのも不自然だ。

 おそらく今、ここは結界みたいなもので外界と断絶しているんだと思う。援軍は期待できないかもしれない。


 イグナートは巨大な翼を広げ、複数の魔法陣を展開した。するとその周囲に、黒い点のようなものが出現する。


 闇。


 それは、人間の頭程度の大きさをした黒い闇の塊だった。球体状に圧縮されたそれが、まるで弾丸のようにこちらへと投射される。


 ぎゅうん、と空気を圧縮した衝撃波を感じた俺は、とっさに左方へと避ける。

 標的を逸れた黒球は、そのまま直進して数本の木を抉り、空気中に霧散していった。

 あれだけ簡単に木をくり抜いた威力だ。もし人間の体に当たってしまったら、肉どころか骨すらも残らないかもしれない。


 イグナートが指揮棒を振るうように手を動かすと、翼の周りに展開していた三つの黒球が一斉に動き出した。まるでフォークボールのような軌道を描くその球体は、前回のそれに比べて避けることが一段と難しくなっている。


「匠君はあたしが守るっ!」

 

 まるで正義のヒーローみたいに俺の前に立ったエリナ。


「ていやあああああああああああああっ!」


 光り輝くエリナの聖剣――ゲレヒティカイトは、まるでボールを打ち返すかのように黒球を打ち抜いていった。

 実際のところ、それは効果のある一撃だった。聖剣の相性が良かったのか、それともそれ自体が攻撃に弱いのかは知らないが、エリナの打撃をくらった黒球は一瞬にして消滅してしまった。


「闇を照らす光となれ! あたしの聖剣!」


「…………」


 イグナートはさらに黒球は放っていった。

 その数はどんどん増えていく。あまりの速度に俺も加勢に入りたくても入れない状況だった。

 だが、エリナはそれをすべて消滅させている。信じられない動体視力だ。彼女の腕が、まるで漫画か何かのように何本にも分かれて見えるほどに素早い。


 エリナの驚異的な才能を前に、イグナートの魔法は防げてしまった。この攻撃法は完全に攻略できている。


 今のところ、順調だ。

 エリナの防御は完璧だ。余裕すら感じられる。

 そして今、その気になれば俺は遠距離から〈白刃〉や魔法を放って攻撃したりすることもできる。

 でも、と冷静な俺は心の中で警鐘を鳴らしている。


 そもそもこいつを追い詰めてしまっていいのか?


 その気になれば空を飛べる、この地に集う兵士たちを大虐殺する魔法もある。そんな大量破壊兵器をもったテロリストみたいな奴に、竹やりでちくちく刺して挑発するようなことをしていいのか? こいつが本気になれば、俺たちなんて一ひねりなんだ。

 でもだからといって手加減してたら俺たちは殺されてしまう。こいつはそんな生半可な強さじゃない。


 エリナはそのことを気にしているようには見えない。ひょっとすると理解していないのかもしれない。

 俺だってあまり頭のいい方ではない。あれこれ考えていて、現状をどうにかできるとは思えない。

 決めた。ここはエリナに倣って……やろう。

 

「――〈白王刃〉っ!」

 

 俺はやや前方に出て〈白王刃〉を放った。無数の刃が魔族イグナートへと迫っていく。


「――〈光刃〉っ!」


 さらに、もう一つの聖剣による刃を放つ。かつて〈白き刃の聖女〉と俺が呼んでいる女の子からもらった、聖剣リヒトだ。


 イグナートは己の翼を畳み込み、自信の体をその中に隠した。大量の白い刃が縮こまる彼を傷つけていく。


 翼が、傷ついた。

 だがそれだけだ。とても致命傷ではないし、翼を開いたその中には……ほぼ無傷のイグナートが立っている。


「かかっ、かかかか!」


 イグナートは笑った。

 黒球をすべて消滅させたエリナに、心底感心しているのか。それとも俺の〈白王刃〉に思うところがあったのか。

 安易に質問して答えてくれるとは思えないが……。


「良い、良いのぅ。これほどとは。本音を言えば、あまり期待はしておらんかったのじゃがな。人間も、やる時はやるということかのう」

「お前は……何を考えている? 俺たちに、何を期待している?」


「――さあてと、では、ゆるりと……終わらせるかのぅ」


 その、瞬間。


 悪魔王イグナートが目を見開いた。

 光り輝くその右目・・は、まるでルビーか何かのように赤く発光している。これまでは普通の黒色で、光ってなんかいなかったにもかかわらず、だ。

 何かが、始まろうとしている。おそらくはこの戦いの行く末を変えるような、強大な必殺技。

 空を封じられ、究極光滅魔法メギドを使わなくてもなお、俺たちに勝てると確信できるほどの何か?


 光り輝くイグナートの右目から、黒い魔法陣が出現した。


「――黒死の幻影ファンタスマゴリア


 そう、彼は言った。

 究極光滅魔法メギドではない。黒死の幻影ファンタスマゴリアなんて、今まで聞いたことがない魔法。


 一見すると、怪しく光る魔法陣以外、特に変わったことはないように見える。むしろ、あいつを早く止めた方がいいんじゃないのか?


 と思い、体を動かそうとした俺は……その異変に気がついた。


 ……な、なんだ。

 そう、疑問に思うのと同時に、視界が揺れた。

 

 体が……倒れる。

 まずい……意識が……。


 俺は地面に倒れこんだ。隣には同様に力を失っているエリナが見えた。

 くそ……このままじゃ……俺は……。


 そして、世界が闇に染まった。


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